多様化する中学受験…実施校が爆増した「新タイプ入試」「英語入試」に受かるのはどんな子か

2024年4月22日(月)20時45分 All About

2024年の首都圏中学入試は高止まりでしたが、今後はどうなるのでしょうか。首都圏では4科2科の入試のほかに、英語入試や多様な能力を測る新タイプ入試があります。その実際を取材しました。

写真を拡大

2024年の首都圏中学入試の受験者数は5万2400人。2015年から9年連続その数を増やしてきましたが、2023年から200人減となりました。しかし、受験率は前年より0.26%増の18.12%と、首都圏の小学校の児童数は6000人弱減っているのにもかかわらず、中学受験をする児童は増えたということです。
今後も児童数は減っていきますが、東京都に限ればむしろ増えていて、そのことが首都圏の中学入試に今後どう影響するのか、業界の人たちの間では意見が分かれているところです。

中学入試を取り巻く状況に変化

少しでも偏差値の高い学校を目指して、最難関校に多数の合格実績を出す大手受験塾に通い、ガッツリ受験に取り組む層は依然として存在します。これらの人たちの中には、大手塾だけで完結せず、そこの授業についていくために、さらに個別塾や家庭教師も利用する例も多いのです。実際港区在住で大手塾に通い、今年御三家の1つに合格をした子を持つ親は、「その教室では特に6年生になってから併用は当たり前だった」と明かします。
もちろん多くの子は、1つの塾で完結しているのですが、裾野の広がりとともに、昨年度は中堅校といわれる学校の受験者数が増えて、なかなか合格がもらえないという状況が生まれました。
あるベテラン塾講師は、「複数回受験を行う学校が増えたため、日程によって難易度も異なり、これまでなら合格できた子が合格できず、読みにくくなった」と言います。実際、同じ学校を受け続けて全敗になったケース、偏差値を下げてもなかなか合格が出ず4日目でやっと合格したというケースも多かったそうです。
そんな中、前回の記事でも触れたように、中学受験への意識は多様化しています。
偏差値重視ではなく、わが子にあった学校を選びたいという層や、公立中高一貫校との併願や新タイプ入試も活用して中学受験をする層、志望校に行けなかったら公立でいいと割り切っているライトな受験をする層など、受験に対する意識も多様になっているのです。このように裾野が広がっていることが、受験者数を増やしている要因ともいえるでしょう。
実際、筆者の周囲では、塾には通っているけれど、偏差値重視ではなくわが子にあった学校を選びたいという人も多く、その中で2科目受験と新タイプ入試といわれる受験を併用し、新タイプ入試で合格をもらったというケースがありました。
そこで今回は、新タイプ入試について深掘りしていきしましょう。

新タイプ入試ってどんなことをするの?

学校が独自に設計している新タイプ入試には、さまざまな種類があります。そもそもの始まりは、公立中高一貫校ができ、適性検査型といわれる入試が出現したことでした。
適性検査は、国立や私立の中学校が実施する教科別の学力試験とは大きく異なります。国語と社会を組み合わせた問題、算数と理科を組み合わせた問題など、教科横断型の問題が出題され、内容も知識そのものではなく、知識をどう活用するかが求められる思考力を要する問題になっています。また自分の意見や思いをまとめる作文や面接を課す学校もあります。
というのも、学校教育法施行規則において「公立の中等教育学校については、入学者選抜に学力検査を行わないものとする」と定められているからです。
適性検査で測られる力は、思考力や判断力、表現力など小学校で身に付けた総合的な力や、入学後の6年間の学習への意欲や適応力だといわれていますが、これは学習指導要領でうたわれている学力観に応じたものです。
公立で私学並みの教育が受けられる、受験塾に行かなくてもいいということで、倍率7〜8倍の人気となりました。その新しい受験者層を取り込もうと生まれたのが、私立中学の適性検査型入試でした。
私立中学でこの入試を実施する学校は、10年前の15校から150校に広がり、公立中高一貫校と私立中学の併願をする受験生も増えています。
10年前、いち早く適性検査型入試を実施した私立中学の取材に行くと、この入試で入ってくる生徒の入学後の伸びしろの大きさをよく聞きました。適性検査で測られる思考力、判断力、表現力を兼ね備えている生徒だからということでしょう。
その後、私立中学では思考力を問う独自の入試や、グループワーク型入試、得意なことをプレゼンする自己アピール入試、AL(アクティブラーニングの略)型入試、PBL(問題解決)型入試、レゴブロックを使って考えるものづくり入試、プログラミング入試など、さまざまなスタイルの入試が出現しています。これらを総称して「新タイプ入試」と呼んでいるのです。

英語入試の実施校は142校に

さらに、小学校で英語が教科化されたこともあり、ここ数年で急速に増えているのが、英語入試です。
こちらも実施校は2014年の15校から10年で142校へと拡大。英検(実用英語技能検定)などのスコアによる優遇制度を設けている学校も増えています。
優遇対象となる英検の取得級は、英検5級以上が22%、4級以上が26%、3級以上が35%となっています。小さい頃から英語を学んでいる子どもも増えていますが、英検を取得しているとアドバンテージになります。
このような機会を活用することで、習い事などをやりつつ、得意を生かして中学入試に挑戦することができるようになってきたのです。

