またしてもボイジャー1号に奇跡!20年以上停止していた推進器(スラスター)の復活に成功

2025年5月20日(火)8時0分 カラパイア


NASA/JPL-Caltech


 星間宇宙を旅する老ボイジャー1号は、これまで何度も深刻なトラブルに見舞われては乗り越えてきたが、またも奇跡的な復活を果たしたそうだ。


 今回ボイジャー1号が直面したのは、姿勢制御の推進器に燃料を送るチューブの詰まりだ。これが詰まってしまえば、アンテナを地球に向けられなくなり、1号は音信不通となり宇宙の闇に消えてしまう。


 この大ピンチを切り抜けるため、NASAジェット推進研究所のチームが選んだのは、20年以上機能していなかった推進器(スラスター)を復活させるというリスキーな作戦だったが、見事これに成功した。


地球との交信に欠かせない推進器(スラスター)


 1977年に打ち上げられたボイジャー1号と2号は、地球からもっとも遠くにある人工物だ。すでに太陽圏を脱出し、誰も見たことがない星間宇宙を時速約5万6000キロの猛スピードで疾走している。


 そんなボイジャー1号と2号だが、両機が地球と連絡を取るためには、アンテナを地球に向けていなければならない。そのための姿勢制御に使用されるのが推進器(スラスター)だ。


 推進器は一つだけでなく、メインの回転用推進器・予備推進器・軌道変更用推進器があり、これらを交代で使いながら、機体を上下左右に振ったり、回転(軌道変更用推進器でこれはできない)させたりして、アンテナを地球に向ける。


 推進器を交代で使うのは、それによって燃料チューブの詰まりを予防するためだ。年をとると人間の血管が詰まるように、ボイジャーの燃料チューブも推進装置を繰り返し噴射するうちに詰まってしまう。


 それを先延ばしするために、複数の推進器を利用して、それぞれの稼働を減らすのだ。



ボイジャー1号のイメージ図 / image credit:NASA, ESA, and G. Bacon (STScI)


ボイジャー1号、メイン推進器に異変


 ところが2004年、ボイジャー1号のメイン推進器に異変が起きた。内蔵された小型ヒーターに電源が入らなくなったのだ。


 だが当時のエンジニアたちはヒーターは修復不能と判断し、以降の姿勢制御は予備推進器によって行われるようになった。


 この判断には、ボイジャー1号がそれから20年以上も稼働するとは誰一人想像していなかったことも関係するだろうと、ジェット推進研究所のカリーム・バダルディン氏はNASAのブログ[https://www.jpl.nasa.gov/news/nasas-voyager-1-revives-backup-thrusters-before-command-pause/]で語っている。


 だが老いたとはいえ、ボイジャー1号は今も健在だ。


 まさにガンダムでいうところの「まだだ!たかがメイン推進器をやられただけだ!」とボイジャー1号は根性を見せたのだ。


 これまで幾度もピンチに陥ってきたボイジャー1号、宇宙の闇の中で正気を失う[https://karapaia.com/archives/52331275.html]こともあったが、それでもがんばって太陽系の外に広がる星間宇宙を旅している。


 想定よりも長く活躍してくれたのは素晴らしいことだが、それはそのまま機体の老朽化につながる。


 このままいけば、予備推進器の燃料チューブは8月までに詰まってしまうと予測された。


 そこでボイジャー1号のチームは、一度は諦められ、20年以上機能停止していたメイン推進器を再起動させることにしたのだ。



ボイジャー1号のインタラクティブ3Dモデル[https://eyes.nasa.gov/apps/solar-system/#/sc_voyager_1]


20年以上停止していたメイン推進器を復活させることに成功


 故障の原因を再検証したところ、何らかの原因で、ヒーターの電源供給回路上のスイッチが誤動作している可能性が疑われた。


 ならばスイッチを元の位置に戻すことさえできれば、ヒーターの電源が入り、メイン推進器も再稼働できるはずだ。


 だが、それはリスクをともなう作業だった。


 ヒーターの修復と再起動を行うには、停止しているメイン推進器をひとまず起動させねばならない。だがこの状態でボイジャー1号の星追尾システムの照準が基準星(姿勢制御の基準になる星)から大きく外れると、メイン推進器が自動的に噴射してしまう。


 ヒーターが正常に作動していない状態での噴射は、小さな爆発を引き起こす恐れがある。だから復旧作業は、基準星を照準から外さないよう細心の注意を払う必要があった。


 さらに時間との勝負でもあった。ボイジャー1号と通信を交わす際、オーストラリアにある直径70mの巨大アンテナ「DSS-43」を使用するのだが、このアンテナは今年5月から来年2月にかけて改修のために利用できなくなってしまうのだ。


 2025年8月には一時的に通信が再開される予定だったが、それまで待っていたらボイジャー1号の燃料チューブは完全に詰まってしまう可能性があった。


 2025年3月中ば、ボイジャー1号のチームは、この困難な状況の中、地上からヒーター復旧のためのコマンドを送信。


 それから46時間(地球からの電波が往復するにはこれだけの時間がかかる)、1号からの返事を待った。


 その瞬間、地上のエンジニアから歓声が上がっただろうことは想像に難くない。


 3月20日、失敗すればボイジャー1号が損傷を被る恐れがある中、ヒーターの温度は無事に上昇し、うまく電源が入っていることが確認された。


 ジェット推進研究所のトッド・バーバー氏は、「感動的な瞬間でした。チームの士気は最高潮に達しました」と語る。


推進器は死んだとみなされ、実際それは正しかったのですが、あるエンジニアの洞察で別の原因が見出され、修復可能であるらしいことがわかりました。またも奇跡的な救出劇が起きたのです(トッド・バーバー氏)


 そんなわけでボイジャー1号はまたも危機を乗り越えた。


 遠い宇宙で何度も困難を乗り越える歴戦の探査機は、機械でありながらも地上にいる私たちを勇気づけてくれる。


References: NASA’s Voyager 1 Revives Backup Thrusters Before Command Pause[https://www.jpl.nasa.gov/news/nasas-voyager-1-revives-backup-thrusters-before-command-pause/]

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