生活の変化が招く「難聴」リスク。健聴者も耳の不自由な方も、すべての「人」と「音」がもっと良い関係を築ける未来につなげるBoCoの取り組み
2022年12月16日(金)11時0分 ソトコト
現代の“耳”にまつわる事情を聴く。日常的なイヤホン・ヘッドホン着用が招く難聴リスクと、その先の危うさ
ソトコト 本日はよろしくお願いします。BoCo社は骨伝導イヤホンをはじめとする、さまざまなサウンドデバイスを展開している企業ですが、これらを使ったSDGsの取り組みにはどんなものがあるのか、お話しいただけますでしょうか。
謝 私どもの取り組みとしては、大きく二つありまして、一つ目は「難聴リスクの低減」です。2015年よりWHOが毎年発表するファクトシートというものがあるのですが、そのなかでスマートフォンの長時間利用による難聴リスクについて繰り返し言及されています。最近は仕事でもリモートワークが増えた影響でオンライン会議が日常化し、また、仕事でなくとも友達とゲームなどで遊ぶ際にもヘッドホンをつけて通話をしながらというケースも増えています。これにより、世界中で12歳から35歳までの若い世代、約11億人に対してこの難聴リスクがあると言われています。
難聴というと一般的に大きな音を聴き続けることで起こるもの、適正な音量で使っている自分には関係ないよ、と考える方もいるかもしれませんが、大きな音でなくても、長時間にわたって鼓膜に負担をかけ続けることでも難聴のリスクは高まります。
ソトコト 確かにこの数年は生活のなかでイヤホン、ヘッドホンをつける時間が増えたと感じます。まだ、何か影響が出ているとは感じませんが、ダメージは蓄積しているかもしれないわけですね。
謝 それを解決するために、ぜひ骨伝導イヤホンを活用してほしいと考えています。私は骨伝導のことを“第二の聴覚”と呼んでいますが、骨伝導イヤホンは音を伝えるのに鼓膜を使いません。そのためスマートフォンの利用時やオンラインでの会議などで長時間使うことがあっても耳にダメージを与えず、難聴のリスクを大きく低減することができるんです。
この、いま耳が自然に聞こえている方たち、健聴者の方の難聴リスクを低減したいというのが、私どもの一つ目の取り組みです。そして、もう一つはいま現在、聴覚に障害を持っている方々の助けになりたいというものです。
日本にはおよそ1,500万人、聴覚に何らかの障害を持っている人がいると言われています。耳が不自由な人というと「補聴器をつければいいじゃないか」と思われるかもしれませんが、このなかで補聴器を利用している人は約198万人で、さらに補聴器を活用している人の割合となるとこの1/3、全体から見ると5%程度です。つまり、95%の方が聞こえ方に不便を感じながら生活をされているんです。
ソトコト なぜ、補聴器の利用が広まらないのでしょうか?
謝 それは、言ってしまえば補聴器に機能上の問題があるからです。いまの一般的な補聴器というのは、結局耳元で怒鳴っているのと同じなんですね。大きな声を出すから聞こえているようなもので、これもまた鼓膜に負担をかけてしまうんです。そのため、補聴器をつけることでもっと耳が悪くなって、毎年のように調整をしなくてはなりません。問題を根本から解決するのではなく、先送りにしているようなものなんです。
そのため、聞こえにくいのを我慢してしまう方も多いのですが、この「聞こえない」ということのリスクは思っている以上に大きく、耳からのインプットが減ることで、うつや認知症などにもつながっていきます。この問題を解決することは、大きなソーシャルグッドにつながると思っています。
骨伝導イヤホンがもたらしたソーシャルグッドの事例
ソトコト 健聴者に対しても、また耳の不自由な方にとっても骨伝導イヤホンを活用することで、いわゆるQOLの向上が見込めるということですが、具体的な事例などを挙げていただけますか。
謝 まず、よくお寄せいただくのがジョギングなどが趣味の方ですね。骨伝導イヤホンは鼓膜を使わないと繰り返し申し上げていますが、これはつまり周囲の音は聴こえるということなんですね。なので音楽も聴きたい、でも周囲の音も聞き漏らしたくないといった状況にも対応できるんです。ジョギング中に音楽を聴きたいけれど、車や自転車の音も聞き逃したくない、そんな方に喜ばれています。また、これの発展形ですが骨伝導イヤホンは、通信をしながら周囲の音も聞くという状況に適しているので、工事現場や救急の現場でも活用されています。
また、子育て中の若いお母さまからも役立てていただいていると聞きます。たとえば小さなお子さんが寝ていたり、あるいは勉強などをしている傍らで家事をするとき、気晴らしに音楽を聴きたいけれど、子どもが泣いたり、声を出したらすぐに反応したい。そういうときにも耳を空けておくことができます、こうした“ながら聴き”において骨伝導イヤホンは非常に役立つんです。
