共喰い、樹海のサバ缶、土になった人間… 事故物件住みます芸人・松原タニシに村田らむがインタビュー!

2023年7月2日(日)17時0分 tocana

 事故物件住みます芸人・松原タニシさんが6月26日に新刊『恐い食べ物』(二見書房)を上梓した。


 松原タニシさんの本といえば、ブレイクのきっかけにもなり、映画化もされた『恐い間取り』がまっさきに思い浮かぶ。『恐い間取り』シリーズは現在3巻まで発売されている。そして同じく『恐い旅』『死る旅』という、旅系のシリーズが発売されている。


 今回は6冊目にして、新しいテーマ“食べ物”を取り上げたのはなぜだろうか?


「僕自身が“食べ物”に興味を持ったのは、16軒目に借りた事故物件です。部屋の中に入ると土がありました」


 その事故物件では、事故があった後かなり長いあいだ死体が放置されていたらしい。もちろん警察は入ったが、警察は大まかな死体しか持ち帰らない。白骨化している場合は骨だ。それ以外の物は、“ゴミ”として部屋に置き捨てられる。


 特殊清掃の現場を何度か取材しているが、髪の毛がごそっと落ちていることが多かった。お風呂で亡くなって身体が溶けてしまった場合は、手や足の細かい骨がたくさん出てくることもある。それらは“遺体”ではなく“ゴミ”なので、業者が“ゴミ”として処理をする。お風呂で溶けた死体などは、そのまま栓を抜いても詰まってしまって流れない。一旦別のボトルに詰めるなどしなければならない、非常に大変な現場になる。


 つまりタニシさんの部屋にあった土は、元々人の体だったモノだ。


 これが屋外だったら土はもとよりあった土に紛れ込んでしまうだろう。部屋の中だから、人間の身体が土になった様子を確認できた。


「部屋で亡くなった男性は、虫やネズミに食べられて、糞をして。その糞や死骸をバクテリアが分解して土になったんでしょう。部屋の中では食物連鎖が繰り広げられてました。


 その土を見た時に、


『ああ、こうしていつか僕も食べられるんだな』


 って実感したんです。


『自然の摂理が恐いな』


 って思いました」


 現在の日本ではあまり食物連鎖を直視しなくてよいようにできている。スーパーで売られているパッケージングされた肉からは牛や豚を想像しづらい。


「それでも命を殺してるんだなと。ものすごい数の生命を殺して、食べて僕は生きている。だから、僕もいつか殺されて食べられるのが自然なんですが……。


『食べるってなに? 食べられるってなに?』


 ってことを突き詰めて考えていくと怖くなった。それが、この本の出発点ですね」


 筆者はタニシさんとイベントに出たり、取材旅行をしたことが何度もあるが、そのたびに、


「食べ物に執着のない人だなあ」


 という感想を持った。


 言わば「旅先でもコンビニ飯で全然OKな人」なのだ。


「食べ物は全然興味がなかったですね。ただ思い入れがなかったからこそ、改めて考えて知ることが多かったと思います」


 そんな食べ物に興味がないタニシさんだが、嫌いな食べ物もあまりない。小さい頃はマヨネーズが嫌いだったそうだが、現在はお好み焼きなどに細くかけられたマヨネーズなら全然食べられるという。


 ただそんなタニシさんが1回だけ、食べ物が喉を通らず、苦しい顔をしているのを見たことがある。


 それは、一緒に青木ヶ原樹海を訪れた時のことだ。樹海を散策する時は、あらかじめコンビニで昼飯を買っていくことが多い。


 大体は、パンやオニギリを買っていくが、タニシさんはサバ缶を持ってきていた。


 タニシさんが食べようとしたまさにその時に、樹海散策を先導してくれていたKさんが、『樹海で見つけた死体の傑作選』の画像を見せた。死体を見てしまうと、食欲が失せた。


「頭では大丈夫だと思ってても、全然喉を通っていかなかったですね。飲み込めないんです。身体が拒絶反応してる。


『この拒絶反応ってなんだろう?』


 って不思議に思いました。ゲテモノとかの本も読んだんですけど、日本ではあまり食べられていないってだけですよね。たとえば虫にしろ、犬にしろ。それを栄養源にしてる国の人にとっては、別に普通のご飯なんだろうなって。


 死体を見ると、食べ物が食べられなくなるのは、それとは違うんですよね。


 そんなKさんのエピソードも『恐い食べ物』には載っています」


 バラエティ豊かな食べ物の恐い話が載っているこの本だが、この本の編集さんがビビッと来たのは『恐い食べ物』の“コーヒー”というエピソードだ。


 60代の男性が、20代の頃にまるで四谷怪談のお岩さんのような女性に遭遇した話だった。


 よもつへぐい(黄泉の飯を食べる。あの世のものを食べると戻れなくなる)の要素がある話で、気味が悪いが、少しロマンチックなエピソードだった。


 編集さんはタニシさんから、このエピソードを聞いて、


「これはいけるな」


 と思ったそうだ。


「あ、最初の話に戻るんですが、事故物件にあった土は、しばらく持ち歩いていたんですけど、ふと思いついてその土で野菜を育てました。死体から育てた野菜には不思議と全然嫌悪感はわかなかったんですよ。それも、なぜだろうって?


 この本を作りながら、そんな疑問の答えを探していました」


 そんなタニシさんに、よくある質問


『明日死ぬとしたら、何を食べる?』


 をぶつけてみた。


「そういうの考えるの楽しいですよね。


 うーん田螺(タニシ)ですかね」


 田螺は池や田んぼに生息する巻き貝だ。


 現在ではあまり頻繁には食べられていない。よく耳にする食材だが、実際に食べたことがある人は意外と少ない。


「この本のために、実際に田螺を食べたんです。思い入れがあるからか、まるでカニバリズム(人肉食)のような気持ちでしたね。感慨深かったです。


 名前が一緒というのはもちろんあるんですけど、田螺には共通点があって。図鑑を見たら『死骸を食べる』ってはっきり書いてあったんですね。事故物件や怪談って人の死や不幸を食べているようなところがありますから、そういう所からも親近感を感じました。


 なんでもいいなら、田螺かな。


 最後に美味しいもの食べて死にたいって気持ちは分かるけど、でも僕は味に執着がないし。だったら、概念を食べて死にたい。自分を食べて死にたいですね(笑)」


 そんなタニシさんだが、まだ事故物件生活を続けている。現在は香川と大阪に二軒の事故物件を借りているという。


「大阪の物件は、めちゃくちゃ郵便物が届くんです。それが全部、弁護士事務所みたいな所からなんですけど、宛先はバラバラで……。この部屋って元々、何に使われてたの? って思ってます」


 タニシさんの事故物件の新刊が発売される日もそう遠くはないはず。それまでは、美味しい食べ物でも食べながら待ちたいと思う。


tocana

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