もうすぐ105歳。20年前に夫を亡くしひとり暮らしの日々が映画になった石井哲代さん。「なぜ家から畑に続く坂道を毎日草むしりするの?」と訊ねたら…
2025年4月18日(金)12時30分 婦人公論.jp
笑顔で語らう石井哲代さんを撮影する山本和宏監督(写真提供:中国新聞社)
前向きな言葉と素敵な笑顔が人気を博し、102歳の時に出した本がベストセラーになった石井哲代さんは、4月に105歳を迎えます。そんな哲代さんのひとり暮らしの様子を追った映画が公開。4年にわたり取材した監督の山本和宏さんが哲代さんの魅力を語ります(構成:玉居子泰子)
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まずはお茶を淹れておもてなし
石井哲代(いしいてつよ)さんとの出会いは約3年前です。『中国新聞』での連載が評判だった哲代さんをテレビの企画で取材することになり、ディレクターに指名されたのがきっかけでした。
さっそく広島県尾道市の山間の集落にあるお宅を訪問。67歳も下の私に対して、孫のように接してくれるその優しさにすぐに引きつけられました。
「まずはお茶を飲んで行きんせぇ」と、緑茶とお菓子でもてなしてくれ、われわれは機材をいったん置いて土間でひと休み。何度も通いましたが、1回で顔を覚えて、「カメラさん」と親しみを込めて呼んでくださいます。
毎回、哲代さんの淹れてくれる熱いお茶をいただきながらみんなで談笑する《儀式》を経てから撮影に入りました。
そんな和やかな取材を重ねて、哲代さんのひとり暮らしの様子を収めた映像は、1回20分のローカル枠で5回、全国ネットを含む特別番組が3回放送されました。
多くの視聴機会をいただいたと思いますが、それでも私はこのまま終わってしまうのはもったいない、と強く思ったんです。
放送の尺に収まらなかった魅力的なシーンを多くの人に観てもらいたい、その後の哲代さんの暮らしと言葉をもっと追いたい。そう思い、映画の企画を立ち上げたものが、このたび公開されることになりました。
1日の終わりに書き留めてきた日記の1ページ/(c)「104歳、哲代さんのひとり暮らし」製作委員会
100歳を超えても台所に立って料理に精を出す/(c)「104歳、哲代さんのひとり暮らし」製作委員会
草むしりができなくなっても
最初に撮影したのは、哲代さんが101歳の時。家から畑に続く坂道を、草むしりをしながら歩く場面でした。
溝に生えた雑草を腰をかがめて抜いていく哲代さんに、「なぜ、毎日草を抜いて歩くんですか?」と訊くと、「ふう(世間体)が悪いけぇな」とおっしゃいます。
若い頃、姑さんに言われて始めたんだそう。これは哲代さんにとって、亡きお姑さんとの対話であり、家を守る行為なのだと気づかされました。
20年前に夫を亡くされて以来ひとり暮らしを続けている哲代さんのもとには、親戚や近所の方々がしょっちゅう訪ねてきます。近くに住む姪御さんたちは生活面のサポートでほぼ毎日、そのほか哲代さんとお喋りをしにくる近所の人も少なくありません。
常に「ありがとう」とお礼を忘れず、なんでも「おいしい、おいしい」と、気持ちのいい食べっぷりを見せます。
哲代さんが繰り返し話してくれるエピソードの一つに、小学校時代に徒競走の選手に選ばれた話があります。運動会で拍手喝采を浴びたというエピソードは、鉄板中の鉄板。何十回も聞かせてもらいましたが、落語のように少しずつ洗練されていくのです。(笑)
しかし、103歳の時に足の病気で入院。普段泣き言を言わない哲代さんがひどくつらそうな表情だったので、とても心配しました。歩けなくなったらひとり暮らしを続けられない。そんな思いがあったからか、リハビリに大変力を入れておられました。
自慢の足が思うように動かなくなったことにさぞがっかりしているだろう。そう胸を痛めましたが、哲代さんは「100年よううた体じゃけえな」と言って、大事そうに足を慈しみます。
無事に退院し、しばらく姪御さんのおうちで過ごした後は再び自宅へ。さすがにすべて自炊だった以前と同じようには暮らせず、食事は宅食サービスを利用しながら姪御さんたちにも頼ることに。
日課だった草むしりも難しくなりましたが、それでも哲代さんは、「昔ほど(草が)憎らしいとは思いませんね」と言うのです。それどころか「ちょっとでも隙間があったら芽出しますから。強いもんですねえ草は」と、草にも敬意を払い、感心さえしてみせます。
できなくなったことを求めすぎない哲代さん。上手な老い方を見せてもらいました。
<後編につづく>
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