「有望だと思う会社を選んで投資」することの難しさを金融ジャーナリストが解説。コロナ禍での投資、ワクチンを開発したファイザーよりも、リターンの大きかった会社は…【2025マネー記事セレクション】
2025年4月27日(日)6時30分 婦人公論.jp
(写真提供:Photo AC)
2024年に『婦人公論.jp』で反響を得た「マネー」に関する記事から、今あらためて読み直したい1本をお届けします。(初公開日:2024年11月22日)
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金融庁が公表した「NISA口座の利用状況調査」によると、2024年6月末時点のNISA口座数は2427万6789口座で、2024年3月末から約105万口座増加しました。そのようななか、記者や金融ジャーナリストとして活動する、カナダ出身のニコラ・ベルベさんは「投資にリスクはつきもの。だが、投資しないのはもっとリスクだ」と語っています。そこで今回は、ニコラさんのベストセラー『年1時間で億になる投資の正解』から、一部を抜粋してご紹介します。
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レアな真珠の神話
周囲の誰かを適当にとっつかまえて株式投資の方法を尋ねたら、こんな答えが返ってくるだろう。
「そうだな、一番有望だと思う会社を選んで株を買い、あとはその会社が次のアップルやグーグルになるよう祈ればいいんじゃない?」
僕はこの考え方を「レアな真珠の神話」と呼んでいる。
この神話によると、投資家はみな水晶玉を持っていて、未来を読むスキルを持ち合わせた者は宝石を見つけられる。一方、未来を読めない者は失敗し、そのツケを払いながら生きなければならない。
みなさんの周りにもこの神話に騙された人がいるかもしれない。あなた自身がその一人かもしれない。
たとえば未来の可能性に賭けるというのはどうだろう。
今後数年にわたって世界を席巻するようなイノベーションを選び、その恩恵を享受するのに最適な位置につけている企業の株を買うのだ。小さなバイオテック企業、人工知能(AI)の企業、あるいは電気自動車の急成長にともなって需要が急拡大しているリチウム電池メーカーはどうか。
この投資方法の問題は、実績が惨憺(さんたん)たるものであることだ。未来の世界を変えるような発明を今日知ることができたとしても、その情報を使って金持ちになるのは難しい。
自動車メーカーへの投資
史上最も重要な発明の一つ、自動車の例で説明しよう。
20世紀初頭に自動車メーカーに投資した人々は、おそらく自分には未来が見えていると思ったはずだ。実際そのとおりで、今では14億台以上の自動車が世界の道路を走っている。
とはいえ自動車メーカーへの投資の多くは大失敗に終わった。アメリカでは20世紀に入って以降、2900社以上の自動車会社が登場したが、そのほとんどが消滅した。同業者に飲み込まれたケースもあるが、事業を支える収入が得られずに倒産したケースのほうが多い。
20世紀が終わる時点で、アメリカの自動車メーカーとして生き残っていたのはわずか3社だ(そのうちGMとクライスラーの2社は2007〜08年の経済危機の際、連邦政府の救済を受けてなんとか倒産を免れた)。
自動車に続いて、飛行機が数十億人の仕事や旅行のあり方に革命を起こした。航空業界の競争も激しく利益はほとんど出なかったため、投資家が望んだ結果を得られることはまれだった。
経済学者と投資家の言葉
新型コロナウイルス感染症のパンデミックが始まり、世界中がパニックに陥った頃には、ワクチンは開発できるのか、それも世界中の人を守るのに十分な量を生産できるのかは誰にもわからなかった。
先見性のある投資家が、ファイザーのような多国籍製薬会社が記録的な速さでワクチンを開発できると予見したとしよう。実際、まさにそのとおりになった。
(写真提供:Photo AC)
パンデミックの始まった頃にファイザーに1万ドルを投資していたら、1年後には1万1900ドルになっていた。そのときには同社のワクチンを接種しようと世界中で数百万人が列をなしていた。
一方、パンデミックの最中に数百店舗を閉鎖したスターバックスの株に同じタイミングで1万ドルを投資していたら、1年後には1万4200ドルになっていた。ファイザーに投資するよりリターンは20%も多い。
投資をしていると本当にストレスがたまるのはここだ。
株式市場でのワクワクするような投資話を聞くと、僕はいつも経済学者バートン・マルキールの格言を思い浮かべる。
「息せき切って話す人間からは絶対にモノを買うな」(1)。
ウォーレン・バフェットも同じようなことを言っている。
「拍手喝采を受けるような投資話には注意せよ。最高の投資はだいたいあくびが出るような話だ」(2)
バーのハッピーアワーではおよそ話題に上らないような、そしてメディアの注目を集めたり推奨銘柄になったりしないような退屈な会社が、株式市場では劇的に成長することがあるとバフェットは指摘している。
ドミノピザの成長
2000年代半ば、ドミノピザはニューヨーク株式市場に上場した。以来同社の株は数十年に一つあるかどうかのすばらしい成長を見せた。
上場時に1万ドルで買ったドミノ株の価値は、15年後には37万ドルを超えていた。
この情報を手に、タイムマシンに乗ってドミノがIPO(新規株式公開)をした日に戻れるとしよう。そして家族や友人にこう伝える。
「いいかい、何に投資するべきか教えてあげるよ。絶対にドミノピザの株を買わなきゃダメだ!」
おそらく笑いものになるだろう。
投資家はピザなんかに興味はない。バイオテック、リチウム電池関連株の話を聞きたいのだ。
そしてそうした銘柄と命運をともにする。
・参考文献
(1)Burton Malkiel, A Random Walk Down Wall Street: The Time-Tested Strategy for Successful Investing, W. W. Norton, 2009, p.264.(『ウォール街のランダム・ウォーカー──株式投資の不滅の真理』バートン・マルキール著、井手正介訳、日経BP 日本経済新聞出版、2023年)
(2)ウォーレン・バフェット、バークシャー・ハサウェイの株主への手紙、2008年版、P16。
※本稿は、『年1時間で億になる投資の正解』(新潮社)の一部を再編集したものです。