カリスマ家庭教師「きょうこ先生」に聞く 中学受験で幸せになれる家庭の共通点

2024年5月14日(火)11時45分 リセマム

中学受験専門カウンセラーで算数教育家の安浪京子氏(右)とリセマム編集長 加藤紀子(左)

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リセマム編集長・加藤紀子による連載「編集長が今、会いたい人」。第4回のゲストは、中学受験専門カウンセラーで算数教育家の安浪京子氏だ。

 安浪氏は、中学受験、算数、メンタルサポートなどに関するセミナーを開催し、算数力を付ける独自のメソッドは多数の親子から支持を得ている。カリスマ家庭教師として、たくさんの受験生親子とともに2月の歓喜に湧き、ときに悔し涙を流してきた「きょうこ先生」だからこそ言える中学受験のリアル。きれいごとなしの本音を語っていただいた。

少子化なのに親の不安で過熱する受験市場
加藤:少子化が進む中、首都圏の中学受験率は上がっています。長年、中学受験の現場に立たれてきたきょうこ先生が、最近の受験ブームで課題に感じるのはどのようなことですか。

安浪氏:正直、すごく良くない方向に向かっていると思っています。受験ブームが叫ばれて久しいですが、それでも10年くらい前まではもうちょっと牧歌的だったというか。王道は大手の集団塾のみで頑張るのが主流で、それに加えて入塾の低年齢化、先取りの加速化といった過熱ぶりはここ数年に顕著な傾向だと思います。

加藤:過熱の背景について、先生はどうお考えでしょうか。

安浪氏:少子化でひとりっ子も多く、1人の子供あたりに投下される教育資金が増えていること、コロナ禍を経て、親のSNSでの情報収集に拍車がかかったことなどいくつかありますが、2021年以降、四谷大塚が『予習シリーズ』を改訂したことも大きいとみています。

加藤:『予習シリーズ』は、中学受験に臨む多くの子供たち、いわゆるボリュームゾーンが使っているメジャーな教材ですね。

安浪氏:はい。そもそも受験塾のカリキュラムは子供の発達段階を無視して作られているので、ただでさえしんどいのに、さらに難しく、というか進度が早くなったのです。

 算数でいうと、多くの塾では抽象観念である「割合」や「速さ」を5年生で扱いますが、予シリでは4年生で扱います。まだ4年生だと、そういった抽象観念を捉えづらい子の方が圧倒的に多いのに、です。また、ハイブリッド単元である「水量とグラフ」も4年生に前倒しになりました。点が取れないとどうしても親は焦ってしまいます。中には早々に個別指導や家庭教師を投入する家庭もあり、それをSNSなどで見聞きした低学年の親が不安になって先取り学習をする、という良くない循環を招いているのかなと。でも、不安になって先取りしたところで、必ずしも伸びるわけじゃないんですよ。

加藤:その子のペースに合わないことをしているわけですもんね。発達や理解度に応じてゆっくりやっても、最後はちゃんと仕上がるはずですよね。

安浪氏:うーん…そこが難しい所でもあるのですが…。中学受験が残酷なのは、6年生の1月、2月に入試があるという期限付きの勝負だということ。その子のペースで伸びてはいても、それが入試に間に合うかどうかは別の話です。だからそのギャップを埋めようとして先取りをしたり、親が付きっきりで教えたり、個別指導をつけて下駄を履かせようとしてしまうのです。

加藤:なんとか間に合わせたい、学力を押し上げたい一心でドーピングするような感覚でしょうか。

安浪氏:確かに4年生までは先取りしていればテストでそこそこ点が取れるんですよ。でも、5年生になると難度も勉強量もアップし、だんだん無理が効かなくなるんです。

 しかも、低学年の頃からそんな調子で無理をさせていると、当然ながら子供は疲弊してしまう。低学年から受験塾に行くことが一概に悪いとはいいませんが、親としては、偏差値やクラス昇降といったわが子の立ち位置を突きつけられると、単なる習い事感覚では済まなくなるんですよね。むやみな塾通いをおすすめはしないというのはそういうことなんです。

加藤:親が早い段階から前のめりになると、子供は息切れしてしまいますね。

安浪氏:そう思います。親が下駄を履かせることで合格できても、その後が本当にしんどい。

加藤:親があの手この手で押し上げていると、中学に入ってからも不安は解消されず、また塾に通わせたり、家庭教師をつけたりして、結果的に子供の自律の芽を摘んでしまうことになりかねません。子供の資質を見ながら、成長のペースに合わせて、少しずつ手を離していく。難しいですが、親は長い目で我が子の成長を捉え、見守り続けることが大事ですね。

昨今の受験ブームで中堅校が難関校化
加藤:学校選びの傾向についてはいかがでしょうか。

安浪氏:ドーピングをしてまでより偏差値の高い学校を目指すという価値観も根強い一方で、受験校選びの視点は多様化し、「我が子に合った学校を選びたい」という家庭が増えています。

