ついに、住宅ローンの変動金利が上昇! 繰り上げ返済で得するケース・損するケースは?
2025年5月9日(金)7時0分 マイナビニュース
メガバンクをはじめとする大手銀行は、4月から変動型住宅ローンの基準金利を引き上げました。物価上昇を背景に、今後も金利が上がる可能性がある中、「金利がまだ低いうちに繰り上げ返済をした方が良いのでは?」と考える人も多いでしょう。
そこで、金利の動向や住宅ローン控除の制度を踏まえつつ、繰り上げ返済のベストなタイミングについてシミュレーションしました。あわせて、繰り上げ返済をしない方がいいケースについても解説します。今後の返済計画の参考にしてみてください。
金利上昇時の2つの対策
住宅ローンを変動金利で借りている場合、多くの銀行は半年ごとに金利を見直すため、金利上昇時は返済額が増える可能性があります。ただし、元利均等返済の場合は、「5年ルール」と「125%ルール」が適用されることが多いため、急に返済額は上がりません。
5年ルールとは、金利が上昇しても5年間は毎月の返済額が変わらないルール、「125%ルール」とは、毎月の返済額が増えたとしても以前の125%までというルールです。
このルールが適用されると、毎月の返済額は抑えることができますが、返済額に占める利息の割合が増えるので、ローン残高がなかなか減らず、結果的に総支払額は増えることになります。つまり、月々の返済額が急激に上がらないように設けられたルールであって、金利上昇時の対策にはなりません。
金利上昇時には次の2つの対策を検討するといいでしょう。
低金利の住宅ローンに借り換えをする
現在の住宅ローンを一括返済して、別の金融機関で新たに住宅ローンを組む方法です。低金利のローンに借り換えられれば、毎月の返済額や利息を減らすことができます。
金利が上昇局面にあると、変動金利から固定金利への借り換えが注目されがちですが、固定金利は変動金利よりも金利が高めに設定されているため、今後大きく金利が上昇するケースでないとメリットを感じにくいでしょう。一方で、将来の金利変動の影響を受けず、家計の見通しを立てやすくなる点ではメリットとなるので、どのような点を優先するかを踏まえて判断するといいでしょう。
もう一つは、現在の金利よりも低い金利の変動型の住宅ローンに借り換える方法です。この場合、金利上昇リスクは残りますが、ローン残高が多い、残りの返済期間が長い、金利差が大きい場合は、借り換え効果が高くなるので検討してみるといいでしょう。その際、借り換えにかかる手数料も考慮しましょう。多くの金融機関のサイトでは、諸費用も含めた借り換えシミュレーションが用意されています。
繰り上げ返済をする
金利が今後上昇していくと予測した場合、繰り上げ返済によって元金を減らしておけば、将来の利息の支払いを減らすことができ、金利上昇のリスクを抑えられます。繰り上げ返済はすべて元金の支払いに充てられるため、総支払額を効率的に減らすことができます。ただし、繰り上げ返済も手数料(1回あたり無料〜数万円)がかかるため、それも含めて検討が必要です。
繰り上げ返済には、毎月の返済額は変えずに完済期間を短くする「期間短縮型」と返済期間はそのままで毎月の返済額を減額する「返済額軽減型」があります。どちらも将来の利息の支払いは減りますが、効果が大きいのは「期間短縮型」となります。繰り上げ返済は、ローン残高が多い早い時期に行うほど効果は大きくなります。
繰り上げ返済のタイミング
ここからは金利上昇時の対策の一つである「繰り上げ返済」について、いつ行うのが効果的なのかを考えてみたいと思います。
先述したように、繰り上げ返済は早い時期に行った方が効果があります。しかし、住宅ローンの返済開始から10年間あるいは13年間は、条件に当てはまれば住宅ローン控除が適用されます。
住宅ローン控除は、住宅ローンを利用して自宅を購入した場合に、一定の条件を満たすと年末のローン残高に対して0.7%が所得税などから差し引かれる制度です。借入金利が0.7%よりも低ければ、支払う利息よりも多くの控除が受けられるため、繰り上げ返済によって控除対象となる残高を減らすのは、かえって損に感じられるでしょう。
一方で、繰り上げ返済は早い時期に行うほど効果があるので、どちらを優先すべきか悩むところです。そこで、シミュレーションをして確かめてみたいと思います。
試算条件
借入額:3,000万円
返済期間:35年
金利: 0.5%
返済方法:元利均等返済
繰り上げ返済:期間短縮型
その他:住宅ローン控除は全額控除されるものとする
シナリオ1
当初から100万円ずつ10年間で1,000万円を繰り上げ返済する
シナリオ2
住宅ローン控除期間が終わった13年後にまとめて1,000万円を繰り上げ返済する
