地域資源を生かしたものづくり。 大野木工の美しく丈夫な器。

2022年12月8日(木)11時0分 ソトコト

岩手県の最北端に位置する洋野町の大野地区では、やわらかな手触りで、美しさと耐久性を兼ね備えた木の器がつくられている。1980年に誕生した大野木工だ。木目の流れにそった「半割方式」という独特の木取り方法、職人の高い技術とていねいな仕事ぶりによって生み出される、丈夫で木目がきれいな食器たち。その美しさと実用性から、全国にファンがいる。


大野木工誕生のきっかけとなったのは、東北工業大学教授で工業デザイナーとして活躍していた故・秋岡芳夫氏が提唱した「一人一芸」運動だ。洋野町大野地区(旧・大野村)は、偏東風「やませ」の影響を受ける寒冷な地で、かつては働き口が少なく出稼ぎに行く人が多かった。秋岡氏は、出稼ぎに頼らなくてもいいように、地域資源である木材を生かしたものづくりで村を活性化することを提案。他県の技術者などの協力を得ながら、勉強会やワークショップを経て村人が木工ロクロを習得し、試行錯誤を重ねながらも木工産業を育てていった。


当初は知名度が低く販売に苦労したが、1982年に地元の中学校の給食に大野木工のお椀が使われたのを機に、全国から給食器としての注文が入るようになった。現在、大野木工の保育給食器セットは全国270の保育施設で使われている。


木の食器はプラスチック製品よりも傷つきやすいので、保育園児も大切に扱おうとして、ものを大事にする心が身につくようです。塗装がはがれたり、欠けたり割れたりしたものは修理しますので、長く使ってもらえるのも大野木工のよさですね」と話すのは、猫屋敷(ねこやしき)誠さん。彼は大野木工の製造拠点で、「一人一芸の里」を体感できる牧場遊びの拠点でもある『おおのキャンパス』で木工職人を務める。


大野木工に使用される木材は、岩手県産のアカマツやトチなど。冬の時季に乾燥させて、含水量を15パーセントくらいまでに下げる。「いちばん苦労する工程は、形を整える仕上げです。木の状態によって削り方が変わってくるので、状態を見ながら臨機応変に形を整えていきます」と猫屋敷さん。仕上げ後は、木材を強化するために特殊な塗装を施す。これにより、食洗機の利用も可能となる。


「半割方式だと耐久性は高いのですが、ゆがみやすいという欠点があります。また、木取りする位置によって形が変わってくるのですが、その違いがおもしろいと思っています。木にも個性があるので、実際に手に取って、気に入ったものを選んでいただきたいですね」


今後は介護施設にも販路を広げていくために、高齢者が使いやすいスプーンなど、新しい商品の開発を考えている。「温かみがある大野木工の食器は、使い捨てではなく一生ものです。多くの方々に、長く大切に使ってもらいたいですね」と、猫屋敷さんは大野木工への愛情をにじませた。











text by Makiko Kojima photographs by Ohno Furusato Public Corporation
記事は雑誌ソトコト2023年1月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

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