ブラックホールが恒星を引き裂き“異常な閃光”を放つ「潮汐破壊現象」とは? 最新研究で明かされた衝撃の事実

2022年12月10日(土)7時0分 tocana

 今年2月に宇宙で観測された「異常な閃光」の正体が明らかになりつつある。それはブラックホールに握り潰された恒星から飛び出た“ジェット噴射”であったのだ——。


きわめてレアな宇宙現象「潮汐破壊現象」とは

 太陽の何倍もある巨大な恒星がその生涯の最期を迎える時のド派手な断末魔が「超新星爆発」である。その爆発はあまりにも強烈であるため、2億光年先で起きた超新星爆発でも観測が可能だ。


 この超新星爆発に代表されるような電磁波の強度が急激に増大する天体は「突発天体(トランジェント天体)」と呼ばれ地球上からも観測されている。


 2022年2月11日、米カリフォルニア州サンディエゴにあるパロマー天文台が「りょうけん座」の方向で1つの突発天体の「異常な閃光」を検出した。「AT2022cmc」と名付けられたこの突発天体は「ハッブル宇宙望遠鏡」やヨーロッパ南天天文台(ESO)など21の望遠鏡による追跡観測が行われ、約85億光年前に発生した現象であることが判明している。


 AT2022cmcは超新星爆発ではなく、潮汐破壊現象(Tidal Disruption Event、TDE)という通過する恒星がブラックホールの潮汐力によって引き裂かれる現象であったといわれている。


 いったいどのようなメカニズムで恒星がブラックホールに引き裂かれて「異常な閃光」を発したのか。


 恒星が超大質量ブラックホールによって引き裂かれ、エネルギーが突発的に放出されるというきわめてまれな現象であるこの潮汐破壊現象を説明する研究論文が先日、「Nature」と「Nature Astronomy」に掲載されて話題を呼んでいる。今回の知見によって、ブラックホールの特性の解明がさらに進む可能性があるということだ。


 研究チームはわかりやすい説明として、「歯磨きペーストのチューブ」を例にあげている。超大質量ブラックホールが恒星である歯磨き粉のチューブをつかんで引き寄せ、その強力な“握力”で握りしめた結果、フタが外れて中身が勢いよく飛び出した現象であるというのだ。


 まさに“ジェット噴射”のように勢いよく飛び出した中身(ペースト)の方向が地球に向かっていれば、より観測しやすいイベントとなる。今回検知されたAT2022cmcは約85億光年というこれまでにない遠隔での出来事であったが、幸いにもこの高エネルギーの“ジェット噴射”によって検出が比較的容易になったようだ。



“ジェット噴射”を見せるAT2022cmc

 米マサチューセッツ工科大学カブリ天体物理学・宇宙研究所のポスドク研究員であり、論文の共著者であるマッテオ・ルッキーニ博士は今回の研究は超大質量ブラックホールへの理解を深めるものになると指摘している。


「銀河ごとに 1つの超大質量ブラックホールがあり、それらは宇宙の最初の100万年の間に非常に急速に形成されました。それは彼らが非常に速く摂取することを示していますが、その摂取プロセスがどのように機能するかはわかりません。つまりTDEのような情報源は、実際にはそのプロセスがどのように発生するかを知るための非常に優れた精査になる可能性があります」(マッテオ・ルッキーニ博士)


 論文の筆頭著者である同じくマサチューセッツ工科大学カブリ天体物理学・宇宙研究所のディーラジ・パシャム博士は、研究チームは「ブラックホールが恒星を摂取しはじめてから1週間以内に、このイベントを最初から捉えることができた」と語った。


 天文学者はAT2022cmcのようなTDEはまれだと言う。科学者がこれらの“ジェット噴射”の1つを最後に発見したのは、10年以上も前のことなのだ。また光学観測で“ジェット噴射”が検出されたのはこれが初めてである。


 英リバプール・ジョン・ムーアズ大学の天体物理学の講師であり、論文共著者のダニエル・パーレイ博士は、“ジェット噴射”を見せるAT2022cmc はTDEの典型例であることが示されたと説明する。この研究成果はスペインのリバプール望遠鏡やチリの欧州南天天文台の超大型望遠鏡など、世界中の複数の機器による追跡調査の賜物であるということだ。


 しかし一部のTDEが“ジェット噴射”し、他のTDEが発射しない理由は依然として謎である。だが今後、より高性能な宇宙望遠鏡が打ち上げられることで天文学者はより多くのTDEの観測が可能となり、将来的にいくつかの妥当な答えを得られることが期待されている。


「そして最終的に、ブラックホールがこれらの非常に強力な“ジェット噴射”をどのように正確に発射するかを説明できるかもしれません」(マッテオ・ルッキーニ博士)


 今のところきわめてレアケースである大質量ブラックホールによる恒星の潮汐破壊現象の研究を通じ、まだまだ謎が多いブラックホールについての理解が少しずつでも深まっていくことを期待したい。


参考:「Metro」ほか

tocana

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