浜島直子<躾もできんのか!>不安に包まれていた20年春、5歳の息子が見知らぬ男性から怒鳴られて。このやりとりはどうすれば終わりになるのか困惑していると…
2025年3月27日(木)12時30分 婦人公論.jp
(写真提供:Photo AC)
「物価高や不景気の影響で娯楽を控えてる」「趣味がなく日常がマンネリ化」そんな日々を退屈に感じている方もいらっしゃるのではないでしょうか。そのようななか、「なんてことのない日々こそありがたく、そこに誰でもさまざまな思いがあり、そのどれもがそのままで正解なんじゃないか」と語るのは、夫や息子、愛犬との生活をつづるインスタグラムが話題のモデル・浜島直子さん。そこで今回は、浜島さんの喜怒哀楽が詰まったエッセイ集『キドアイラク譚』から一部引用、再編集してお届けします。
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「第二感情」
息子が5歳の頃、スーパーで男性に大声で怒鳴られたことがありました。
2020年の春、今までの当たり前が当たり前ではなくなってしまうような、得体の知れない不安に包まれてきた頃でした。
「小さな子とスーパーに行かない方がいい」というステイホーム中の暗黙の了解が出来上がる前だったというのは、今となれば私の言い訳ですが、そのときは「少しでも気分転換になれば」と一緒に出かけてしまったのでした。
息子と一緒にお肉を選んでいるとき、久しぶりにスイミングスクールのお友達に会えました。スイミングスクールは早々に中止になっていたので、息子とそのお友達は喜びの奇声をあげて、鉄砲玉のように走りだしました。あっという間の出来事でした。
ネズミが2匹、シュッと通り過ぎるような勢いで、お魚コーナーを駆け抜け、卵コーナー、惣菜、ドリンク、パンのコーナーまで円を描きました。これは純粋に追いかけてもダメだと、私は先回りしてお酒のコーナーで立ちはだかり、2匹のネズミを無事捕獲しました。
店が揺れるほどの大声で……
私は息子の目線までしゃがみ、なぜスーパーを走ってはいけないのか説明し、きつく叱りました。
その後一旦呼吸を整え、「誰かを怪我させてしまうことはもちろんのこと、あなたが怪我をしてしまったら、とても悲しい。悲しくて想像しただけで涙が出る」と伝えました。強張っていた息子の顔が緩み、目から涙がポロポロ溢れ「ごめんなさい」と言いました。そしてもう二度と走らないことをゆびきりげんまんして、抱きしめました。
『キドアイラク譚』(著:浜島直子/扶桑社)
その後の出来事でした。買い物を再開して息子と一緒に卵を選んでいると、大きな体格の40代くらいの男性が「お前が親か!」と、ものすごい勢いで近づいてきました。
私がこの子の親だと言うと「何やっとんのや! 店員さんも注意できんくて困っとったで! 親のくせに自分の子どもの躾もできんのか!」と、店が揺れるほどの大声で怒鳴ってきました。
雷に打たれたように
私は「本当にその通りです。申し訳ございません」と頭を下げ、謝罪しました。すると怒りの矛先が息子に向かい、「お前も謝れや!」と怒鳴りました。息子が小さな声で「ごめんなさい……」と言うと、「もっとちゃんと謝れや!」とまた怒鳴りました。
私が息子を抱き寄せ、一緒に頭を下げ「ごめんなさい」と言うと、「もっとちゃんと謝れ」「謝り方も教えてないのか」「躾がなってない」とまた怒鳴りました。もはやそれは人でありながら人ではなく、怒りの感情に隅々まで支配された物体のように見えました。
息子を守るようにしっかり抱きしめ、このやりとりはどうすれば終わりになるのか困惑していると、遅れてやってきた旦那が、「謝ってるじゃないですか」と、冷静な声で言いました。
男性は驚き、黙り、くるりと向きを変え歩きだしました。アイスクリームコーナーの角を曲がるとき、再び大きな声で「躾がなってへんなぁ〜!」と叫んでから姿が見えなくなりました。私たち3人は雷に打たれたように、しばらくそこに立ち尽くしていました。
「怒りは、第二感情」
以前アンガーマネジメントの専門家の方とお話しする機会があり、興味深いことを教えてくださいました。「怒りは、第二感情」なんだとか。悲しい、寂しい、恐ろしい、不安、心配などの「第一感情」があり、その感情が怒りに変化するんだそう。
あの男性の怒りの原因となった第一感情はなんだったのだろう。謝っても謝っても、まだ足りない、足りない、と訴える第一感情は。
そしてこのことを思い出すたびに、私の中にぼんやりと湧いてくる小さな怒り。この第一感情は、一体なんなのだろう。
※本稿は、『キドアイラク譚』(扶桑社)の一部を再編集したものです。
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