ラーメン官僚が大絶賛する伝説の間借りラーメン店『だしと麺 遊泳』の麺とスープがウマい理由

2023年10月15日(日)10時47分 食楽web


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 今回ご紹介するラーメン店は、『だしと麺 遊泳』。2023年7月31日に、東京・東高円寺に開業した新店です。正確には2021年10月から、西早稲田のワインバル『Vplus』の間借りという形で営業していた同店が東高円寺へ移転し、独立店舗となったものです。

 同店は、「ラーメンという食べ物の枠に捉われることなく、出汁と麺にこだわった料理を提供する」というコンセプトのもと、間借り営業を始めた直後から、コアなファンの熱烈な支持を獲得。翌2022年には、ラーメン激戦区・早稲田の飲食店の中でも一目置かれる存在となっていました。

 とはいえ、間借り時代の『だしと麺 遊泳』の営業は週に3日間のみ(※2023年4月-6月の最終営業日までは、間借り先の都合で週1日の営業だった)。訪店のハードルが高く、誰もが気軽に足を運べる店ではありませんでした。平日昼のみの営業では、店舗から離れた場所で勤務する社会人などは、有給休暇でも取得しない限り、アクセスが難しいですからね。

 かく言う私も、訪問できず忸怩たる思いを抱いていた者の一人であり、訪問の機会を虎視眈々と窺っていたところでした。そんな中、飛び込んできたのが、同店が2023年6月5日をもって間借り営業を卒業し、独立するという情報。

 聞けば、夜の営業のみであるものの、曜日を限らず営業するとのこと。この情報はまさに絵に描いたような朗報であり、私も、訪問が果たせず溜め込んでいたストレスを解消すべく、新店舗が開業してまだ日が浅いタイミングで、お店へと馳せ参じた次第です。


『だしと麺 遊泳』の外観。東高円寺駅(東京メトロ丸の内線)から徒歩1分。青梅街道沿いにある『らあめん花月嵐 東高円寺店』から「ニコニコロード」に入ったところの右手にひっそりと佇みます

『だしと麺 遊泳』の場所は、東京メトロ丸の内線・東高円寺駅2番出口から徒歩1分。店舗外観は、岸本健太郎店主いわく「ラボラトリーっぽい感じと、飾り気のない平穏感を持ち合わせた」、およそラーメン店らしくないもの。扉のガラスに刻まれた『だしと麺遊泳』と、ランプに刻まれた『麺』の文字だけが、同店が麺を食べさせる場所であることを控えめに主張しています。


カウンター7席。内装や外観は、センスに満ち溢れたスマートさが漂う

 入店すると、入口のすぐ左手に券売機が鎮座。同店不動のレギュラーメニューは、「油そば」と「だしそば」の2品。うち、「だしそば」は、麺を「中太麺」と「細麺」のいずれかから選択することが可能です。

「油そば」は、極太手打ち麺を使用。「だしそば」の「中太麺」は、『讃岐うどんいわい』(店主の修業先の一つ)の2号店『いわい製麺』に作ってもらった特注品、「細麺」は、都内の名門製麺所『菅野製麺』製です。

 今回は「油そば」と「だしそば」の両方を実食しましたが、「油そば」には「油そば」、「だしそば」には「だしそば」ならではの妙味があり、あっと言う間に丼を空けてしまいました。このコラムをお読みの皆さまも、ぜひ頑張って2杯お召し上がりいただければと思います。

規格外の麺を見事にまとめ上げる絶品の「油そば」と「だしそば」


左が「油そば」950円。右が「だしそば(中太麺)」1000円

 さて、券売機で食券を購入し、カウンター席に着席。「お客さんにゆったりと寛いでいただけるよう、席と席の間隔や、客席の後ろの通路を広めにとりました」という店内は、瀟洒な雰囲気。無駄がなく落ち着いた岸本店主のオペレーションに見惚れている内に、注文の品が卓上に供されました。


「だしそば」

「だしそば」は、優美なきつね色のスープから宙へと舞い上がる上質な乾物の和風味が、食べ手の五感を丼へと一点集中させる、汁麺のお手本のような構成。特に、スープの中を悠々と泳ぐ中太麺の佇まいは、まるでうどんのようです。

