日本では一般職より管理職のほうが「死亡率」が高いという事実。<管理職の罰ゲーム化問題>はもはや会社経営だけでなく社会的なものに…

2025年5月17日(土)6時30分 婦人公論.jp


(写真提供:Photo AC)

「働き方改革」が広がり、労働環境はここ数年で急速に変化しました。そのようななか、「今、管理職として働くということが、『罰ゲーム』と化してきている」と話すのは、パーソル総合研究所 主席研究員/執行役員シンクタンク本部長の小林祐児さん。そこで今回は、日本の管理職の異常な「罰ゲーム化」をデータで示し、解決策を提案する小林さんの著書『罰ゲーム化する管理職 バグだらけの職場の修正法』より一部を抜粋・再編集してお届けします。

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管理職の死亡率の逆転現象


2019年、英国の疫学・公衆衛生専門誌「Journal of Epidemiology and Community Health」に、衝撃的な研究が発表されました。その内容は、「日本では一般職よりも管理職のほうが死亡率が高い」というものです(※1)。

この研究は、日本・韓国・欧州8カ国(フィンランド、デンマーク、イングランド/ウェールズ、フランス、スイス、イタリア、エストニア、リトアニア)の過去25年間の変化について国際共同研究をしたものです。日本からは東京大学の研究者が参加しています。

この研究では、欧米では一般的に管理職や専門職の死亡率がその他の職種よりも低いのに対し、日本においては1990年代後半に管理職男性の死亡率が上昇したことが報告されています(※2)(下図表)。

普通に考えれば、管理職のほうが、健康に割けるリソースが多くなりそうです。経済的な余裕があるほど、ジムに行ったり健康的な食事を摂ることができそうですし、社会的地位が高いほうが、健康への意識も高くなりそうです。

しかし、日本は死亡率という点でその関係が逆であることが示されたのです。

先進国の中でもトップクラスの自殺者数


男性の管理職の死亡率は1980年代から1990年代中頃にかけては他の職種に比べて低い状況でしたが、1990年代後半を境に死亡率が大きく上昇し、他の職種と傾向が逆転したということが報告されています。経済的な不況とともに、管理職の死亡率が逆転してしまったのです。

特にそこで増えた死因が「自殺」だと言われています。2020年の日本の自殺者数は2万1081人で、先進国の中でもいまだにトップクラスです。


『罰ゲーム化する管理職 バグだらけの職場の修正法』(著:小林祐児/集英社インターナショナル)

また、バブル後の自殺者急増は「経済・生活問題」を抱えた中高年男性によるものが大きいことがわかっています。経済的不況とともに働き盛りの管理職の自殺が増えてしまったのです。

せっかく管理職に昇進したにもかかわらず、寿命を縮めてしまうのであれば、「罰ゲーム化」という現象は「苦労するね」「大変だね」程度で済まされるものではなくなります。この因果関係の細かな解明は、今後も強く求められるものです。

高負荷の管理職のストレス


パーソル総合研究所の調査でも、負担感が高い状態で働いている管理職は、そうでない管理職と比べて、心身の健康状態が目に見えて悪化している様子が見られます。

こちらはあくまで本人の主観的な症状ではありますが、「ストレスを感じることがある」「疲労が溜まっている」という感覚的なものから、「睡眠不足」「肥満」「生活習慣病」といった症状まで、すべて負担感の高い管理職のほうが多くなっています。

管理職の「罰ゲーム化」は、会社の経営上の問題だけでなく、人の人生を丸ごと狂わせる心身へのダメージにつながりかねないということです。

人は、ビジネス・パーソンとしてはいつか引退していきますが、体と心は一生涯で一つです。この「罰ゲーム」が、自殺や病気といった重大なリスクを高めるのであれば、それはすでに大きな社会課題です。

共感が得られない「管理職問題」


管理職の苦境は、環境問題や貧困問題のような社会的イシューとしての「わかりやすさ」や「共感されやすさ」を持ち合わせていません。多くの管理職は、組織の序列では上位者であり、賃金も多くもらっています。多くの人は、そうした管理職の負荷に対して無関心です。管理職問題はあくまでビジネスや会社運営上の問題であり、「管理職を救う」といったミッションは、社会的なものになかなかなりません。

しかも、その共感の得られなさからか、管理職本人もなかなか声を上げようとしません。プライドが邪魔して助けを求められなかったり、組合員ではなくなったため労働組合に相談できなかったり、家族を支えたり会社の部下を守るために、様々な重圧を受けながら孤独にこの問題に対処することは、むしろ悲劇につながりかねません。

(※1)東京大学プレスリリース「日本と韓国では管理職・専門職男性の死亡率が高い」http://www.m.u-tokyo.ac.jp/news/admin/release_20190529.pdf

(※2)田中宏和・小林廉毅“管理職の健康—他職種との比較、時代的変遷、今後の課題”日本労働研究雑誌2020,725:82-98
※ここで言う管理職とは、日本標準職業分類(大分類)における管理的職業従事者であり、生産や販売の現場ではなく、オフィスにおいて、専ら経営体の全般又は課(課相当を含む)以上の内部組織の経営・管理に従事するものを言います。
Tanaka, H., Toyokawa, S., Tamiya, N., Takahashi, H., Noguchi, H. and Kobayashi, Y. (2017)“Changes in Mortality Inequalities Across Occupations in Japan: A National Register based Study of Absolute and Relative Measures, 1980-2010, ”BMJ Open. 7(9): e015764

※本稿は、『罰ゲーム化する管理職 バグだらけの職場の修正法』(集英社インターナショナル)の一部を再編集したものです。

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