「障害がある子のための塾でバイトしていた学生時代。生徒が慕ってくれていたのに、私はその信頼に背き...」(神奈川県・50代男性)

2022年4月5日(火)11時17分 Jタウンネット

あの時、あんなことをするべきではなかった——。

神奈川在住のJタウンネット読者・Uさん(50代男性)は、大学生時代に自分がしたある「選択」を悔やみ続けているという。

彼は当時、障害のある子供達のための塾でアルバイトをしていた。児童たちには初めて会った時から「先生」と呼ばれ、慕われていたのだが......。

<Uさんの体験談>

今から40年ほど前のある日、私は大学の掲示板で塾講師の募集を見つけました。

アルバイト料の相場が600円〜700円位だった当時、家庭教師や塾講師は短時間で高額を稼げて、昼間のアルバイトとの掛け持ちができる貴重なもの。早速電話してみると、塾長さんと面談することになりました。

大学の最寄り駅の近く、裏路地に一本入った所。お世辞にも立派とはいえない一軒家の2階にその塾はありました。私が中へ入るといきなり4〜5人の子供たちが「先生ー!」と言いながらしがみついてきます。

みんな楽しそうな顔をしていましたが、この時に私は気づきました。ここは知的障害のある児童のための塾であると。

採用もすぐ決まり、授業も好評だった

その後、塾長さんと個室で面談して、採用はあっけなく決まりました。塾長さんは「だって、みんなもう『先生ー!』て呼んでますもんね」と言ってくれたのです。

その翌日からさっそく週2回をシフトに入れてもらい、昼間は中古車販売店で車を磨くアルバイト、その帰りに塾のアルバイトへ。

授業は教科書の復習や宿題の補助などではなく、社会や国語の一般的な話をするだけ。例えば、日本地図を黒板に貼って、今いるのはどこなのか、ここに行けば何があるのかといった、2年生から5年生までみんな一緒に楽しめるような内容です。

塾長さんは私が毎回行う授業を「楽しくていい」と褒め、子供たちも授業の終わりには「えーっ、もうおしまい?」と言ってくれました。

大学の友人に、塾講師のアルバイトを始めたことを話すと、みんな羨ましがります。

ただ私は彼らに、知的障害のある児童のための塾であるとは言えないままでした。

大学の仲間たちと歩いてると、正面から子供たちが

塾のシフトが入っていないある日、4限目の講義を受けた後に友人6人くらいで駅へ向かっていました。その中には気になっていた同級生の女子もいて、どうやって食事に誘おうかなどと目論見ながら歩いていた記憶があります。

通ったのは駅へ通じる雑多な商店街。少し先の左の路地にバイト先の塾があるというところで、私は道の前方から塾の子供たち4人が歩いて来るのに気づきました。

これから塾へ行くのだろう。私の顔を見たら、きっとみんなは「先生ー!」と言って抱きついてくる。そして、今日は私の番でないことを知って、残念そうに塾へ向かうことだろう。

そう思いながらも、私は目立たないように6人の最後部に移動して、うつむきながら集団に紛れました。

「恥ずかしい」——そんな思いがふっと脳裏に浮かんだのかもしれません。

私は子供たちに気づかれずにすれ違うのを、ひたすら待っていたのです。

「先生、目痛いの?」

次のシフトの時、塾に入るといつも通り子供たちが「先生ー!」と言いながら、私にしがみついてきてくれます。私は「ああ、なんてことをしてしまったのだ」と思い、耐え切れずに泣いてしまいました。子供たちは心配そうに「先生、目痛いの?」と言ってくれました。

時は流れて、私は大学の教員になりました。今でも大学の構内で「先生ー!」と明るい声で呼ばれると、このことが脳裏をよぎります。私は、子供たちの知らないところで、信頼に背いてしまった。そして以後、やはり彼らの知らないところで懺悔の念を抱き続けています。

誰かに伝えたい、あのときは「ごめんなさい」、ありませんか?

身近な家族や友達はもちろん、今はもう会うことのない疎遠になった知人、偶然出くわした見知らぬ人......そんな相手との、心の「しこり」のような思い出が誰にも1つや2つはあるものだ。

そこでJタウンネットでは、読者の皆様の「今さらかもしれないけれど謝りたいこと」を募集している。

読者投稿フォームもしくは公式ツイッター(@jtown_net)のダイレクトメッセージ、メール(toko@j-town.net)から、エピソードを体験した時期・場所、具体的な内容(どんな風に親切にしてもらったのか、どんなことで助かったのかなど、500文字程度〜)、あなたの住んでいる都道府県、年齢(20代、30代など大まかで結構です)、性別、職業を明記してお送りください。秘密は厳守いたします。

(※本コラムでは、プライバシー配慮などのため、いただいた体験談の一部を改変している場合があります。あらかじめご了承ください)

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