大谷翔平の移籍は本当にないか、「トレード消滅」報道の裏でドジャースが暗躍
2023年6月12日(月)11時0分 JBpress
打棒の勢いが止まらない。ロサンゼルス・エンゼルスの大谷翔平投手は6月11日(現地時間)の本拠地シアトル・マリナーズ戦に「2番・DH」で先発出場し、5打数3安打をマーク。打率を2割8分7厘にまで引き上げて得点にも絡み、9−4と快勝したチームに大きく貢献した。
この日で今季最長となる8試合連続安打となり、1試合3安打以上も今季7度目。6月に入ってから42打数16安打と月間打率3割8分1厘と絶好調モードだ。
投打ともに好調を維持
前日10日の本拠地マリナーズ戦では、2試合連発となる18号2ランを放った。3点を追う3回二死一塁の第2打席。相手の先発右腕ブライアン・ウーが投じた135キロの内角スライダーは見逃せば外角低目へのボール球だったが、かち上げて打球速度103マイル(約165.8キロ)、飛距離400フィート(約121.9メートル)の豪快弾を右翼フェンス越えで叩き込んだ。
10日時点で今季18号はヒューストン・アストロズのヨルダン・アルバレス外野手を抜いてア・リーグ単独2位。トップを走るニューヨーク・ヤンキースのアーロン・ジャッジ外野手にも1本差に迫る勢いとなっている。現在はジャッジ、アルバレスともに負傷者リスト(IL)入りしており、本塁打王を争う上では大谷にとって優位な展開になっていると言えるだろう。
さらに前々日9日の本拠地マリナーズ戦ではリアル二刀流として存在感を発揮した。打っては3回の第2打席で放った一時同点となる17号2ランを含む4打数3安打。三塁打が出ず2019年6月以来となる自身2度目のサイクル安打には届かなかったが、今季4度目の“サイクル王手”でチームを5連勝に導いた。
一方、投手としては今季初の中6日のマウンドで5回を投げて97球、3安打3失点6四死球。6勝目こそ逃したもののア・リーグ2位となる今季102個目の三振をマークするなど計6三振を奪って「今季一番悪いんじゃないかというぐらいの出来だった」と自身が振り返るほどの投球内容でありながらも試合をつくり、それなりのインパクトを残した。
燻るトレード説を打ち消したLAタイムズの記事
ただ、投打で奮闘中の大谷とは対照的に今季ここまでのエンゼルスは必ずしも「順風満帆」とは言い切れない。11日現在、チームは36勝31敗の貯金5でア・リーグ西地区3位。首位のテキサス・レンジャーズには6.5ゲーム差だ。
ワイルドカード(WC)争いでもポストシーズン進出ラインとなる3位圏内には入っておらず4位のトロント・ブルージェイズに次いで勝率5割3分7厘の5位にとどまっており、同地区2位でWC3位のアストロズとは1.5ゲーム差。
ワイルドカードシリーズ(WCS)進出を狙う上でアストロズをとらえることは十分可能だが、同地区首位のレンジャーズを追い抜くことを考えるのは12日から直接対決4連戦が控えているとはいえ、現段階ではあまり現実的な話ではないかもしれない。
2014年に地区優勝を飾って以来、ここまで8シーズンも遠ざかっているエンゼルスのポストシーズン進出が今季も叶わなければ、今オフにFAとなる大谷の去就にも影響を及ぼすことは自明の理だ。
2021年9月26日の本拠地マリナーズ戦後にチームが6年連続で負け越したことを問われた大谷が「もっともっと楽しいヒリヒリするような9月を過ごしたいですし、クラブハウスの中もそういう会話であふれるような9月になるのを願ってます」と口にしたコメントからも、レギュラーシーズン終盤までポストシーズン進出をかけた戦いができるような強いチームでプレーすることを望んでいるのは明白である。
となれば、エンゼルスのアート・モレノ・オーナーは「プレーオフスポット(ポストシーズン進出)を争っている間はオオタニをトレードに出すことはない」と断言しているものの、8月1日のトレード期限を前にチームが急失速し“終戦”となれば大谷の去就問題はどうしてもヒートアップしそうだ。
だが、その一方でエンゼルス地元の米有力紙「ロサンゼルス・タイムズ」が6月10日に配信した電子版記事で、エンゼルスが8月1日のデッドラインを前にポストシーズン進出を仮に果たせなかったとしても大谷をトレードで他球団に放出することはない見通しであると伝え、MLB関係者の間にも波紋が広がっている。
記事では球団フロントの方針について有力者が代弁する形で、大谷との長期契約締結を望んでいるエンゼルス側はギリギリの段階まで再契約の可能性を模索するつもりであり、それを早い段階で完全に消滅させてしまうトレードに動くことはないとのニュアンスで説明されている。有力紙「ロサンゼルス・タイムズ」が報じた内容だけに信ぴょう性と説得力は確かに高い。
ちなみに大谷の今夏トレードに関してはこの「ロサンゼルス・タイムズ」と同様に複数のMLB敏腕ビートライターが否定的な見解を示す一方で、「何が起こるか分からない」とし、その可能性に含みを残すスタンスを取り続けている米メディアもいくつかある。
