韓国の手芸品・ポジャギ制作を55歳で始めて20年。一生続けたいと思える理由は?老眼鏡をかけながら、一針一針根気強く縫い上げる【2023編集部セレクション】
2024年5月14日(火)6時30分 婦人公論.jp
リビングは、吉本さんの作業場でもある(撮影:下村亮人)
2023年に配信したヒット記事のなかから、あらためて読み直したい「編集部セレクション」をお届けします。(初公開日:2023年07月23日)。
******包んだり、掛けたりして使うポジャギは、朝鮮半島で生まれた布と布、色と色を繋ぐ手芸品だ。奈良・生駒に住む吉本潤さんは、韓国で学んだポジャギ制作を続けて20年になる。一針一針、根気よく。そこには作る、使う、人と繋がることを楽しむ姿があった
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前編よりつづく
時間が許す限りちくちくと
4年間、私は一所懸命ポジャギ制作に取り組み、帰国前に一度、帰国後に一度、韓国で展示会を開くことができました。
日本にはポジャギのファンが多いので、たびたびポジャギ展を開いては皆さんのお目にかけているのですが、透け感や色合いの美しさ、縫い目の細かさを褒めていただくたび、私の心は喜びで満たされます。「ホントにポジャギっていいなあ」と、ますます好きになるのです。
年齢とともに視力が変化すると、手芸を趣味にしている人はつらくなるそうですが、おかげさまで私は平気なの。読書用とは別の老眼鏡をかけ、いつもこのリビングに陣取って、時間が許す限りちくちくしています。
一針一針、思いを込めて
白一色と思いきや、さまざまな風合いの布を繋ぎ合わせることで、表情が豊かになる
かといって、ポジャギのために夜なべをすることはないし、展示会の前の追い込みもしません。毎日、無理なく、好きなだけ。
夫からは「尻から根が生えている」と笑われるけど、作っているものを最初に見るのも夫なので、「あれ? 今度のはあなたらしくないね」などと、いつも感じたことを伝えてくれます。
布に織られた模様を生かして
こうして一生の趣味に出合えたのは、きっと幸せなことなんでしょう。同時に、ポジャギの背景にあるこの国の文化や歴史の勉強も大事にしてきたつもりです。
麻の最高級品、韓山モシで作ったポジャギ。極細の糸で織られたモシは「トンボの羽衣」とも呼ばれるほど目が細かく、ほかの麻とは比較にならないほどハリがある。憧れの生地だ
「作品を見てくださる方やわが家まで習いにきてくださる方にポジャギの魅力を伝えることは私の喜びでも、学びでもあります」
たとえば、韓国の無形文化財のひとつである韓山(ハンサン)モシという最高級の麻は茎を歯で割いて糸にし、気の遠くなるような作業を繰り返して織られるのですが、その産地の韓山を訪ねたこともあります。
日本の布でも面白いと思ったものは使う。沖縄の紅型で染められたコースターも、自然と溶け込んで
人との出会いの機会も増えました。制作を趣味にしている方と展示会を通じて知り合い、布や糸の買い出しをご一緒したこともあります。
東京の方々とはソウルで待ち合わせしたり。共通の話題はポジャギなので、夫の悪口を言う必要もないし(笑)、本当に楽しかった。
作品を見てくださる方やわが家まで習いにきてくださる方にポジャギの魅力を伝えることは私の喜びでも、学びでもあります。続けられる限り、楽しんで制作したいと思っています。
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