 岸本店主は常々、『だしと麺遊泳』を、ラーメン店ではなく「ラーメンの垣根を越えた、出汁と麺の料理屋」だと考えているそうですが、同店の「油そば」と「だしそば」は、まさに、そんな店主の考え方をそのままカタチにしたような、既存のどの麺類にも当てはまらないボーダレスな麺料理に仕上がっていました。

「ここまでオリジナリティ豊かな麺料理を創作するのには、相当な試行錯誤を要したのでは?」と、岸本店主に質問したところ、「油そばもだしそばも、マーケットインではなく、完全にプロダクトアウト的な発想でつくったので、開発にはそれほど苦労しませんでした」とのこと。


「だしそば」のスープ素材の一部

「だしそば」のスープは、魚介素材(節・煮干し・乾物)と動物系素材とを、毎日配合を変えながらジグソーパズルのようにつなぎ合わせることで、重層的な味わいを演出したものです。

 味蕾にスープの雫が触れた瞬間、アジ・サバ・イワシ等の素材のうま味が重なり一本の大きな奔流となって味覚中枢へとなだれ込み、脳内から大量のドーパミンを分泌させます。その快楽に酔いしれる間もなく、動物系素材の重厚なコクが口内を占拠し、魚介の風味と一体化。屋号と商品名に「だし」の名を冠するにふさわしいスケール感に充ちた出汁感に、期せずして感動のため息がこぼれます。

「少しでも上質な素材を手に入れるため、出汁に使う乾物の発注先を単一の問屋に絞り込まず、アジならA社、イワシならB社、節ならC社といった具合に、複数の問屋を指定するようにしています。加えて、スープに用いる素材の配合を毎日見直し、スープの炊き方や素材を引き上げるタイミングも毎日研究しています」(岸本店主)


程よく甘味のある香りにキレのあるスープが印象的

 これらの素材だけで十分過ぎるほどのうま味が採取できてしまうため、「だしそば」にはカエシをほとんど使っていないそう。感服するしかありません。営業時間中、寸胴に火をかけっぱなしにして、時間の経過と共に出汁が濃縮されるようにしている点も特筆に値します。

「常連さんはそのことを分かっていらっしゃるようで、フレッシュなスープが好きな方は営業時間の前半、パンチのあるスープが好きな方は営業時間の後半に足を運んでくれていたりします」と岸本店主。食べ手の嗜好にも気を配った配慮に、『遊泳』が超人気店である理由の一端が垣間見える気がします。


「だしそば」の麺。従来のラーメンの麺に比べ食感が特徴的

 このスープに合わせる麺は、前述のとおり、中太麺は『いわい製麺』、細麺は『菅野製麺』へと特注したもの。

「麺の風味が強すぎると、スープとのバランスが悪くなったり、かん水の風味がスープに溶け出してしまったりするので、そうならないよう、苦労して調整を重ねました」。そんな試行錯誤の結果、選び抜かれた麺は、確かにスープと阿吽の呼吸を奏でる名品でした。


「油そば」。セットでスープもついてくる

「だしそば」だけではありません。「油そば」も、確固たる哲学に基づいてつくられています。「油そば」は、およそ1.5cmもの圧倒的な幅を有する超ウルトラ極太麺が、丼の主要部分をドカンと占拠するセンセーショナルなビジュアルが、視覚的に強烈。見た目からしてモッチリとふくよかな麺は、つきたてのお餅のようです。


「油そば」のタレ

 油そばは、だしそばとは逆に、麺の食感や味わいを最大限堪能してもらいたく、麺をサポートするのはタレと鶏油だけというシンプルな構成にしているとのこと。「油そばは麺が主役、だしそばはスープが主役といったイメージですね」と岸本店主。


入り口を入ってすぐの場所で毎日麺を打っている

 麺は、岸本店主の言葉どおり、まさにこだわりの塊。麺に使用する粉は、国内産・外国産を問わず、強力粉・中力粉・薄力粉のすべてを縦横無尽に使いこなし、かつ、季節によって加水率を調整するなど、作成に膨大な労力を注ぎ込んでいます。

