企業型DCは定期預金を選んでほったらかしはダメ...上手な活用法とは
2025年5月1日(木)6時0分 大手小町(読売新聞)
この春、企業型確定拠出年金(企業型DC)の制度を導入している会社に入社した人は少なくないことでしょう。企業型DCでは、加入の際、「よく分からないから」と定期預金で運用し、そのままほったらかしにしているという人も多いようです。企業型DCは、将来の老後資金を作るための有効な制度ですが、活用の仕方によっては、あまりメリットを享受できない可能性があります。今回は、企業型DCの上手な活用法についてお話しします。

まずは、そもそも企業型DCとは何かについて簡単におさらいをしておきましょう。
日本の年金制度には、大きく分けて国民年金・厚生年金といった「公的年金」と、公的年金に上乗せする年金を用意する「私的年金」の2種類があります。「確定拠出年金」は私的年金のひとつで、掛け金を自分で運用して、その成果を60歳以降に一時金または年金として受け取る制度です。
確定拠出年金はさらに、「企業型確定拠出年金(企業型DC)」と「個人型確定拠出年金(iDeCo)」の2種類に分けられます。
企業型DCがiDeCoと大きく違うのは、制度を導入している会社の従業員でなければ利用できない点です。また、iDeCoは自分で掛け金を支払いますが、企業型DCは、会社が掛け金を支払ってくれます。さらにiDeCoの場合は、数ある金融機関の中から自分で金融機関を選び、自分で商品を選んで運用しますが、企業型DCの場合は、会社が契約している金融機関があり、その金融機関でラインアップされている商品の中から自分で商品を選択し、運用します。
2022年に確定拠出年金の制度が改正され、企業型DCとiDeCoの老齢給付の開始時期の上限が「70歳まで」から「75歳まで」に延長されました。また、企業型DCの加入年齢が「65歳未満」から「70歳未満」に、iDeCoの加入年齢は「60歳未満」から「65歳未満」に延長され、企業型DCとiDeCoの同時加入が可能となるなど、使い勝手が良くなっています。
企業型DCで運用できる商品は、「定期預金」「保険(貯蓄型)」「投資信託」の三つです。具体的にどんな商品に投資できるかは、会社が企業型DCで契約を結んでいる金融機関によって異なります。先述したように企業型DCでは、会社が支払ってくれる掛け金を使って、自分自身で投資先を決めます。
これまでマネー相談や講演を通じてお客様と話をしてきた中で意外に多かったのは、「投資はよく分からないし、とりあえず定期預金でいいかな」と考え、定期預金を選択。その後はほったらかしの状態にしてあるというものです。
読者の中にも、勤務先に企業型DCがあり、どの商品を選んで良いのか分からないから、とりあえず定期預金を選択したという人は少なくないのではないでしょうか。
企業型DCを運営・管理する金融機関からなる「運営管理機関連絡協議会」の資料を見ても、企業型DCの加入者のうち、定期預金や保険といった「元本確保型」の金融商品を選んでいる人は約3割を占めています。
確かに定期預金は、身近な金融商品で、かつ元本が保証されているので始めやすいですが、投資信託に比べて利回りが低く、お金を大きく増やせません。また、定期預金や保険では、物価が上昇するインフレには対応できません。物価の上昇率より金利の上昇率が低ければ、定期預金や保険の資産価値は目減りしてしまいます。
現在は、金利が上がってきたとはいえ、大手都市銀行の定期預金の金利は0.275%。仮に金利0.2%の定期預金と利回り4%の投資信託でそれぞれ2万円ずつ積み立てをした場合、30年後には、定期預金での運用で742万円、投資信託での運用で1388万円に上り、リターンの差は約640万円にもなります。
すでに企業型DCを始めていてほったらかしている方はもちろん、これから企業型DCをスタートさせる新入社員の方でも、今から上手に運用するためのポイントをお話しします。
企業型DCでお金を増やしたいなら、「投資信託」を選択する必要があります。投資信託は元本割れする可能性はありますが、定期預金や保険よりも大きく増える可能性があります。金融庁の資料によると、20年間にわたって資産や投資地域を分散して積立投資を行った場合、運用成果は年率2〜8%の範囲に収まるとのこと。あくまでも過去のデータですが、「長期」「積立」「分散」の投資によって元本割れの可能性が抑えられ、堅実にお金を増やせる可能性が高くなります。
