神戸発の靴ブランド「Öffen」の、環境に優しくておしゃれな普段履き

2023年8月5日(土)11時45分 ソトコト




美しく、履きやすい靴。さらに地球環境にも配慮。


洗練された品のあるラインや、豊富なデザイン。驚くほどの履きやすさ。そんな靴ブランドがあったら、「履いてみたい」と思う人は多いのではないだろうか。それが、兵庫県神戸市発の靴ブランド「Öffen」。ブランド名はドイツ語で「オープン」「解き放つ」という意味をもつ。コンセプトは、「まるで裸足のような解放的なシューズ」。2021年2月のデビュー以来、多くの人を魅了している。





実際に着用してみると、新品であるにもかかわらず、硬すぎず軟らかすぎない感触でスッと履くことができた。靴が足にフィットして軽く、とても歩きやすい。


実はもう一つ、人々を惹きつけている「Öffen」の特徴がある。それは、靴が分別回収された使用済みペットボトルをリサイクルした糸でつくられていて、かつ製作の過程でゴミを片手に載るほどのごく少量しか出さないこと。地球環境に配慮された、画期的なアイテムなのだ。


靴は一般的にパーツごとにさまざまな素材が使われていて、端材が出やすく、それらは大量のゴミとなっている。私たちが日々使う靴というアイテムの背景には、大量に破棄されているゴミの問題が必ずついて回る。私たちはいつの間にか「何かを使うためにゴミが出るのは仕方のないこと」と、考えていないだろうか。








「Öffen」を開発した『Norms』のディレクター・デザイナーの日坂さとみさんは、そんな問題に徹底的に向き合った人だ。理由は何だったのだろう。「子どもの頃、両親から物を大切に使うよう育てられ、よく『買うと決めたなら無駄にしないでね』と言われました。その影響なのか、アパレル業界に就職してから、新しい物をつくるサイクルが速すぎると疑問をもったんです」。ファッション業界では、流行りの物を提供し、残ったらシーズンが終わる頃にセールに出し、それでも余った物は廃棄されることが多い。


一方で日坂さんは、「自分が手放さずに長年持っている物にはストーリーがあり、つくり手の気持ちを感じているんだ」とも気づく。「想いがあるからこそ伝えたいことがあるんですよね。自信をもってお客様に勧められる商品を提供したいと思っていました」と話す。アパレル企業は16年勤めた末、退職した。


新ブランドの軸を、「ゼロ・ウェイスト」に。


転機は、出産だった。「産後、子どもの着る物に対して着心地や地球環境への配慮などが気になったんです。そんなことを意識して選ぶようになり、『これまで自分はこだわりなく買っていたな』と気づかされました」。少しでもきれいな地球を子どもの世代に残したい。我が子に堂々と「考えてつくっているよ」と言える物をつくりたい。日坂さんは新ブランドの開発に乗り出した。


そこから商品の完成まで、実に2年の月日をかけたと話す。「初めは履き心地のいい物をブランドの軸として考えていました。でも使う素材や環境のことを思い、半年ほどたってから一旦白紙に戻し、軸を、『ゼロ・ウェイスト(無駄やゴミをなくすという意味)にしよう』と転換したんです。そんな頃にペットボトルのリサイクル糸の存在を知りました」。靴の底を除いた上の部分はアッパーと呼ばれるが、この糸はアッパーに使う分だけを型紙どおりに織り上げる。布を裁断することがなく端材が出ないので、ゴミの量を軽減できるベストな素材だった。「この糸を使おうと決めました」。ただし、その糸を靴にした前例はなかったため、靴として成り立つのか、足にどうフィットさせるかという木型の試作を13回も繰り返した。「伸縮性のある素材なので一般的な婦人靴とは木型を変え、シンプルな構造にすることでアッパー以外でもゴミが出る機会をなくし、履きやすさも追究しました。また、つくっている工場の方たちに長時間労働という負担をかけないよう、生産性のいいやり方も模索したら、どんどん難しくなったんです(笑)」。


ペットボトルをリサイクルした糸、 靴の構成部品を半分に、ゴミと糊を減らす。








物を買うときの指針は、「つくり手の愛情を感じるか」。


一時期は「本当に出来上がるのかな」と心配したという日坂さん。でも、日坂さんたちはやり遂げた。ゴミになってしまうから靴箱はつけないこと、大事な商品を「残り物」にしないため、セールをせずに同じ物を販売し続けることなど、スタンスを貫いて一つずつ決めながら前代未聞の新ブランドをつくり上げていったのだ。


発売開始後、大々的なPRはしなかったのに、口コミで瞬く間に広まっていった。次々に百貨店などでのポップアップショップの出店が決まり、その度に飛ぶように売れていく。東京・新宿区の『伊勢丹新宿本店』で1週間開催したポップアップショップでは665足を販売した。さらに、お客の声を受けてラインナップを増やしたり、メンズの展開も始めたりと、「Öffen」は成長していった。


日坂さんがおすすめする、「Öffen」の代表的モデル!








靴1足にペットボトル8本分の糸が使われている。最終的に製作の過程で出るゴミは一般的な靴に比べて10分の1以下に減らすことができた。CO₂の排出量については、半分以下になっていると予想されるが、現在専門機関が計測中だ。


日坂さんは今、物を買うことは必要最少限になったという。「買うときには時間をかけています。消耗品以外は一生つき合おうと思って買うから、『本当にいいのかな、一生つき合うかな』と考えます。決めるときに大事にしているのは、つくり手の愛情を感じるかどうか。じっくり悩むのもおもしろいんですよ」。


楽しそうに語る日坂さんは、「どうしたら自分が心地いいか」を熟知しているのかもしれない。私たちは買い物から自分を心地よくしていける。『Öffen』の靴は、何かを解き放ってくれるはずだ。


「何をつくるか」から、「どうつくるか」へ。消費者を「ゴミの生産者」にしない。








「Öffen」・日坂さとみさんの、 買い物にまつわるコンテンツ。


Seminar:エシカル・コンシェルジュ講座
https://ethicaljapan.org/concierge
気候危機などの問題を解決するため、現状とどう向き合えばいいかを知り、「ゼロ・ウェイスト」について学ぶことができます。私はオンラインで2回受講し、徳島県・上勝町での研修で大きな衝撃を受けました。


Website:わかちあいプロジェクト
https://wakachiai.jp
フェアトレードと難民支援活動を通して開発途上国の人々を支えている国際協力NGO。私は古着を送る支援をしたり、フェアトレード商品を購入したりして利用しています。30年以上活動されていて、応援したい団体です。


Website:ELEMINIST
https://eleminist.com
エシカル&ミニマルな暮らしやサスティナブルな生き方をガイドするメディア。日本をはじめ世界中から厳選したサスティナブルな情報を発信しています。オンラインショップもあり、「Öffen」を取り扱ってもらっています。


photographs by Katsu Nagai text by Yoshino Kokubo


記事は雑誌ソトコト2023年8月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

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