 今年でいえば、四谷偏差値でいう45〜55くらいの中堅校が激戦でした。従来は、持ち偏差値がそのゾーンの子なら、さらに上の60前後の学校に挑戦する流れがありましたが、「この子に合ったところで良い」と上を目指さなくなった家庭が増え、もっと下位からこのゾーンを目指していた子たちが合格しにくくなったんです。

加藤:学校選びの価値観が多様化した結果、ボリュームゾーンの学校に志願者が集まったという構図ですね。少子化への危機感もあって、今の私学は教育改善に意欲的なところばかりですから、カリキュラムが難関校に勝るとも劣らない魅力的な学校はたくさんあります。

安浪氏:中堅校の合格最低点が軒並み上がり、ふるいにかけるために問題も難化していく傾向は今後も続いていくと思います。一方で、中学受験の厄介なところは、頭でわかっていても気持ちがもっていかれるんですよ。学校名や偏差値がすべてじゃない、うちは冷静でいようと思っていても「3か月で偏差値10アップ」「有名中学への最短合格」とか見ると、あっさり崩れちゃうんです。

加藤:お金をかけようと思えばいくらでもかけられる。

安浪氏:そこを逆手にとって、中学受験は儲かるからと全然関係のない業種が続々と参入しています。利益重視で教育理念のない受験サービスやお金儲けのためのセミナーもたくさんあるので、保護者の方々はリテラシーを高める必要があると思います。

 中学受験は、どれほど親が頑張っても実際に試験を受けるのは子供です。ところがSNSでは、親の「私が熱心に伴走したおかげで合格をつかみました」といったエピソードにあふれているわけです。皆さんが目にしている情報は氷山の一角だということも意識してほしいですね。

花が咲く時期は子供によって違う
加藤:私、自宅でプランターに花を植えているんですけれど、昨年の秋に植えた苗の中に、ツボミも付かないものがいくつかあって。半年近く経っても葉っぱのままなので、植え替えようかなと思っていたら、暖かくなってきたせいか、一気に花を咲かせるようになったんです。植えて早々、花が咲いていた苗よりも生き生きとし始めて、それはもう本当に綺麗で。「あぁ、これって子供の成長と同じだな」ってしみじみ思ったんですよね。親が期待を手放した頃に咲く花もたくさんある。大学、社会人と長い目で見たら、中学受験の結果が全てじゃない。そんなことを、子育てが一段落した私のような立場から伝えていけたらなって思います。

安浪氏:親が先導して下駄を履かせるというのは、まだ十分に根が張ってないのに促成栽培させるようなもので、無理に咲かせようとしても、その花は小さかったりすぐ枯れちゃうんですよね。中学受験というのは、じっくり進むような遅咲きの子だと、もしかしたら入試本番には間に合わないかもしれない。でも努力したことは間違いなく、中学、高校、そしてその先の人生で必ず花開くってことは、声を大にして伝えたいですね。

加藤:中学受験では、「これだけやったのにダメだった」という話はあまり表に出てきません。それに、SNSでたまたま目にしただけの「n=1」の個人的な成功事例が我が子に合うとは限りません。きょうこ先生は、中学受験で周りに流されないために「我が家の軸」が大事だとご著書の中に書かれていますが、この「我が家の軸」はどうやって定めればいいのでしょうか。

安浪氏:中学受験を取っ払って長い人生で見たときに、その子がどのような人間になってほしいか、子供の良い面を伸ばすにはどうしたら良いかを考えること。そうやって軸を定めたうえで、本当に我が子には中学受験が必要か否かを判断してほしい。そして受験をすると決めてからも、進む道がその軸からずれていないかを常に考えてほしいと思います。

大切なのは、親子で目指す方向が一致していること
加藤:きょうこ先生が見てこられたたくさんの生徒さんたちの中で、これは「幸せな中学受験だったな」と感じたのはどのような受験ですか。

安浪氏:しっかりとお子さんと向き合って受験を終わられたご家庭は、結果に関係なく中学受験を感謝の気持ちで締めくくれている気がします。仮に第一志望校にはご縁がなかったとしても、「子供が自分で計画を立て学習する習慣や、自分で考えて困難を乗り越える経験ができたことが良かったと思います」とか、「中学受験を通して我が子が自信をもてたことが何より嬉しいです」といった振り返りができたら、それはやってよかった受験なのかな、と。

加藤:中学受験のプロセスそのものがお子さんの成長につながったという、人間的な成長のところですよね。そのうえで、志望校選びについては何かアドバイスはありますか。

安浪氏:まだまだ人生経験の少ない11歳、12歳の子供にとって、志望校を選ぶというのはすごく難しいと思います。ただ、これだけは大切にしてほしいと言えるのは「親子で一致していること」ですね。

