現役バリバリの社員が学生の「担任」になる理由 - NTT東日本のインターンシップの舞台裏を聞く
2025年4月22日(火)10時0分 マイナビニュース
大学生、特に3年生の多くが就職について本格的に意識し始めるのは、毎年6月にスタートするインターンシップの応募開始かもしれません。学生が企業の就業体験をするインターンシップは、2010年代中盤から一気に盛り上がってきました。
しかし、採用における青田買い目的という側面が強くなったのを受け、2年前の2023年(令和5年)には文科省・厚生労働省・経済産業省の三省合意によりインターンシップの定義が大きく変更されたのです。
実はかつて、1日で終わるような会社見学や仕事紹介であっても"インターンシップ"と称することができました。
しかしながら、三省合意を経てそうしたケースは「オープンカンパニー」「キャリア教育」といった形にカテゴライズされ、インターンシップと称する場合は就業体験を必須すると同時に、少なくとも5日以上の開催が求められる「汎用的能力・専門活用型」、2ケ月以上開催の「高度専門型」と定義づけられました。
つまり、説明会感覚で簡単に開催するわけにはいかなくなったのです。
応募者数が3倍に増加するなど、徐々に人気が広がる
他にもさまざまな条件が存在しているため、企業側もおいそれとインターンシップを始めるわけにはいかなくなっているのですが、そんな中であってもNTT東日本では特別な対応をせずとも、従来どおりのスタンスでインターンシップを行ってきました。
そもそも数年前から5日間のプログラムで、就業体験をベースにしたカリキュラムを組んでおり、「汎用的能力・専門活用型」というところでは既に条件にぴったり合っていたからです。
「職種をしっかりと知ってもらって、就労体験するという形は以前から進めていました。新基準では学生へのフィードバックを求めていますが、後日2日間のフォローイベントを行うなどしてしっかりとフォロー。ですから、三省合意のためにあえて策打ったという感覚は全くないですね」
とはインターンシップ運営に携わる総務人事部の佐近祐貴さん。その自信の背景には4年前に敢行したインターンシップ改革にあります。
「NTT東日本が目指したのは『リアルを超えるインターンシップ』 - 99%の参加者が『大変満足』だった新プログラムの中身でも詳しくレポートしていますが、これを機に多くの学生がNTT東日本を支持するようになり、昨年度はなんとインターンシップの応募総数が3倍に増えたと言います。
会社のファンになってもらえるようなカリキュラムを
これだけ高い支持を受けたのは、学生が大きく成長を遂げられる場を作ったから、の一言に尽きます。
採用に直結しなくてもNTT東日本のことを好きになって貰えればいい——そんな思いのもと、オンライン開催をベースにしながらも充実のカリキュラムを構築してきました。
昨年度を例にとってみると、「つなげてうみだすインターン」というタイトルで夏と冬にセールス&マーケティング、システムエンジニア、ネットワークエンジニア、データサイエンティスト/セキュリティ、サービス開発全5コースを開催しています。
特徴的なのは"担任制"を取っている点。
NTT東日本では社員のダブルワーク制度を導入しており、本業の20%の範囲で別業務を兼務できる形態を取っています。
このダブルワーク制度を活用して、現場の最前線で働く社員が6〜7名にグループ分けされた学生チームの"担任"としてインターンシップに参加し、キメ細かく支援する体制を構築しています。
学生が挑むテーマは、文字通りのリアルな内容となっています。総務人事部の田邉朔弥さんは解説します。
「各グループを一つの会社と見立て、仮想のプロポーザル案件の受注を目指して企画を作る、というのが大まかな内容となります。システムエンジニアで言えば、前回は教育をテーマに学校ICTを取り上げ、仮のクライアントにヒアリングして、課題を浮き彫りにして解決策を提示するのを目指してもらいました」
黒板とか机しかないような学校のICT化を図るべく、どういう機器を置いてWi-Fi環境を作るか、データセンターをどう活用するのか、生徒を守るために欠かせないセキュリティはどのような形にするのかといった観点から、学生たちは本物のシステムエンジニアさながらの提案を重ねていきました。
「リアルな仕事を追求するのが狙いですから、学生にとってはかなりハードに感じたかもしれません。ただ、担任であるダブルワークの社員には現場のトップレベルで活躍している人材ばかり。やり切れるかどうか不安に感じていた学生をしっかりとサポートしてくれました」(田邊さん)
社員が学生を"担任"することで、キメ細かくサポート
現場の社員が担任として手厚く学生をフォローするスタイルは、2021年にインターンシップをリニューアルしたときに誕生しています。
当初、担任制という形はシステムエンジニア向けの回だけで採用されていましたが、他職種に横に広がっていった背景には、NTT東日本で18分野の専門分野を軸とした人材制度を導入することになったのがきっかけだったと佐近さんは振り返ります。
「以前は事務系と技術系という大きな枠での採用していたのが、新人材マネジメントの導入を受け、応募の時点で職種ごとに細分化する"ジョブ型"に変わっていきました。その中では先行で走っていたSEのように、インターンシップの段階で業務のリアルを学生にお伝えして、自分がその職種に合うのか、しっかりと見定めてもらおうと考えました」
それに伴いよりいっそう、質の高いインターンシップづくりにチャレンジ。特に仕事以外の側面でも価値を伝えることに注力したと言います。
「就労型インターンシップというとどうしても"ワーク"というところばかり集中して伝えがちですが、"ライフ"も踏まえた人生設計を考えるチャンスを提供することで、キャリアを考える場を用意したのも支持が集まった要因となっているかもしれません」(佐近さん)
実際、5日間のインターンシップと2日間のフォロー期間で、社員の話を聞く時間を10数時間にわたって設けたそうです。さらに学生にキャリアデザインマップを描いてもらい、将来の自分の在り様を具体的にイメージしてもらうという支援も実施。仕事とキャリアについて体系的に考えられる場を提供しました。
参加者の口コミが応募数増加にもつながっていく
NTT東日本の業務を知ってもらって、ファンとなってくれる学生を増やすのが同社のインターンシップの狙いの一つです。
ところが、参加できるのは合計300名程度と非常に狭き門。限られた人数で果たしてファン拡大効果があるのか、疑問に思う人もいるかもしれません。
「参加した学生が研究室やサークルなどの仲間に、充実の内容だったと口コミで伝えていってくれたおかげで、インターンシップ未参加者もNTT東日本という会社に興味を持ってくれています。おかげで本選考のエントリーも倍々ゲームで増えていくような成果が見て取れています」(佐近さん)
質の高いインターンシップでエントリー数を増やしていったNTT東日本。次回記事では実際に担任をしたダブルワーク社員たちに、学生の反応を聞いてみました。
佐藤明生 企業の採用や広報・広告、SPツールにかかわる制作物でのライティングを得意とする。『マイナビ』では新卒の企業取材が主戦場。出版・広告・webを問わずに活動しており、旅行、地域情報、ライフスタイル情報誌、進学、週刊誌なども手がける。福島県会津若松市出身。 この著者の記事一覧はこちら