87歳一人暮らし・認知症の母が、火事で実家を全焼。片付けと老人ホームの費用が子ども3人に…。元気なうちに受けておくべきだった援助とは【2025マネー記事セレクション】
2025年5月4日(日)15時30分 婦人公論.jp
(写真提供:Photo AC)
2024年に『婦人公論.jp』で反響を得た「マネー」に関する記事から、今あらためて読み直したい1本をお届けします。(初公開日:2024年12月7日)
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厚生労働省が公表した「介護保険事業状況報告(暫定)」によると、令和6年8月末時点の要介護(要支援)認定者数は、718.5万人だったそう。そのようななか、介護事業を運営する株式会社アテンド代表の河北美紀さんは「長期戦の介護を乗り切るには、必要な情報を得ることと、そして事前の備えがとても大切」と話します。そこで今回は、河北さんの著書『介護のプロだけが知っている! 介護でもらえる「お金」と「保障」がすらすらわかるノート』から、「介護破産」を避けるための援助のポイントを実例とともにご紹介します。
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顔も見たくない! 自宅を全焼させた認知症の母が憎い
一人暮らしで来客がほとんどない87歳女性Nさん
千葉県で一人、年金暮らしをするNさん(87歳女性)は、10年前に夫が他界。
買い物には多少不自由があるものの、要介護申請はしておらず、なんとか日常生活を送っていました。
今は、年に数回遊びにくる3人の子どもたちと孫以外の来客はほとんどありません。
年齢の割に元気で頭もしっかりしていたNさんでしたが、年末に3人の子どもたちが集まったとき、「いつまでも元気でいてくれるといいけど、お袋ももう87歳。これからいつ介護状態になってもおかしくないよな」と子ども達が心配していた矢先のことでした。
初めてのボヤ騒ぎで気づいた母親の変化
年が明け、母親であるNさんの知人から長男に1本の電話がありました。「お母さんが火事を起こしたから、早く帰ってあげて」という連絡。驚いた長男が他の兄弟にも状況を伝え、急いで実家へ車を走らせると、長男の顔を見たNさんからこう言われました。
「お鍋の火をつけたまま、買い物へ行っちゃったみたい。今までは、火が上がることはなかったのに……」
母親からこれが初めてではないことも明かされました。
幸い燃えたのは台所の壁の一部。長男はその日実家に泊まり、母親のNさんと過ごしました。夜になり喉が渇いてふと冷蔵庫を開けると、「こんなに誰が食べるの?」というほど大量の食材が入っているのを発見。
しかも同じものばかり。大根4本、モヤシ8袋、ヨーグルト24個、3玉入りのうどん5袋、玉子3パック……。
冷凍と冷蔵の区別もわからなくなっているようで、冷凍用のうどんが冷蔵に入っていて消費期限が切れ、黄色く変色していました。
長男は母親に起きている「変化」を感じました。
MCI(軽度認知障害)のサインか、加齢によるものか?
翌日、母親のNさんがあまりにも平謝りするので、長男も「わかったよ。でも本当に火の不始末だけは気をつけてくれよ」と言って帰宅。
ただ、母親に変化があったことを深刻に受け止め、これからについて兄弟と話し合わなくてはならないと思っていました。
認知症のサインとして、慣れているはずの仕事や家事の段取りが悪くなる、時間がかかる、同じものを何度も買ってしまう、数分あるいは数時間前の出来事を忘れるということがあります。
しかしNさんの場合、ご本人に物忘れの自覚があることや、注意力の低下に関しても年齢なりと言えなくもないと長男が思ってしまったことで、対応が後回しになってしまったのでした。
実家は全焼、母親は介護施設へ。二重の支払いに苦しむ
その翌月の2月、Nさんは家を全焼させる火事を起こしました。
Nさんは火を消そうとして顔や腕に火傷を負い、入院。火は近所にまで燃え移り、延焼させられた隣家の住人は、子どもたちがNさんの監督義務を怠ったとして損害賠償を求めてきたのです。
(写真提供:Photo AC)
幸い、子どもたちに賠償責任はないと認められたものの、火災保険に加入していなかった実家の片付けにかかる費用約300万円、母親Nさんの入院費や隣家へのお詫びにかかる費用はすべて子どもたちが負担することに。
また住むところを失い、認知症状のあるNさんの一人暮らしは不可能であるとして、地方の特別養護老人ホームへ入所することも決まりました。
母親の火の不始末で、300万円の費用と毎月の老人ホーム費用17万円が3人の子どもたちの肩に重くのしかかりました。生活も一変、本業に加えてアルバイトをするようになった兄弟も。金策に追われる日々に、母親を恨む気持ちにもなったと言います。
しかし末っ子の長女だけは時々老人ホームに「お母さん、元気?」と会いに行くのだそうです。当のNさんは、なぜ自分が老人ホームにいるのかもわからず、「いつ帰れるの?」と尋ねます。そんなとき長女は「お家の修理が終わったらね」と明るく答えているそうです。
援助のポイント・対処方法
87歳とご高齢のNさん、要介護申請をしていなくても市区町村が提供できることはたくさんありました。ポイントは、まだ早い……ではなく「元気なうちに介護サービスに介入してもらう」ことです。
(1)地域包括支援センターが行う「相談」「介護予防体操」「コミュニティ」への参加。子どもたち以外との交流がないNさんも、認知症予防のために地域住人との交流で日々を活性化させ、メリハリをつけることができます。
(2)地域包括支援センターでは、日常の困りごとの相談も行うため、火の消し忘れには「IHコンロ」や「消し忘れ防止機能付きコンロ」への変更などのアドバイスができます。
また、要介護申請の代行を行い、買い物支援(同じものを買ってきてしまう)などの介護サービスが介入できるようなサポート制度もできます。
別居していると、親が普段どんな暮らしをしているか見えないことから「まだ大丈夫」「困っていることはなさそうだ」と思ってしまうのは無理もありません。
しかし、小さな変化は離れているからこそわかるもの。実家に帰った際に何かしらの変化を感じたら、早急にお住まいの地域包括支援センターへサポートを依頼しましょう。
※本稿は、『介護のプロだけが知っている! 介護でもらえる「お金」と「保障」がすらすらわかるノート』(実務教育出版)の一部を再編集したものです。
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