「魔法少女」60年の軌跡を振り返る...多様性を先取りしたガールヒーロー
2025年4月25日(金)13時0分 大手小町(読売新聞)
「魔法使いサリー」「ひみつのアッコちゃん」など、日本のアニメーション界で一大ジャンルを確立した「魔法少女」をテーマにした企画展「魔法少女の軌跡 -History of Japanese animation for girls-」が、横浜人形の家(横浜市)で開かれています。1966年に「魔法使いサリー」の放送が開始されてから約60年。キャラクターたちが各時代の視聴者をどのように勇気づけ、社会に影響を与えてきたのか、人形やフィギュア、おもちゃなどとともに振り返る内容です。

展示されているのは、おもちゃコレクターの愛原るり子さんのコレクションを借り受けたもので、その数300点以上。そのほかに秋山まほこ、恋月姫ら人気の人形作家が制作した現代創作人形も30体以上、並びます。
展示アイテムの解説は、横浜国立大学教授で、アニメなどのポピュラー文化が専門の須川亜紀子さんが手がけました。
魔法少女が主人公の国産アニメ第1号「魔法使いサリー」(1966〜68年)の原作者は、「鉄人28号」などで知られる横山光輝。魔法の国の王女が好奇心から地球(日本)にやってきて、小学5年生の「夢野サリー」として生活するという設定です。
最初は思ったことを遠慮なく口にしていたサリーが、徐々に相手を思いやるようになり、日本文化に沿った行動を身に付けていきます。展示では、作品中に登場するペンダント、ドレッサー(鏡台)、「水晶玉占いセット」など貴重なおもちゃが並びました。

「魔法使いサリー」の後番組として1969〜70年に放送された「ひみつのアッコちゃん」(原作・赤塚不二夫)の主人公・加賀美あつ子(アッコ)は、割れた鏡を供養したことで、「鏡の精」から、呪文を唱えると何にでも変身できる魔法のコンパクトをもらいます。
変身時の「テクマクマヤコン!」、変身解除時の「ラミパスラミパスルルルルル!」という呪文は放送当時、女の子たちの間で大流行。母親のファンデーションを秘密で持ち出してアッコちゃんのまねをする子が続出するなど、社会現象にもなりました。展示では、この魔法のコンパクトを模したおもちゃやメイクアップセットも展示されています
この二つの作品で、地球外からやってきた魔女が活躍する「サリー型」と、普通の女の子が魔法を授かって魔女になる「アッコ型」というプロトタイプが誕生。以降、多少の例外は含みながらも、この2タイプの少女が活躍する「魔法少女」アニメが量産されていきます。
転機を迎えたのは1992年に放映が開始された「美少女戦士セーラームーン」シリーズでした。原作者・武内直子は、魔法少女としてはキャラクター設定せず、プリンセスがコスチュームチェンジ(変身)をして仲間とともに戦うという新たなガールヒーローを誕生させました。展示では、三日月形のステッキ「ムーンスティック」や変身ブローチなどが所狭しと置かれています。
セーラームーン以降は、複数の女の子たちがかわいらしく変身して戦うスタイルが、魔法少女ものの定番になりました。その後も、バラエティーに富んだ魔法少女が続々と登場しています。2004年に放送が開始された「魔法少女リリカルなのは」は、友情ドラマや熱いバトルを描いて人気を集めました。シリーズが続くにつれて、ヒロインの「なのは」が、後輩を育てる指導者の立場になり、働く女性たちの苦悩や女性同士の連帯までもが表現されました。
2018年放送の「魔法少女 俺」は、アイドル活動をしている女の子たちが、変身するとマッチョな「魔法男」になってしまうという設定。固定化されたジェンダーイメージに揺さぶりをかけているような痛快作です。
「魔法使いサリー」に始まった魔法少女は、「魔法」「変身」という共通の要素を持ち、やがて、大きな敵との戦いという性格も帯びて、「ガールヒーロー」へと“成長”。さらに近年では、多様なジェンダー・アイデンティティーをもつキャラクターが登場するなど、大きな広がりを見せています。展示品からは、こうした魔法少女の系譜をうかがい知ることができます。
展示を企画した横浜人形の家の長尾千斗さんは「女性の生きづらさやジェンダー規範を“溶解”させたり、エンパワーメントさせたりしてきた魔法少女の文脈・歴史も展示で紹介しているので、ぜひ鑑賞してほしいです」と話していました。展示は6月29日まで。(読売新聞メディア局 市原尚士)