「ラスト1000mで『ここからだよ!』」金栗記念女子5000mで山本有真が2年半ぶりの自己新、田中希実も好アシスト
2025年4月19日(土)6時0分 JBpress
(スポーツライター:酒井 政人)
久保は昨年のタイムを3秒近く上回る
金栗記念選抜陸上中長距離大会2025の女子はまずグランプリ800mで1分59秒93の日本記録を保持する久保凛(東大阪大敬愛高)が好走した。400mを59秒で通過して、600mまでは想定通りのレースを披露。終盤は思っていたようにペースが上がらなかったが、2分02秒58で連覇を飾った。昨年の優勝タイム(2分05秒35)を3秒近くも上回り、1年間の“成長”を感じさせるレースになった。
今後は5月3日の静岡国際、同11日の木南記念に出場予定。東京世界陸上の参加標準記録(1分59秒00)の突破を目指していく。
グランプリ1500mには田中希実(New Balance)が登場した。今年は室内で日本新記録を4連発して、日本人では唯一、グランドスラム・トラックに参戦。数日前に帰国したばかりで、これが国内トラック初戦になった。
序盤は最後方でレースを進めると、2周目から順位を上げていく。しかし、最後はテレシア・ムッソーニ(ダイソー)に先着を許して、自己ベストより12秒遅い4分11秒31で2位に終わった。
「最近は練習よりレースが多い分、自分の状態がリアルタイムで世間に知られてしまう。(メンタル的に)しんどいところがあって、疲労は感じていないんですけど、ただ身体がついてこないところがありました」
1500mでは「ラスト800mを頑張る」というテーマを掲げていた田中。イメージ通りのレースはできなかったが、約2時間後にペースメーカーとして“大きな役割”を果たすことになる。
山本が約2年半ぶりの自己ベスト
アジア選手権(5月27〜31日)の代表選考会となっていたグランプリ5000m2組は田中希実(New Balance)がペースメーカーを担当。スタート直後から田中の背後にピタリとついたのが、山本有真(積水化学)だった。
「監督から『アジア選手権に出られなかったら世界陸上に出られないぞ』と言われていたので、絶対に自分が出るんだという気持ちでした。田中さんの後ろ姿を見ながら世界を想像して、ワクワクする気持ちで走ることができたんです」
田中は1000mを3分02秒、2000mを6分08秒、3000mを9分13秒と設定通りに引っ張った。そして残り3周で山本がペースアップ。4000mを12分19秒で通過した後、単独で切り込んだ。
「田中さんがラスト1000mで『ここからだよ!』と叫んでくれたんです。めちゃくちゃうれしくて、その勢いで上げることができました」
終盤の1000mを2分53秒で突っ走った山本が15分12秒97でフィニッシュ。2022年の国体でマークした自己記録(15分16秒71)を更新した。2着は信櫻空(横浜市陸協)で15分23秒82、3着は下田平渚(センコー)で15分38秒77だった。
山本は名城大時代に大学女子駅伝で活躍して注目を浴びた選手だ。積水化学に入社後は5000mでブダペスト世界陸上とパリ五輪に出場したが、「社会人では自分の納得いく走りができていなくて、自分の最高の走りは自己ベストを出した大学4年の国体です。あのときがピークだったのかなという思いがありました……」と涙声で振り返った。
そして、「このままではダメだと思っていたんですけど、やっと自分の思い通りの走りができました。それが凄くうれしいですし、まだまだ自分のピークはこれからだなという気持ちになりました」と2年半ぶりの自己ベストに笑顔が弾けた。
“再浮上”のきっかけをつかんだ山本は2年前に金メダルを獲得したアジア選手権の5000m代表が濃厚になった。さらに「セイコーゴールデングランプリ(5月18日)や日本選手権(7月4〜6日)でもしっかり結果を残して、自己ベストをもっと更新していきたい」と、次こそは“確かな自信”を胸に世界大会のスタートラインに立つつもりでいる。
ペースメーカーを務めた田中は笑顔
4000mでペースメーカーのミッションを終えた田中は、「自分もレースを一緒に走っている気持ちで、最後まで見守りたいと思いました」とトラックの近くから選手たちに声援を送った。そしてレース後、山本から“感謝の握手”を求められた。
グランプリ1500mの動きに不満を漏らした田中だが、同5000mを終えるとスッキリした表情で取材に応じた。今年9月に行われる東京世界陸上は1500mと5000mの両種目ですでに参加標準記録を突破しているが、もっと調子を上げていきたいという。
「できれば1500mと5000mで出場したいんですけど、このままでは両種目とも予選落ちは確実です。『出られたらいい』ではなくて、ちゃんと『決勝で勝負できる』世界陸上にしたい。そのためには転戦するグランドスラム・トラックやダイヤモンドリーグで(状態を)整えていけたらなと思います」
2021年の東京五輪は1500mで8位、2023年のブダペスト世界陸上は5000mで8位と世界大会で2度の「入賞」を果たしている田中。昨年のパリ五輪は決勝の舞台に上がることができなかっただけに、国内開催の世界陸上で“最高の走り”を目指していく。
筆者:酒井 政人