グループワークでは振る舞いを見て、プレゼンではとんがりを見る

では、新タイプ入試はどのように行われるのでしょうか。私がこれまで取材してきた中から、いくつかを紹介しましょう。
横浜市にある横浜創英中学校では、2年前からコンピテンシー入試を実施しています。コンピテンシーは、「行動特性」という意味で用いられます。
横浜創英では、プレゼンテーションとグループワークという2種類の入試を実施していますが、それぞれ全く違う行動特性を見ています。
プレゼンテーション入試は受験生1人に対して試験官2人で行われ、受験生は5分の持ち時間の中で、「(1)これまで継続して自主的に取り組んできたこと・好きなことで自分の自信につながっていること」「(2)入学後の学校生活で(1)をどのように生かしていくか」をプレゼンテーションすることが求められます。評価の観点は2つ。
1つは、自分のとんがりを自分の言葉で言語化できるか。もう1つは、それを中学入学後どう生かしていくか。自身が社会に貢献できる可能性にも触れながら、ストーリー化していく力が求められます。
一方グループワーク入試では、学校から出された資料をもとに、原因を分析し、改善のためにできることをグループで話し合い、全体の意見として発表します。
その観点は、多様な意見を尊重できるか、ミッション(目的)に戻って、チームビルディングできるか。プレゼンテーションと違って、こちらは、とんがりは必要ありません。むしろ、与えられた社会課題を解決するために,周囲に働きかける力を大事にしながら、課題に向けた具体な対応策を社会に発信する力が求められているのです。
今、学校教育では個別最適化と協働的な学びがキーワードとなっていますが、横浜創英ではさらに、リアルな学びを通して、社会とつながりながら社会に貢献できる人を育てようとしているので、そうした教育への適性を見ているといえるでしょう。グループワークを取り入れた授業も多いので、「こんな生徒がいてくれたら、授業が活性化するな」と想像できる子が合格しているようです。

英検をアドバンテージに、熱意を表現して合格

また、近年人気が出ているドルトン東京学園中等部では、志望理由書と面接で測る思考・表現型入試を実施しています。
今年この入試で合格したある生徒は、小学5年時から個別指導塾で算数と国語の対策を始め、ミュージカルの習い事を続けながら受験をしました。結果、2科目一般入試では不合格でしたが、思考・表現型入試で合格。
幼児期から英語も習っていて、受験時には英検準2級を取得していたので、併願校は桐朋女子中学校の「Creative English入試」を受験。こちらも合格しました。
体験談を聞いたところ、「小学生から遅くまで塾に通って何年も勉強しなくてはいけない中学受験には疑問を持っていたけれど、自己表現をするのが好きな子どもで、自分のやりたいことができる環境は与えたいと思っていました。それができるのはやはり中高一貫校かなと思い受験をすることにしました」とのこと。
当初は特別なことをしなくても、その時の実力で入れるところに行けたらいいと思っていたそうですが、5年生になって塾に行ってみたら、ここから4教科の準備をして一般入試を受験するのはかなり大変だと分かり、2教科だけでチャレンジすることに。
「志望校に新タイプ入試があって、それを活用できたのは本当に良かったです。結果的に、子どもにあった受験ができたと思います」と話してくれました。

塾主導の中学入試に風穴を開けられるか

この方の場合は、とてもうまくいった事例ですが、新タイプ入試の募集人数はまだまだ少なく、横浜創英中学校やドルトン東京学園中等部のような人気校の新タイプ入試の倍率は高くなっていて、決して楽をして受かる入試ではありません。
しかし、小学生が何年も塾に通って競争にさらされ、習い事もやめて深夜まで勉強しないと突破できないという、塾主導の中学受験のあり方に風穴を開ける取り組みであるのは事実です。
両校ともに、これまでとは違う教育を行おうとしている学校ですが、人気が出ると偏差値が上がり、結果的に難化してしまうというスパイラルに取り込まれないように、新タイプ入試の定員を増やすなど、入試改革も進めてほしいものです。
大学入試の変化とともに、今後中学入試の多様化がどこまで進むのか、期待しながら見ていきたいと思います。
※数字は全て首都圏模試センター調べ
この記事の執筆者:中曽根 陽子
数少ないお母さん目線に立つ教育ジャーナリストとして、紙媒体からWeb連載まで幅広く執筆。海外の教育視察も行い、偏差値主義の教育からクリエーティブな力を育てる探究型の学びへのシフトを提唱。お母さんが幸せな子育てを探究する学びの場「マザークエスト」も運営している。『1歩先いく中学受験 成功したいなら「失敗力」を育てなさい』(晶文社)など著書多数。
(文:中曽根 陽子)

All About

「受験」をもっと詳しく

「受験」のニュース

「受験」のニュース

トピックス

x
BIGLOBE
トップへ