相続はしたものの持て余す実家…。「空き家対策」に先延ばしは厳禁。体力、気力のあるうちに情報収集と決断を

2025年4月13日(日)12時30分 婦人公論.jp


相続しても持て余すことも(写真提供:Photo AC)

これからは〈自分介護〉の時代へ。2040年には、単独世帯が900万世帯に達するという予測があります。特に、65歳以上の単独世帯数の増加が推測されています。日本の家族構造は大きく変容して、これまで頼りにしていた家族相互助け合いシステムが崩壊しています。高齢者を包括的に支援/実践している団体「リボーンプロジェクト」が、介護の事例と、専門家のアドバイスを編集した『じょうずに頼る介護 54のリアルと21のアドバイス』より一部を抜粋して紹介します。

* * * * * * *

相続はしたものの持て余す実家


実家の後始末:苦節10年、頼みの綱の妹が倒れ実家の維持はもう無理!

94歳の母を見送った10年前、実家の山、畑、150坪の宅地のほかに100坪の分譲用宅地もすべてを相続した和子さん(78歳)。

不動産のほかには数百万円の預金があるだけ。これが、明治から4代150年続いた実家の総財産だった。

相続人は和子さんと妹の明子さん(72歳)の二人姉妹。共同名義も考えたが、明子さんの「すべてお姉ちゃんに任せる」という言葉で和子さんは覚悟を決めたという。

それでも、分譲用として母が造成していた宅地は2年以内に500万円で売れた。こちらの現金は妹と折半したが、実家の後始末を考えたら残った資金でいつまで維持できるか、和子さんは不安だった。

中国地方の山間にある実家は、決して便利な場所にあるわけではないが、年に1度は妹家族が別荘代わりに利用したり、法事や墓参りのたびに親戚が集まる場所として重宝してきた。

「それもコロナ禍前まででした。母が存命中から水回りや建具の修繕、リフォームはやっていましたが、なんせ築90年。

家は何かと不具合を起こします。畳替えやふすまの張り替え時期を迎えて、その都度100万円単位で出金が続き、固定資産税や電気、ガスも維持しておこうと思うと、年単位で出費もかさみました。

いつまで維持すべきか悩ましい。妹と二人で何回か通ってぼちぼち遺品整理はしていましたが、ここ3、4年は訪れる人もなく、私も年をとって月に1度の実家通いも間遠になっていきました」

売却か賃貸か、空き家のままでいいのか


人が住まない家屋はあっという間に劣化していく。

留守を頼んでいた近所の人から「瓦がずれてるよ」とか「裏の木戸が壊れているみたい」「土蔵の壁が落ちている」などご注進が入ると、近所の人も不安なんだと申し訳なく思えてくる。

万一、不審者でも入り込み、火事でも起きたら……と気が重い日が続いた。そんなとき、妹が倒れたという知らせが届く。

「私の長男は外国暮らしで帰ってくる気配がありません。娘は、『お母さんの代でなんとかしてよ! 私は相続しないからね』と言い放ちます。妹まで倒れ、万事休すだと思いました。以来、実家の家屋だけではなく、山や畑やお墓の映像が重苦しくのしかかってくるようで、コロナ禍のうつうつとした気分と合わさって寝込みそうになりました。

私自身、相続したときは60代でまだ元気がありましたが、後期高齢者ともなると体力も落ちていく一方で、片道1時間半の実家までのドライブもおっくうになってきましたから、もう無理!って」

火事場の馬鹿力で売却活動開始


実家を守るのは母の遺言でもあった。「蔵の中のものを分散するべからず!」というのもあった。

「蔵の中も初めて見てみましたが、曾祖母や祖母のタンス類と漆器、塗り物、食器の類。どこかの料理屋に持っていこうかと思ったけど、需要もなければ走り回る元気もありません。

お宝や金塊があるわけでもなく(笑)、あとは母の着物くらいかな。昔の感覚ですから、財産と呼べるようなものでもありません。

母の気持ちは尊重したいけど、縛られるものでもありませんからね。妹もほとんど興味がないようで、もうわかった!私の好きにすると吹っ切れました」

売却すると決めたらまっしぐらの和子さん。半分は腹立ち紛れだったかもしれないと振り返る。まずは地元の不動産屋に査定してもらい、「売却は難しい」という返事をもらう。

次は自治体が扱っている空き家バンクで売却と賃貸の両面で探してもらうが、買い手は見つからず、賃貸に出すにも遺品の整理に最低200万円はかかるとのこと。

怒りが頂点に達したとき、話を聞いてくれる不動産屋が見つかった。


「売却は難しい」と言われることも(写真提供:Photo AC)

流通に値しない不動産は日本の社会問題に


「賃貸ではいつまでも管理責任は残るし、家だけを売却しても仕方ないので、売却の条件は、山や農地や納屋も蔵もすべてまとめて名義変更することにしました。

その代わり、金額はお任せ」別棟を撤去する費用、家の中の遺品を整理する費用と相殺できればいいということで不動産屋さんと交渉したところ、引き受けてもらえたという。

「妹がお墓だけは残そうというので、裏山の墓地だけは残すことにしました。石塔だけで5基も建っている墓地をどこかに移しても意味がない。100年も経てば、元の山に戻るんじゃないのという妹の意見に負けました(笑)」

まずは骨董屋を呼び、ぼろぼろの掛け軸や昭和初期の調度品、着物、花瓶、座卓などを引き取ってもらった。

売上総額は50万円。一切合切の売却額は300万円。あとの荷物を廃棄する費用が200万円。いまにも倒れそうな納屋の撤去に100万円。半年掛かりの実家売却プロジェクトで手元に50万円が残った。

「火事場の馬鹿力というか、怒りにまかせてえいやっと動かないと、実家の始末はできないものですね。だれからも見離された実家は哀れだとも思いますが、私にとっては心のくびきがとれたような爽快な気分。究極の断捨離ですね」

継承者のいない空き家、耕作者のいない農地、地主不明の荒れる山林……。流通に値しない不動産は人口が減少する日本の社会問題だ。

面倒なことは後回しにしているうちに寿命が尽きるケースもありそうだ。

「先延ばし」は厳禁 体力、気力のあるうちに情報収集と決断を


専門家のアドバイス:空き家対策は大プロジェクト

相続した実家をいかに利活用するかは大仕事です。「賃貸に出す」「売却する」「建物を活用して事業をする」など、まず早めに方向性を決めてください。

育った家、両親が慈しんだ庭など、情が絡む物件ですから、一筋縄ではいきません。それでも事業をするにはマーケティングが必要です。

早めに、相談相手として不動産屋、不動産コンサルタントなど専門家とコンタクトをとり、客観的な不動産価値を知っておくことも必要です。

賃貸に出そうとしても、売却しようとしても、うまくいくとは限りません。市場価値のない物件であれば時間も手間もかかります。民間事業者では収益につながらないので扱いにくいという物件もあります。

そんなときは、所在地の行政窓口で「空き家バンク」などに登録しておきましょう。

時間はあっという間に過ぎていきます。まずは、体力、気力のあるうちに動きだすことを肝に銘じてください。

※本稿は『じょうずに頼る介護 54のリアルと21のアドバイス』(太田出版)の一部を再編集したものです。

婦人公論.jp

「実家」をもっと詳しく

「実家」のニュース

「実家」のニュース

トピックス

x
BIGLOBE
トップへ