また、企業型DCの運用益は非課税です。お金があまり増えない定期預金や保険では、この運用益非課税のメリットをほとんど生かせません。投資信託を利用することで、お金が増えるうえに運用益が非課税になるのはダブルでお得です。
注意しなければならないのは、企業型DCでは、よく分からないからといって投資先を選ばずにいると、自動的に「デフォルト商品」が買い付けられてしまう点です。デフォルト商品とは、運用先の指定がない場合に自動的に買い付けられる商品のこと。定期預金や保険商品がデフォルトになっているケースも少なくないので注意しましょう。
信託報酬とは、投資信託を持っている間、継続的にかかる手数料です。信託報酬の率は商品によって異なりますが、できるだけ低いものを選ぶのがおすすめです。
たとえば、信託報酬が年0.2%のファンドAと、年1.0%のファンドBに毎月1万円の積立投資をしたとします(税金や信託報酬以外の手数料は考慮しません)。仮に、運用によって年3%ずつ増やせた場合、40年後の資産総額はファンドAの方が約150万円も多くなります。
投資信託を選ぶ時には、自分のリスク許容度を知ることが大切です。リスク許容度とは、投資の損失にどの程度まで耐えられるかという度合いです。
リスク許容度は、一般的には年齢・運用期間・収入・資産・投資歴・扶養家族の有無などによって異なります。また、客観的な条件を見たらリスク許容度が高い人でも、「リスクはそんなに取りたくない」と慎重なのであれば、その人のリスク許容度は低いと言えます。
リスク・リターンは投資先によっても異なります。投資信託の場合、債券より不動産、不動産より株式に投資している投資信託の方がリスク・リターンは高くなります。また、投資先の国でも、国内より先進国、先進国よりも新興国に投資している投資信託の方がリスク・リターンは高くなります。
つまり、自分のリスク許容度を知り、許容度に合わせた投資先を選ぶことが大切なのです。
以上の点を踏まえると、企業型DCで選ぶ候補となる投資信託は、「低コストのリスク積極型=全世界株、先進国株(外国株)に投資する投資信託」または「バランスよく増やす投資信託=バランス型(インデックス主体)」となります。
勤務先の企業型DCにあるラインアップから、これらに当てはまる投資信託で、信託報酬の安い商品に投資するのがおすすめです。
全世界株・先進国株に投資する投資信託を購入すると、世界の国々の成長の力を借りて資産を増やすことができます。世界に投資する株式の投資信託なので、比較的リスクは高いのですが、世界経済が成長を続ける限り資産を増やす期待ができるでしょう。
バランス型は、1本で複数の資産に投資する投資信託です。株式だけでなく債券や不動産なども組み入れているので、より安定してお金を増やすことが期待できます。
リスク許容度が高いなら全世界株・先進国株に投資する投資信託、リスクは取りたくないのであればバランス型の投資信託という具合に、自分が取れるリスクに合わせて選ぶと良いでしょう。
では、これまで定期預金で運用してきた人が投資信託で運用したいと思ったら、どうすれば良いのでしょうか。定期預金を投資信託に変更する方法には、「配分変更」と「スイッチング」という方法があります。
配分変更とは、今ある資産を売らずに毎月の投資金額の配分を変更する方法です。たとえば、企業型DCの掛け金が毎月1万円だとして、1万円全てを定期預金の購入に充てているとします。これを配分変更で、次の月から1万円で投資信託Aを購入するという具合に変更するのです(実際には配分割合を入力して変更するのですが、今回は説明を割愛します)。変更後は、投資信託Aを毎月購入することになります。
一方、これまで積み立ててきた定期預金を全て売って、商品をまるごと投資信託に変えたいという場合は、「スイッチング」という方法があります。
スイッチングは、これまで運用してきた商品を売却し、売却して得たお金で他の商品を購入すること。たとえば、定期預金を解約して、そのお金で別の投資信託を買うといったことができます。こうすることで、以後は投資信託で運用することができます。
企業型DCは、税制優遇の恩恵を受けながら、将来の自分の年金を作れる便利な制度です。ほったらかしにしておかず、堅実に運用してお金を増やしていきましょう。(ファイナンシャルプランナー 高山一恵)