「自分のキャリアのために副業でもしたほうがマシ…」「一般社員の給与のほうが高い場合も」。管理職の魅力が減少している理由とは

2025年5月16日(金)6時30分 婦人公論.jp


(写真提供:Photo AC)

「働き方改革」が広がり、労働環境はここ数年で急速に変化しました。そのようななか、「今、管理職として働くということが、『罰ゲーム』と化してきている」と話すのは、パーソル総合研究所 主席研究員/執行役員シンクタンク本部長の小林祐児さん。そこで今回は、日本の管理職の異常な「罰ゲーム化」をデータで示し、解決策を提案する小林さんの著書『罰ゲーム化する管理職 バグだらけの職場の修正法』より一部を抜粋・再編集してお届けします。

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縮んできたメンバー層との賃金差


管理職の「数」と同時に、もう一つ減ってきたものがあります。管理職の「賃金」です。正確に言えば、管理職ではない一般職層と管理職層の賃金の差、つまり管理職になることで期待できる上積み金額が、長期的に減少してきているのです。

厚生労働省の賃金構造基本統計調査(下図表)から計算してみると、1981年には、部長の賃金は非役職者の約2.2倍だったのに対し2022年には約1.9倍に、同様に課長の賃金は非役職者の約1.8倍から約1.6倍に、係長の賃金は約1.5倍から約1.3倍ほどに下がっています。


<『罰ゲーム化する管理職 バグだらけの職場の修正法』より>

賃金構造基本統計調査は集計・推計方法の変更があるため、連続性は正確ではありませんが、大きな傾向は掴めます(※1)。

日本には労働組合による「春闘」と呼ばれる春季労使交渉が毎年あり、最近も、世界的インフレで物価高が続く対応として組合交渉が盛んに行われ、数十年ぶりの高水準で賃上げが行われました。その交渉の場でも、組合員ではない管理職の賃金は議論の優先順位が下がります。そのため賃金の伸びへの圧力が低い状態になります。

「逆転現象」さえも起きる


また、雑な賃金設計が行われている企業では、一般社員の給与と管理職の給与の「逆転現象」さえも起きる場合があります。残業手当のつかない管理職と、手当のつく一般社員を比べて、残業が多かった月には、一般社員が管理職と同等かそれ以上の給与をもらうことが、会社によっては頻繁に起こっています。

「責任は高まるものの報酬に反映されない。仕事も定時で終われず、サービス残業もあるので後悔しかない」(47歳、男性、サービス業)


『罰ゲーム化する管理職 バグだらけの職場の修正法』(著:小林祐児/集英社インターナショナル)

「一般的な通常の会社なら係長までは平社員扱いで時間外手当などもつくのに、係長以上は管理職だということで手当もつかないのに責任だけが重い」(51歳、男性、運輸・郵便業)

これらの賃金逆転は、単純に言えば賃金設計の「失敗」ですが、ここまでわかりやすい失敗ではないものの、次のようなことも起こりえます。管理職とメンバー層の「タイパ逆転」の現象です。「タイパ」とは最近よく言われる「タイム・パフォーマンス」(時間対効果)の略称です。

「タイパ逆転」現象


仮に、そこそこ残業が多めのメンバー層(非管理職)がいるとします。この人の基本給が26万円だとして、残業を月に25時間して、休日手当・深夜手当含め残業手当を6万円、合計32万円の給与を貰ったとします。この人の給与を時給換算すると、1時間あたり1592円になります。

一方で、同じ会社の管理職が貰っている月額給与が、役職手当含めて36万円だとします。残業しないメンバー層とは10万円の差額が設定されており、この時点では「賃金逆転」は起こっていません。

しかし、多くの会社で管理職は所定労働時間を超えて労働をしており、残業手当はつきません。例えば残業を50時間した場合、この管理職の給与は時給換算すると1592円になります。先程の「そこそこ残業が多めのメンバー層」と同じ金額になってしまいました。これ以上に管理職の残業が増えれば「タイパ逆転」現象の出来上がりです(下図表)。

メンバー層に比べ、管理職のほうが責任も重く役割も多く、負荷が高いにもかかわらず、まったく同じタイム・パフォーマンスになるとしたら? いくら管理職層が、表面上は高い給料を貰っていても「苦労が報われている」と考えるのは難しいでしょう。「自分のキャリアのために副業でもしたほうがマシだ」となってしまいそうです。

「自分の仕事を時給で計算したら……」


もちろん処遇は月額給与だけではなく、賞与も関係してきます。しかしほとんどの企業で、管理職の賞与は成果と強く紐付いています。管理職が成果を上げるためにより残業を増やせば、やはりタイパは悪くなります。また、会社全体の業績が反映される場合には、管理職個人がコントロールできる範囲を大きく超えていきます。

これらは簡易的なシミュレーションですが、こうした「タイパ逆転」現象は世間で多く起こり、管理職の魅力を減じています。「自分の仕事を時給で計算したら、とてもやってられないよ」という声は、多くの管理職から聞かれますし、もはや「タイパには目をつぶることにしている」という人も多く目にします。企業は、この「タイパ逆転」が自社でどのくらい起こっているのか、月額給与と残業時間のデータを使って一度計算してみることをおすすめします。意外なほど多くの従業員に起こっていることに気がつくはずです。

(※1)大井(2005)では、1979年から2004年までの管理職と一般職の相対賃金を調べ、 同様の結果を得ている。また、この論文では各種公式統計における「管理職」の範囲や定義についても詳細な議論が行われており、詳しく知りたい方は参照されたい。
大井方子“数字で見る管理職像の変化”日本労働研究雑誌 2005,545:4-17

※本稿は、『罰ゲーム化する管理職 バグだらけの職場の修正法』(集英社インターナショナル)の一部を再編集したものです。

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