シューズ界の“愛されキャラ”クラークス オリジナルズ定番・新名作5選、ドレッシーでカジュアル、控えめで人懐こい
2024年10月23日(水)8時0分 JBpress
今や運動靴という枠組みを飛び越え、1つのカルチャーとしても世界中で愛されているスニーカー。その魅力である軽快な履き心地と個性豊かなデザインは、一流の革靴を日々の相棒とする読者諸氏をも魅了してやまない。ここでは“本物”を知る大人の男が選ぶべきスニーカーを提案する。
写真=青木和也 スタイリング=泉敦夫 文=TOMMY 編集=名知正登
魅力的な人(靴)柄のシューズたち
何かが広まっていくキッカケ、そのひとつに“憧憬”がある。対象に憧れを抱き、自分自身も「〜になりたい」という感情。これを英語のスラングでは「wanna be(ワナビー)」と言う。
例えばこんな話がある。19世紀頃、開国前の日本を訪れた西洋人たち。彼らは玄関で靴を脱ぐ習慣を知らず畳の間に土足で上がってしまい、各地でトラブルになったという。そこで生まれたのが靴の上から履くオーバーシューズ。これが我が国において、今でいうスリッパの原点となり、明治時代に西洋文化に憧れた上流階級を中心に広がったとされる。
さて、そんなスリッパで名を上げ、来年200周年を迎える老舗シューメーカーが今回のお題だ。創立は1825年。イングランド南西部のサマット州にある小さな町、ストリートに今も拠点を置くクラークス。古くから羊や牛の牧畜が盛んな同地域らしく、羊毛などで編み上げられたラグの端材を用いたスリッパが創業当初にヒット。以降の今日に至るまで、履きやすさと歩きやすさを追求したカジュアルシューズを生産し続けている。
本稿では「ワラビーブーツ」に代表される定番から、時代を反映したアップデートモデルまでを厳選。ドレッシーでカジュアル、控えめでいて人懐こくもある。そんな魅力的な人(靴)柄のシューズたちが、秋冬スタイリングの足元に添える良きスパイスとなれば、これ幸いだ。
1.「Wallabee Boot」
不変的かつ普遍的なルックスと履き心地で魅了する定番
クラークスの名を聞いて、誰もがまず最初に思い浮かべるのが本モデル。1966年生まれ、日本では1971年から販売されてきた「ワラビーブーツ」は定番中の定番。ポップな審美眼をもつシティボーイと、かつてそうであった大人世代の間でリバイバルして早10数年。いまだ人気は不動の4番。
モデル名はカンガルー科の小型有袋類・ワラビーに由来し、子どもを腹部の袋で育てる姿をほうふつとさせる独特なモカシン構造が何とも愛らしい。もちろん見た目だけでなく、足全体を優しく包み込む履き心地も味わえる。またこのスクエアなトゥの形状は締めつけを少なくし、長時間の歩行でも疲れを感じにくいという機能的メリットにもつながっている。
ちなみに履き口がくるぶしより下に位置するローカットが「ワラビー」、対する「ワラビーブーツ」はアンクル丈のミドルカットなので、秋冬に防寒性を求めるなら後者を推奨。購入時はお間違いなく。
2.「Desert Boot」
「ワラビー」と双璧をなす英国ユース・カルチャーのアイコン
「ワラビーブーツ」と双璧をなす代表作を挙げるならば、この「デザートブーツ」で間違いないだろう。生まれは第二次世界大戦真っ只中の1950年。クラ—クス社の4代目であるネイサン・クラークが兵士としてビルマ戦線に赴いた際、同僚が履いていたスウェード素材の靴をモデルに誕生した。
最大の特徴は、天然ゴムを用いたクレープソールが生み出す柔軟な履き心地にある。優れたクッション性を持ち味としながら、しっかりと地面をつかむグリップ力で高い歩行性を実現。不安定な砂漠でも歩きやすいだけでなく、アッパーとソールをステッチダウン製法で固定し、シューズ内に砂が混入しないようにするなど、ミリタリー由来の機能性へのこだわりが随所に光る。
1960年代の英国で、細身の三つ揃いのスーツとともにモッズ・カルチャーの象徴的アイテムとして愛されたその理由は、洗練されたシルエットと汚れてもサマになるスウェードの質感。過ぎ去りし青春の光は、今も失われていない。
3.「WallabeeGTX」
防水透湿性の王道・ゴアテックスで現代的にアップデート
クラークスのシューズが有する魅力の一端に、“オーセンティックな雰囲気を放つルックス”と“昔ながらの履き心地”があるのは重々承知の上だが、時代に即した進化を遂げたアップデートモデルにて、より快適性を求めるのも選択肢としては悪くない。
その証左として、まずはトップバッターを飾ったアイコン的モデル「ワラビー」に、防水・透湿素材の最高峰であるゴアテックスを搭載した逸足をご覧あれ。
アッパーに備わった快適性という名の加点要素もさることながら、文字通り足元を支えるソールにも仕事がなされている。堅牢かつ防滑性に定評のあるビブラムソールを装備することで、全天候対応の汎用性を獲得。先述した足全体が包み込まれるような着用感はそのまま、シトシト降り続き憂鬱にさせる秋の長雨にも、これから訪れる冬の雪にも負けることなく、シューズ内部は常にドライに健やかに。増した実用性はまさに値千金。
4.「Desert Rock Lo」
シンプル&普遍的デザインに注入された無骨なエッセンス
デザイン性や機能性を高めることで新たな魅力を手に入れたアイテム。これをアップデートモデルの定義とするのならば、定番にツイストを効かせた本モデルも意味合い的には、ほぼ同義といえる。
先に挙げた「デザートブーツ」のアッパーに無骨なコマンドソールを組み合わせたのが、通人たちに愛される隠れた名品「デザートトルーパー」。その復刻版にあたるわけだが、復活に合わせてのリネームにより名前は異なるというややこしい生い立ち。とはいえ佇まいは無駄なくスマート。
これに加えて、湾岸戦争時に英国軍隊に支給されたアーミーブーツをモチーフにしたという、骨太のバックストーリーがくすぐる男ゴコロ。シンプルで普遍的な意匠に無骨なエッセンスを取り入れながらも、ローカット仕様にすることで着用場面を選ぶことなく活躍すること請け合い。周囲とはカブらないオリジナリティを求めるならば、ぜひゲットリストに加えてみては。
5.「Nomad Loafer」
通好みの隠れた名作モデルを、ローファー仕様にアレンジ
序文でも触れたように、約2世紀にも及ぶ長い歴史を誇るクラークス。これまでに発表された多種多様かつ膨大な数の名作は、すべてアーカイブに収められている。最後はそこから玄人好みのモデルとして、一部で注目を集める「ノマドローファー」にスポットを当てる。
センターシームという特徴を持ち、2022年に誕生50周年を迎えたばかりの「デザートトレック」の…さらに後継モデルとして1970年代に誕生し、主にニュージーランドで販売されていた「デザートノマド」を祖とする。これを元に、脱ぎ履きも容易なローファー仕様へとアレンジしたのが本作である。
シューレースやストラップの類がないためフィッティングの調整こそできないが、その分ジャストサイズを選んだ際の履き心地たるや。じつに快適。また後ろ姿の要たるカカト部分には“Nothing is written”ではなく、ラクダに乗ったトレックマンの姿が配され、良きアクセントに。
筆者:TOMMY