それほど大きな差ではありませんが、住宅ローン控除を13年間受けた後に、まとめて繰り上げ返済を行った方が控除額と利息軽減額の合計で得をすることがわかりました。
ただし、この試算は金利が0.5%と低金利のままであった場合の試算です。
返済開始から6年目に金利が1%に上昇した場合も試算してみましょう。
試算条件
借入額:3,000万円
返済期間:35年
金利:5年目まで0.5%、6年目から1%に上昇
返済方法:元利均等返済
繰り上げ返済:期間短縮型
その他:住宅ローン控除は全額控除されるものとする
シナリオ1
当初から100万円ずつ10年間で1,000万円を繰り上げ返済する
シナリオ2
住宅ローン控除期間が終わった13年後にまとめて1,000万円を繰り上げ返済する
返済開始5年間は金利0.5%、6年目以降に金利が1%に上昇した場合は、当初から100万円ずつ10年間繰り上げ返済をした方が、控除額と利息軽減額の合計で得する結果となりました。
これは、金利が控除率0.7%を上回ったため、住宅ローン控除の恩恵よりも繰り上げ返済の効果の方が高くなったためと考えられます。
控除率を目安に、それより金利が高くなってきたら、早めに繰り上げ返済をした方が効果的と言えます。ただし実際は、借入額や所得、手数料などによっても変わってくるので、金融機関のサイトに用意されているシミュレーションなどを利用して試算してみることをおすすめします。
繰り上げ返済をしない方がいいケース
繰り上げ返済は、返済額のすべてが元金の返済に充てられるため、利息の負担を大きく減らす効果があります。さらに、期間短縮型を選べば、返済期間を前倒しできるため、高齢期まで返済が続くリスクを避けることができます。
そのため、繰り上げ返済は無理してでも行った方がいいと思う人がいるかもしれません。しかし、次の3つのケースに当てはまる場合は、繰り上げ返済はしない方がいいでしょう。
生活防衛資金が足りないケース
生活防衛資金とは、予期せぬ出費や収入減少に備えるための貯蓄です。一般的には生活費の6か月分〜1年分はみておくといいでしょう。
この金額が足りないのに、繰り上げ返済に使ってしまうと、別のローンを借りる羽目になるかもしれません。住宅ローンは他のローン(教育ローンやマイカーローン、カードローンなど)に比べると非常に低金利であるため、無理に返済はせずに余裕資金ができてから返済を考えましょう。
団体信用生命保険に長く加入したいケース
団体信用生命保険(団信)は、住宅ローンの契約者に万が一のことがあったときに、住宅ローン残高がゼロになる保険です。
近年では、がんや脳卒中、急性心筋梗塞など、保障範囲が広い団信が登場しており、生命保険や医療保険の役割を果たすことから、できるだけ長く借りた方が得という考え方があります。
子どもの教育費がかかる時期は、繰り上げ返済は後回しにして、保障を重視した方がいいでしょう。
投資で住宅ローンの金利よりも上回るリターンを得られるケース
投資信託の平均利回りは2〜10%程度と言われています。仮に利回りが2%だったとしても、住宅ローンの金利がそれよりも低ければ、繰り上げ返済に使うお金を投資に回した方が得になります。
もちろん、今後ローン金利が投資のリターンを上回るような状況になれば話は変わってきますが、現在のような低金利環境では、無理に繰り上げ返済を急ぐ必要はなく、余裕資金があれば投資に活用するという選択肢は有効です。
まとめ
住宅ローンの金利が上がり始めると、「繰り上げ返済は今すぐすべき?」と気になる人も多いでしょう。確かに、金利が上がる前に元本を減らせば、将来の利息を抑えられるメリットがあります。
しかし、借り換えの効果や住宅ローン控除とのバランスも大切です。住宅ローン控除の控除率より金利が低いうちは、返済を急ぐより控除を最大限活用した方が得になることもあります。
また、あえて繰り上げ返済をしないという選択肢もあります。手元資金の確保、団信の保障など、住宅ローンを借り続けるメリットにも注目しましょう。
繰り上げ返済は、あくまでも余裕資金の範囲で行うことが基本です。検討する際は、実際にどれくらい効果があるのか、試算ツールなどを使って確認することをおすすめします
石倉博子 いしくらひろこ ファイナンシャルプランナー(1級ファイナンシャルプランニング技能士、CFP認定者)。“お金について無知であることはリスクとなる”という私自身の経験と信念から、子育て期間中にFP資格を取得。実生活における“お金の教養”の重要性を感じ、生活者目線で、分かりやすく伝えることを目的として記事を執筆中。ブログ「ファイナンシャルプランナーみかりこのお金の勉強をするブログ」も運営中! この著者の記事一覧はこちら