階段の上りと下り、実は筋トレ効果が高いのは…筋肉先生・谷本道哉「階段を避けてエスカレーターに行列、なんて本当にもったいない!」
2024年4月29日(月)12時30分 婦人公論.jp
テレビでも人気の谷本道哉先生いわく、快適に動ける体はたった1分あればつくれるそうで——
日本生活習慣病予防協会の発表によれば、いわゆる肥満に該当する人は男性 の33.0%、女性 22.3%(2020年12月発表)に。健康管理維持を考えれば、肥満対策はもはや日本人全員の課題とも言えそうです。一方、テレビでも人気の谷本道哉先生は70歳まで働けるカラダを維持することを目標に掲げ、各種の運動や体操を提唱してきました。その先生いわく、「階段を使わないのはとてももったいない!」そうで——
* * * * * * *
階段はスゴイ
運動不足がもはや「国民病」とも言えそうな昨今、あらためて注目したい日常でよく使う“場所”があります。それが階段です。
この連載の第一回でも触れましたが、階段を積極的に使うことは運動面で、とてもおすすめです。
階段の上り下りは筋肉に刺激を与えるトレーニングとしての効果が高いうえ、うまく使えば糖尿病予防効果まで期待できてしまうという優れた運動なのです。
2階や3階くらいまでならエレベーターやエスカレーターではなく階段を使いましょう。とはいえ、「階段を積極的に」といわれても、あまり体を動かしていなかったり、エレベーターに慣れすぎた人にとっては簡単ではないかもしれません。
そこで、階段をスイスイ上るのに役立つ、ちょっとした体の動かし方のコツを紹介しましょう。筋肉、腱のバネを利用した「反動動作」を使った階段の上り方です。
私たちの筋肉・腱には、弾性力、つまりバネ作用があります。これを上手に使うと、体を要領よくダイナミックに動かせるようになります。このバネ作用を生み出すのが「反動」を使った動きです。
バネを使った反動動作のポイントは、お辞儀をしてから体を起こす動作へと「動きを切りかえす瞬間」にポンと力を出すことです。「よいしょ!」という声が出ることがありますが、切りかえしで強い力を発揮するときに、つい声が出るのです。
ですから、「よいしょ!」は、反動を使った動きでうまく力を発揮するためのかけ声といえます。年寄りくさいと思わないでください。むしろその声こそ、活動的に体を動かせている証拠。「よいしょ!」をどんどん使っていただきたいと思います。
試しに、この反動動作を少し大げさにして椅子から立ち上がってみてください。反動をバネにしてすっと立ち上がるという感覚がよくお分かりになるはずです。
「よいしょ!」を使っての階段上り
階段を上る動作でも同様に反動で、腱のバネを利用できます。もちろん「よいしょ!」のかけ声はとても有効です。
まず、前足を着地するとき少し前かがみに上体を倒しましょう。そこから「よいしょ!」と切りかえして、上体を起こしながら階段を上ります。
椅子から立ち上がる動作で行うような、上体を前後に振る動きを交ぜた歩き方とでもいえば分かりやすいでしょうか(図2)。
反動動作は本来自然に行うものなので意識しませんが、2段跳ばしや3段跳ばしにチャレンジしてみれば、上体を前後させて、反動を使っていることが実感できるはずです。
この反動の動きを普段から意識して、強めにできるようになれば、ずいぶんラクにスイスイと階段を上れるようになります。階段を上るのも楽しくなる(?)でしょう。
慣れてきたら、1段跳ばしを普段使いにしてみてはいかがでしょうか。ただし、階段を踏み外せば思わぬ事故につながります。十分に気をつけて行ってください。特に雨で滑りやすいときの階段などでは絶対にやらないこと。
なお、人前で「よいしょ!」はちょっと気恥ずかしいかもしれませんね。そのときはやむを得ません、心の中でつぶやきながら階段を上るようにしてみてください。
下り階段も筋トレに
階段を上るのは大変ですが、下るのなら息も上がらないし、割合楽にできますよね。実際、エネルギー消費もあまり多くありませんので、有酸素運動としての効果は弱くなります。
しかし、階段を降りる動作は、意外なことに、筋力トレーニングとしての効果がとても高いのです。
階段を下りる動作では、着地の衝撃を筋肉で受け止めます。そのダメージで、筋肉に微細な損傷が起こりやすいという特徴があります。これが「筋肉痛」の原因となります。
実験で階段を上り続ける運動と下り続ける運動を比べてみると、翌日に強い筋肉痛を起こすのは階段を下り続けたほうなのです。この筋肉痛を引き起こす階段下りの刺激が、筋肉を発達させる有効な刺激の一つになるのです。
『学術的に「正しい」若い体のつくり方』(著;谷本道哉/中公新書ラクレ)
糖尿予防にも
階段を下りる運動を続けると、耐糖能という、血糖値の上昇を抑える働きが高まるという報告があります。これは着地動作において、速筋といわれる筋肉がよく使われることと関係しています。
筋肉の細胞には速筋と遅筋の二つがあり、平均として、5対5くらいの割合で構成されています。そして着地の衝撃を受け止める運動では速筋が優先的に使われます。というのも、着地のような動きは「とっさに体を守るとき」に必要な動作でもあるからです。つまり、素早く力を発揮できる速筋の出番となるのです。
そして速筋は糖質利用能力が高いため、速筋を鍛えることは糖尿病予防、改善に効果的となるのです。
駅などを歩いていると、階段はすいているのに、横にある下りのエスカレーターに行列ができている様子を見かけることがあります。
これはせっかくの運動の機会を逸しているわけでほんとうにもったいない。特に下りのエスカレーターの順番を並んで待つくらいなら、喜んで階段を使いましょう。
なお、階段を下りる動作は関節などへの衝撃が強く、膝や足首を痛めやすいという問題もあります。気になる場合はスピードをやや遅くして、一歩一歩確実に下りるようにしましょう。
筋肉への刺激という点でもゆっくりと丁寧に下りたほうが、しっかりと筋肉に負荷がかけられるので効果があがります。
※本稿は、『学術的に「正しい」若い体のつくり方』(中公新書ラクレ)の一部を再編集したものです。
関連記事(外部サイト)
- 『池中玄太』から44年。日本人の摂取カロリーは減ったはずなのに「80kgでは普通」になったワケとは…筋肉先生・谷本道哉「世界の全死亡のうち約10%がアレに起因」
- 少々のコツで起きている時間がすべて「運動」に変わる!<筋肉先生>谷本道哉流「1分でできる」快適に動く体のつくり方
- ステーキにケーキ、高脂質食品が太りやすいことは経験的にも学術的にも分かっているけれど…筋肉先生・谷本道哉が教える<食べていい脂質><よくない脂質>
- 筋肉先生・谷本道哉<40代に見える50代><60代に見える50代>は何が違うのか?「高齢だから筋トレしても手遅れ」ということは決してない
- 「鍛えていればいつまでも元気!」は残念ながら関節に当てはまらず…筋肉先生・谷本道哉流<関節の負担を減らすちょっとの工夫>とは