 柔らかく膨らんだ餅のようにモチモチ&しっとりとした食感が口の中を幸福感で包み込む、味覚と嗅覚だけでなく触覚も愉しませる至高の自家製麺。麺に合わせるタレも、西早稲田時代からリニューアルを加えています。

「西早稲田時代は、白出汁ベースのタレを使っていましたが、今は、高齢者が数多く居住する高円寺という土地柄に合わせ、濃口ベースでそばつゆのようなタレを使っています」(岸本店主)


うどんにも近い極太麺は食べ応え抜群

 麺を噛み締めるたびに、麺に付着した甘辛いタレと香り高い鶏油が脳内の快楽中枢を力強く刺激。自制しなければ、瞬時に食べ切ってしまいそうになるほど、惹きの強い味わいです。

 最後に、店主に今後の抱負を尋ねると、以下の答えが返ってきました。

「引き続き、油そばとだしそばに磨きを掛けると共に、限定麺もコンスタントに提供する予定です。これからもよろしくお願いします」。店主の目標を、心から応援したいと思います。

●SHOP INFO

店名:だしと麺 遊泳

住:東京都杉並区高円寺南1-6-5 高円寺サマリヤマンション 1F
TEL:非掲載
営:17:00〜20:30 ※売り切れ次第終了
休:不定休

●著者プロフィール

田中一明
「フリークを超越した「超・ラーメンフリーク」として、自他ともに認める存在。ラーメンの探求をライフワークとし、新店の開拓、知られざる良店の発掘から、地元に根付いた実力店の紹介に至るまで、ラーメンの魅力を、多面的な角度から紹介。「アウトプットは、着実なインプットの土台があってこそ説得力を持つ」という信条から、年間700杯を超えるラーメンを、エリアを問わず実食。47都道府県のラーメン店を制覇し、現在は各市町村に根付く優良店を精力的に発掘中。

岸本健太郎店主のプロフィール

・岸本店主は、早稲田大学を卒業後、大手電機メーカーの営業職を約6年つとめ、30歳を目前にして、サラリーマンから、麺料理の職人という全く畑違いの世界へと飛び込んだ異色の経歴の持ち主。

・麺料理の職人になってからは、ラーメンという食べ物の枠に縛られず、出汁と麺にこだわった料理を提供したいとの思いから、ラーメン店のみならず、うどんの名店など、ラーメン以外の店舗でも修業を重ね、2023年7月、ついに『だしと麺 遊泳』の独立出店を達成する。

・屋号『遊泳』の由来は、「どんなに苦しくても、『丼の中で遊びを施して、泳いでいたい』」という岸本店主の気持ちを、店名という形で銘記したもの。今でも、苦しい時は屋号を思い浮かべ、初心に帰るという。

・「1を10にする企業の営業職も楽しかったのですが、電機メーカーという場所で、製品を細部まで熟知する技術職や、感覚で『ものづくり』を行う熟練職人の姿を目の当たりにし、0を1にする『ものづくり』の世界に強い憧れを抱くようになりました。元々私は、学生の頃から麺類が大好きでしたから、麺料理を手掛ける職人になりたいと考えるようになったのです」。

・「2019年8月から、尾久の『中華そば竹千代』で働きながら、お店の定休日には、ダブルワークという形で『新宿だるま製麺』で、麺の勉強をさせていただきました。スープ(出汁)については、『竹千代』での修業経験から得たものが大変多かったです。麺については、元々、自己流で麺を打ったりしていましたが、西早稲田で『遊泳』を開業した後、間借り営業の空き時間を活用して、手打ちを本格的に習得しようと思い立ち、十条にある饂飩の名店『讃岐うどんいわい』などで、勉強させていただきました」。

・「この物件は元々、飲食店ではありませんでした。それゆえに、内装をゼロから構築し直す必要が生じ、完成までに半年近くも掛かってしまいましたが、店舗の設計も『できることは自分で』と考え、設計会社に依頼せずに完遂しました。幸運なことに、弟や親戚が建築関係の人間でしたので、彼らに助けてもらいながら」。

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