「ロック解除に30万円かかることも…」亡くなった家族のスマホが開けられない! 遺族が負担する“驚きの損失額”を実際に計算してみた
2025年4月21日(月)7時0分 文春オンライン
デジタル終活の必要性が叫ばれるようになってきたが、要となるのは何よりスマホだ。亡くなった家族のスマホが開けられないと、遺族はどんな損失を被るのか。一般に公開されている統計やアンケートをベースに損失額を計算してみた。(全2回の1回目/ 続き を読む)

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デジタル終活の要はスマホ対策
持ち主の死後、デジタルで管理している財産や契約の数々に遺族がアクセスできずに困るケースが相次いでいる。そうした事情から、2025年2月に独立行政法人国民生活センターは「 始めましょう!デジタル終活 」というトラブル防止策をアナウンスした。
このリーフレットにある通り、デジタル終活の要はスマホだ。故人のスマホが開ければ、デジタルで残る持ち物も全容が掴みやすくなるので何とかなるケースが多い。逆にロックがかかっていて開けないと困難を極めることになる。持ち主が設定したパスワードが分からなければ通信キャリアも手出しができないし、機種によっては一定回数以上間違えると強制的に中身が初期化されてしまう危険もある。
要にして最大のリスク要因となる故人のスマホだが、実際のところ、開けない場合に遺族が被る損失はいかほどになるのだろうか? 公にされている様々なデータから平均的な損失額を試算してみたい。
スマホに残される決済サービスの残高は1.2万円
スマホに閉じ込められがちな財産としては、まずはスマホ決済サービスが挙げられる。チャージ残高が残っていたら相続対象となるが、スマホが開けられないと利用しているサービスや残高を確認しようがないからだ。
ひとつのサービスに残る残高の目安は、キャッシュレス推進協議会の「コード決済利用動向調査」が参考になる。QRコード決算サービスを対象にした 2025年3月14日公表版 の値を元にすると、1アカウントあたりの月末のチャージ残高は、2024年の月末チャージ残高計の6671.67億円を月間アクティブユーザー数の8666.9万人で割って約7700円となる。
そして、複数のスマホ決済サービスを併用している人は多い。平均で何件のサービスを利用しているのか。こちらはMMD研究所が2023年2月に発表した「 スマートフォン決済利用動向調査 」を参照した。
資料によると、非接触型とQRコード型を含むスマホ決済サービスを入れている人は63%いて、そのうち6割強が複数のサービスを併用している。そこから1人あたりの利用数を計算すると、およそ1.6個となる。
これらのデータから、1台のスマホに残るスマホ決済サービスの残高の目安は7700円×1.6個=約1万2000円と計算できる。ちょうど財布に残された額と同じくらいかもしれない。今後は、サービスの利用者の増加やデジタル給与払いの普及に伴って残高が上昇する可能性もありそうだ。
預金口座が見つけられないと4万4000円損失の可能性
スマホが開けないために預金口座や金融資産が調べきれない場合の損失も考えたい。
紙の預金通帳が下火になりつつある昨今においても、給与の受け取りやライフラインの支払いなどに使われるメインバンクやサブバンクはデジタル環境を介さずに見つかることが多い。ただ、出入金の少ないそれ以外の預金口座の存在が見えにくくなっているのは確かだ。そこで3つ目以降の口座を見つける糸口がスマホの中にあると仮定する。
何件の口座が隠れているだろう? MyVoiceが 2023年4月に実施した銀行の使い分けに関するアンケート によると、銀行口座は3個所有する人がもっとも多いので、1口座が未発見となるケースが多いといえそうだ。
個々の口座に残る残高の平均額は、預金保険機構の「 休眠預金等移管金の納付の状況等について 」のレポートから推し量れる。国内の預金口座は10年以上手つかずで放置されると、各金融機関からこの機構に移管される。2023年度の総額は1600億円強、口座数は約711万件に及ぶ。1口座あたりの平均残高は2万2000円強となる計算だ。
つまり、1口座×2万2000円=2万2000円が埋もれたままになるかもしれない。
そのほかの金融資産をみると、株式と生命保険はスマホ外で打つ手はある。
株式や投信は、証券保管振替機構(通称ほふり)に開示請求して、 故人が運用に使っていた口座の開設先を突き止める方法 がある。相続人として依頼する費用は6050円。また、故人が加入していた生命保険の有無は、生命保険協会が提供している「 生命保険契約照会制度 」に頼ればいい。こちらは1件あたり3000円となる。
合計額は9050円だ。が、それで不確かな財産の有無が確定するのだからありがたい。FXなどの金融派生商品や暗号資産などは企業を横断する照会制度がないため、故人が利用していた取引所の目処がつかないと探しようがないのだ。
それらの財産を故人がスマホだけでやりくりしていた場合、スマホが開けられないと遺族が存在に気づくのは相当困難になってしまう。運用する人が一部に限られるため、一人あたりの損失額は試算はしない(できない)が、遺族としては無視できないものがある。
ロック解析は不確実。成功報酬ベースで30万円
そうした不安材料が嵩じたとき、あるいは相続絡みでどうしてもスマホの中身を確かめる必要があるとき、スマホのロック解除を請け負ってくれる外部サービスを頼る手もあるにはある。
しかし前述のとおり、スマホのロック解除は困難を極める。デジタル遺品サポートをうたう企業でも、スマホのロック解除は対象外とするケースが多い。対応してくれるサービスは少ないながらも存在するが、依頼できた場合も必ず開けられるとは限らない。費用もそれなりにかかる。数百件の対応実績がある企業にかつて平均費用を尋ねたところ、成功報酬ベースで30万円と教えてもらった。
さて、これまで挙げた逸失財産と経費の目安を合計すると、1万2000円+2万2000円+9050円で、約5万円となる。なかなかの額だ。何らかの切迫した事情があって外部に解析を頼むなら、さらに30万円ほど計上しなければならないが、回収できる確約はない。
ただし、損失はそれだけに収まらない。亡くなった後もなお残るサブスク等の支払い義務のことも考えなければならないし、残されたスマホの財産価値がロックの有無で変わってくる可能性があることも頭の片隅に置いておく必要がある。
〈 スマホがマイナス10万超の“負の遺産”に…死後に家族から恨まれないために、1分でできる「デジタル終活」の方法とは 〉へ続く
(古田 雄介)
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