「それは飛行機ではない」ゾッとする最後のメッセージを残して失踪したパイロットは何処に消えたのか
2024年4月4日(木)12時0分 tocana
「それは飛行機ではない」——。それが行方不明になったパイロットが無線で最後に口にした言葉であった。
■謎の飛行物体の目撃報告後、行方不明に
46年前にセスナ機を操縦していたパイロットは、不気味な最後の通信を残して地球上から姿を消した——。
1978年10月21日午後7時、20歳のパイロット、フレデリック・バレンティッチは軽飛行機「セスナ182L」でオーストラリア・メルボルン南部のムーラビン空港を発ちキングアイランドに向けて飛行中であった。
バレンティッチはメルボルン航空局の航空交通管制に対し、高度約1400メートルを飛行中に自機の上空約300メートルに正体不明の飛行物体を目撃したと報告した。しかし管制官はその高度(約1700メートル上空)で認識できる航空機はないと返答したのだ。
謎の飛行物体についてバレンティッチは、光沢のある金属表面と緑色のライトを備えた4つの明るい着陸灯を備えた大型飛行物体であると説明した。
管制官はバレンティッチに謎の航空機の特定を求めたが、彼は「それは(既存の)飛行機ではない」と答えたのだった。
そして無線のやりとりの最中、彼の操縦するセスナ機のエンジンには問題が生じはじめた。彼の飛行機からの無線が途絶える直前に聞こえたのは“金属をひっかいたような音”だったと記録に記されている。
この直後、バレンティッチはセスナ機と共に行方不明になったのである。
■空軍から入隊拒否されていた
バレンティッチが飛行していた一帯はオーストラリアの「バミューダトライアングル」として知られる「バス海峡トライアングル」であった。ビクトリア州とタスマニア州の間の海域で、この海域では船や飛行機が消えることで悪名高い。バレンティッチのセスナ機もこの海域の餌食になったのだろうか。
またバレンティッチがなぜキングアイランドへ向かっていたのか、その目的も判然とはしていない。
バレンティッチは約150時間の十分な飛行時間を積み重ねていたが、オーストラリア空軍航空訓練隊の一員であったにも関わらず、資格を満たしていないという理由で2度もオーストラリア空軍から入隊を拒否されていた。
彼は民間パイロットになるための勉強もしていたのだが、民間免許試験に何度も落ちている。
その理由として考えられるのは、過去の無謀な飛行だ。彼は何度か飛行制限区域に侵入するなどして警告を受けていたのだ。
無所属のパイロットであった彼にこの時いったい何が起きていたのか。
■考えられる可能性は?
バレンティッチの消息が絶たれた後、当局は海と空の捜索を開始し、船舶交通、イギリス空軍機と民間航空機8機が1000平方マイル以上の海域を捜索した。
4日後、何も見つからなかったため捜索は中止されたが、1983年にエンジンのカウルの蓋がフリンダース島に漂着した。
詳細な検査の結果、航空安全調査局は「この部品は一定範囲のシリアル番号の間のセスナ182航空機からのものであると特定された」と結論付けており、これはそれがバレンティッチのものである可能性があることが示唆された。
では彼の失踪の考えられるケースとは?
●死の偽装
バレンティッチは計画的に失踪するために、ここで死亡事故を演出したのではないかという説が語られている。警察はバレンティッチの「失踪」時、出発地点に近いオトウェイ岬からそれほど遠くないところに軽飛行機が着陸したとの報告を受けていた。
●偶発的な墜落
また、彼が見た光は、墜落する前に海に反射した自分の光だったのかもしれないため、逆さ飛行中に方向感覚を失った可能性があるという。そして海面に突っ込むように墜落したというのだ。
ちなみにセスナ機で長時間逆さまに飛行するとエンジンが故障する可能性があるのだが、彼が操縦していたタイプの飛行機はそれを防ぐ重力燃料供給システムを備えていたはずであるという。
●自殺
自殺の可能性はあるものの、彼に近い医師や同僚は彼が自殺をするような人間ではないと否定している。
彼は傾いた地平線の「幻想」に騙されたのではないかという見解が2013年に示唆されている。彼が飛行姿勢を修正しようとしたとき、飛行機はスパイラル軌道に陥り海面に激突したという。
退役米空軍パイロットのジェームズ・マクガハ氏と作家のジョー・ニッケル氏によると、このスパイラルによって引き起こされる重力加速度によって燃料流量が低下し、エンジンに問題が発生したと説明している。
●UFOの攻撃
その日の報道では、空に緑色の光が不規則に動いていた目撃報告があり、UFO研究家らは彼がUFOによって破壊されたか誘拐されたのではないかと推測した。
UFO研究団体「Ground Saucer Watch」は、その日に撮影された写真には、オトウェイ岬灯台近くの空中を素早く移動する物体が写っていると主張している。
同団体のライター、ジェローム・クラーク氏は「中程度の大きさの、明らかに雲のような蒸気/排気残留物に囲まれた真正の未知の飛行物体」が存在したと主張したが、写真はこれらの主張を裏付けるほど鮮明ではない。
今に至るまで機体は発見されておらず、失踪事件の真相は謎のままだ。若干20歳のパイロットに何があったのか。やはり「バス海峡トライアングル」の魔の手に落ちたということなのだろうか。そして無線の最後に鳴り響いた“金属をひっかいたような音”は何に起因するものなのか。事件の解明は依然としてきわめて難しそうである。
参考:「LADbible」ほか