ソトコト 二つの音や声を同時に聴きたいというシチュエーションって、意外と多く普段の生活のなかにあるんですね。
謝 これらは健聴者の方からの声ですが、難聴の方からは、聴こえるようになったことで家族との会話が増えたというお声をいただきます。また、補聴器をつけることで障碍者であるかのように見られることが嫌だったという方からも骨伝導イヤホンであればそう思われないので助かっていると言われたこともありますね。
私どもの企業理念には“Your Happines is Our Business”というものがありますが、こうしたお声をいただくことは大変うれしく思います。
ソトコト 子育て中のお母さんにも活用されているというのは、確かに大きなソーシャルグッドだと感じます。
謝 若い女性へのウェルビーイングというのもSDGsの一つですからね。また、イヤホンやヘッドホンってデザイン的にも無機質というか、どちらかというと男性向けのものが多いと私は感じていて、BoCoの骨伝導イヤホンではどなたにも気持ちよく使っていただけるように男性向け・女性向けそれぞれのラインナップをしっかり整えたいと考えています。
ソトコト 先ほど補聴器の抱える問題についてお話しいただきましたが、骨伝導の補聴器というのは存在しないのでしょうか?
謝 あることにはありますが、技術的な観点からやはり機能が十分でないと感じられる方が多いようです。私どもの骨伝導イヤホンも、どんな重度の聴覚障害の方にも対応できると断言することはできませんが、たとえば15年以上補聴器を使って不満を持っていた方から(BoCoの骨伝導イヤホンで)聴こえるようになったと伝えていただいたこともあります。なので、BoCoの製品を選んでいただけるようになれば、もっとhappinessを広げていくことができるのではないかと考えています。そのためにより技術力を高め、安心安全・快適・健康なデバイスを作っていきたいですね。
ソトコト 確かに、あとは知名度だけと感じます。今回、取材に応じていただいたことで少しでも認知拡大につながればと思いますが、BoCo社でほかに手がけられていることはありますか。
謝 デフリンピックをご存じでしょうか。これは耳の聞こえないアスリートによるオリンピックです。2025年に東京でデフリンピックが開催されますが、BoCoもこれに協賛させていただきたいです。このタイミングが一つのターニングポイントになればと考えています。
日本という国のサスティナビリティも視野に。製造大国の生存に“技術”と“モノづくり”は不可欠
ソトコト では最後になりますが、BoCo社の取り組みの今後の展望などをお話しいただけますか。
謝 BoCoの骨伝導イヤホンが健聴者の方にも耳の不自由な方にもソーシャルグッドをもたらし、すべての「人」と「音」がよりよい関係になれればと思います。また、これは骨伝導イヤホンに限ったことではないのですが、モノづくりを通じてこの日本という国のサスティナビリティにも貢献することを目標にしています。
日本という国はモノづくりでなければ立国することができません。貿易立国であったり、金融立国というのは地政学的にも難しい国家なんです。ITについても難しいと思われます。しかし、私どものようなメーカーが頑張って、かつてのSONYやPanasonic、本田技研のような日本発のリーディングカンパニーが生まれることで経済を立て直すことができるかもしれません。
私は“技術”というものを非常に重要なものだととらえていて、今後、日本が生き残っていけるかどうかはこの技術や”モノづくり”がキーになると考えています。かつて、日本は製造大国でした。その気質は今も変わっていません。製造大国がモノを作れなくなったら終わりですよね。だからこそ、モノづくりのベンチャーとしての自負を持ち、モノづくりでこの国は復活できると訴えていく、問題提起していくことがBoCoの果たすべき社会的意義だと思います。それにむけて、どんどん新しい“モノ”をお届けしていきたいですね。
ソトコト 本日は、ありがとうございました。
謝 端明(しゃ はたあき)
コニカ株式会社(現コニカミノルタ)の生産技術研究センターで4年弱勤務した後、アンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)等の経営コンサルティング会社でSCMや生産改革のプロジェクトマネジャーを歴任。日本の製造業を中心とする企業の経営改革・変革支援業務に従事。2015年BoCo株式会社を創業し代表に就任。主な著書は「中国で企業を育てる秘訣」(共著・東洋経済)等。中国江南大学電気工学部卒・早稲田大学経営システム工学科修了(工学修士)。