そのトレード先の候補としてここ最近、数多の米メディアで話題として取り上げられているのがニューヨーク・メッツだ。
もしもエンゼルスが失速すると
米経済紙「フォーブス」で常連の資産家スティーブ・コーエン氏がオーナーに就いていることで莫大な資金力がある上、チーム内には他球団から羨望の眼差しを送られる「トップ100プロスペクト」の若手野手有望株が複数名所属している点でも大谷と最低2選手以上の大型トレードを成立させやすいとする見解もある。
メッツは11日現在で31勝35敗の借金5でナ・リーグ東地区4位。同地区首位のアトランタ・ブレーブスに9.5ゲーム差と引き離されているが、WC争いでは圏内3位のミルウォーキー・ブルワーズを3ゲーム差で追っている。ポストシーズン進出を狙う上でチームが置かれている状況はエンゼルスと貯金と借金の違いこそあれども余り大きな差はない。
しかしながら8月1日のトレードデッドラインに近づいた段階でエンゼルスが“終戦”し、メッツがポストシーズン進出を狙える位置に生き残っているならば両球団を巡る内情も大きく変わってくる。
メッツがラストスパートを図る上で大谷との「商談」をエンゼルス側に持ちかけ、相手を納得させるプロスペクト有望株たちを交換相手として複数名放出する意思も伝えれば、今世紀最大級の超大型トレードは急転直下で電撃成立する可能性が十分ある——。比較的メッツ寄りの米東海岸メディアは概ね、このように踏んでいるようだ。
だが「ロサンゼルス・タイムズ」の報道通りなら、メッツを含めロサンゼルス・ドジャースやニューヨーク・ヤンキースやサンディエゴ・パドレスなど大谷獲得に強い関心を示しているとされる数多くのMLB球団は、今季終了後に大谷がFAとなるまで待たなければならないことになる。
果たして本当にそうなのだろうか。実は、この報道に米国内で疑問を投げかける有識者やMLB関係者も少なくない。ア・リーグ球団関係者の1人も次のような見解を示している。
西海岸のメディアは「オオタニにはLAから離れてほしくない」
「今回の記事は地元有力紙の『LA(ロサンゼルス)タイムズ』を使ってエンゼルス側の情報提供者がオオタニのトレード説を巡るノイズ(雑音)をシャットアウトさせることが、そもそもの目的だったと見て間違いはない。
とはいえ、水面下では同じエリアのドジャースとのホットラインだけは今でも相通じているとささやかれている。ドジャースはエンゼルスと同じロサンゼルスをホームタウンにしており、西海岸でのプレーを気に入っているとされるオオタニにとっても移籍の際に生活の拠点を変える必要性がないのは大きなストロングポイント。
このようにオオタニ自身がとらえているならば当然、エンゼルスとしても仮に放出を決断することになった際にドジャース一本で話を進めやすい。基本的に『LAタイムズ』や米西海岸の地元メディアもビッグマネーを引き寄せるスーパースターの“ユニコーン”大谷にはLAを離れてほしくないという思いが強く、エンゼルスに残留か、あるいは移籍するならばドジャースに行って欲しいという願望がある。
今回の『LAタイムズ』の報道の裏には自分たち以外の他球団にトレードでの大谷獲得を消極的にさせようと目論むドジャース側の意思も反映されているはずだ。ドジャースは同じ地元で『LAタイムズ』の幹部にも顔が利くことを考えれば、辻褄も合う。
いずれにせよ、ドジャースはエンゼルスとのトレード話が進展せずFAまで持ち越しになっても大谷獲得へ本腰を入れることは間違いない」
前言撤回も厭わないエンゼルスのモレノ・オーナー
ドジャースは11日現在で37勝29敗の貯金8でナ・リーグ西地区2位。同地区首位のアリゾナ・ダイヤモンドバックスを3.5ゲーム差で追走し、地区Vも十分狙える。ナ・リーグWC争いでもマイアミ・マーリンズと勝率で並び首位タイだ。大谷が望む「ヒリヒリした9月」をトレード移籍によって叶えられそうな状況下にあり、ドジャースとしてもポストシーズンを勝ち上がってワールドシリーズ制覇を視野に入れる上で願わくは大谷獲得を起爆剤としたいところだろう。
昨オフのドジャースが大物獲得にはほとんど動かず控え目な補強に終始したのも、史上最高額の12年総額6億ドル(約836億3700万円)とまで見込まれる大谷との契約資金を捻出するためともっぱらだ。ボストン・レッドソックスから「DH専門」の35歳ベテラン、J・D・マルチネスを1000万ドル(約13億9000万円)の単年契約で獲得したのも大谷獲得の布石とみられている。仮にトレードで大谷を獲得するにしても、今季終了後にFAとなるタイミングでビッグディールのオファーをかけ、あらためて長期契約を締結する算段なのだろう。
エンゼルスのモレノ・オーナーは身売りを一度決断し買収先を募っておきながら結局、悩んだ末に前言撤回してしまったような人物だ。大谷のトレード説がまだ消えていないと疑う一部米メディアのように「何が起こるか分からない」ととらえておくのは賢明であろう。一つ言い切れるのは、渦中の大谷とエンゼルスの裏側にドジャースがXデーのチャンスを伺いながら暗躍しているということである。
筆者:臼北 信行