 私の知人に、お子さんの学校見学にとことん付き合って、13校目でやっと本人が行きたいと思う学校に出会った方がいます。この方のすごいところは、親として「ここが良い」と思えた学校があっても、決してそれをお子さんには伝えなかったこと。お子さんが選んだ志望校を応援すると腹をくくられているところが、さすがだなと思いました。

加藤:親が気に入っても子供がピンとこないという話は、男子も女子もよく聞きます。逆に、子供がこの学校が良いと言っても、親が「いや、ここはないでしょ」みたいに水を差してしまうこともありますよね。ただ、親としては、子供の成績が伸びてきて、塾から「ワンランク上の学校を目指せますよ」なんて言われると揺れ動くのもわかります。

安浪氏:偏差値表や模試の数字上ではワンランク上と簡単に言えますが、学校によってカラーは全く変わってきますからね。以前私も「本人は渋幕に行きたいと言っているのに、塾や家庭教師から『桜蔭を目指せるのに、なぜ受けないんだ』と勧められて戸惑っている」という相談を受けたことがあります。

加藤:先生はどう回答されたんですか?

安浪氏:第一志望は渋幕で良いけれど、それだけ学力があるなら桜蔭を目指してほしいと伝えました。というのも、桜蔭に受かる力がある子は渋幕に受かります。桜蔭は、やはり本物の学力がないと受かりません。プロ家庭教師としては、十分な力があるのだから、桜蔭に受かるだけのぶれない学力を身に付けられるまで頑張ってほしい、と。でも、これはあくまでこのお子さんのケースであって、常に「より上の学校目指して勉強しよう」と話したり薦めたりするわけではないです。子どもと志望校の兼ね合いによります。

加藤:最終的に子供が行きたい学校に進学することになっても、そこに合格するために高みを目指した努力は、子供の自信につながります。志望校選びでは、合否の結果だけでなく、そこに至るプロセスを大事にしたいですね。

中学受験のスタンスについて夫婦間ですり合わせを
加藤:たくさんのご家庭を見てこられて、夫婦関係や親子関係が険悪にならないようにするコツはありますか。

安浪氏:これをいうとみなさん顔をしかめるんですが(苦笑)、やはり夫婦でちゃんと話し合わないとダメですよね。まずは、塾を検討しはじめたタイミングで、「なぜ塾に入れるのか」は必ず夫婦で話し合ってください。塾にも色々ありますが、もし中学受験塾を検討しているならば「友達が行くからとりあえずうちも」ではなく、昨今の中学受験事情について情報収集をして、どういうスタンスで塾と付き合っていくかというところまで、夫婦で話し合ってほしいのです。

加藤:「塾が合わなかったら辞めればいい」と簡単に考えがちですけど、中学受験からの撤退って、親が思う以上に子供の心に傷を残すこともある。子供なりに、「塾についていけないから辞めた」というレッテルを貼られたくないという思いがあることを、親は知っておく必要があると思います。

安浪氏:中学受験ってそんなに甘いものじゃないので、夫婦でちゃんと覚悟を決めること。ただ、子供の良いところが潰れそうとか、その子らしさが削られているなと感じたら、軌道修正をすることも大事です。

 それから、お子さんの意見をきちんと聞き、資質を見誤らないことです。お子さんがどんなに頑張っても、思うように成績が伸びないことはあります。そこで親が強引にもっていこうとすると、親子関係はこじれてしまう。そんな時こそ、親が思い描いた志望校に固執せずに、切り替えられるご家庭であれば大丈夫です。

加藤:「親のための受験になっていないか」という点は、常に胸に手をあてて考える必要がありますね。子供には「あなたのため」と言いながら、実は親のエゴではないか、と。そうやって、家族で同じ方向を向いて受験に臨むことが、「やってよかった」と思える受験につながるのでしょうね。

 最後になりますが、中学受験に挑む保護者に向けて、きょうこ先生からメッセージをお願いします。

安浪氏:受験生とはいえ、まだ小学生だということを忘れないでいてください。自ら勉強に向かい、志望校に向かって闘志を燃やす…そんな理想の受験生像を手放すことです。偏差値やクラス、志望校判定をエクセルシートで分析するよりも、子供の顔と心をきちんと見て、「子供が笑顔でいるために何ができるか」を見失わないでいただけたらと思います。そして、受験を終えたら、偏差値や志望順位は忘れて、ご縁があった学校のことを親子で大好きになってほしいですね。

加藤:本日はありがとうございました。


 小学生の子供にとって、精神的にも体力的にも負担が大きい中学受験。安浪氏の著書『勉強とメンタルの悩みを解決!【決定版】中学受験をするきみへ』は、受験に立ち向かう子供の悩みに徹底的に向き合い、同時に保護者への具体的なアドバイスが詰まった“お守り”のような本だ。ぜひ、受験生親子のみなさんに読んでいただきたい。

リセマム

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