青木さやか「亡き父の故郷・富山県の利賀村へ一人旅をすることに決めた。陸の孤島、道に迷って思わぬ出会いも…」【2023編集部セレクション】

2024年12月24日(火)12時0分 婦人公論.jp


目指す場所の途中、道に迷い、偶然知り合った方と1枚(写真提供◎青木さん 以下すべて)

2023年下半期(7月〜12月)に配信した人気記事から、いま読み直したい「編集部セレクション」をお届けします。(初公開日:2023年9月25日)
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青木さやかさんの連載「51歳、おんな、今日のところは『……』として」——。
今回は「利賀村に行く人として」です。

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前回「腰が痛い、足が重い、上がらない、足裏も痛む…検査を受けてみたら、椎間板ヘルニアだった!」はこちら

一人旅をすることになった


利賀村。というのは父の故郷である。 富山県南砺市利賀村。 陸の孤島とも呼ばれている。何しろ行きにくい場所なのだ。

父は、利賀村の山の上の方で生まれ育ち、大学で名古屋へ出た。そこから愛知県民になるのだが、父はそういえば富山が大好きであった。利賀村が大好きであった。

父が生きていた時は、ああそうですか、と聞き流していたが、亡くなってから、わたしは利賀村に興味を持ち始めた。何故かわからない。ファミリーヒストリー的関心だろうか。

というわけで、父のルーツを探りつつも利賀村にできたレヴォというレストランにも行ってみた(昨年テレビで福山雅治さんも行っていた!) 。実は昨夏行く予定であった利賀村、娘の体調が優れず断念。 今年こそ、と予定を立てたのだ。

「利賀村、行きましょうよ」 娘を誘った。 「行かない」 はやい! ならいいですよ、一泊でママは行きますけれど、パパのおうちに行っていてくださいね、と伝え、わたしは同行してくれる友人数人に声をかけたが皆難しく、一人旅をすることになった。

レンタカーを借りていざ出発


レヴォは全国の美食家が通うレストランなのだが、わたしは別に美食家ではない。美味しいものは好きだが詳しくない。気に入ったものは毎食でも構わないわ〜なんてところもある。そんな自分が行って果たして大丈夫か。まあ、大丈夫だろう田舎だし。(失礼)

10時半。新幹線で富山駅に到着。 レンタカーを借りて(ヴィッツ)いざ出発。レヴォを目的地に入れようとすると、細かいところまではナビがなく、大体の場所にナビを入れると約2時間。遠い。さすが陸の孤島。

レヴォの予約は12時半だから急がねば。わたしはヴィッツに頑張ろうねと声をかけながら、ラジオの音量を上げた。

アルフィーの坂崎さんがパーソナリティのそのラジオからはタイトルはわからないが、晴れわたる青空と白い雲にピッタリの軽快なポップスが流れてきた。


利賀村の美しい自然

わたしは、もし道を間違えたら時間通りつかないぞ、と集中しながらも、既に、この旅が楽しくて仕方がなかった。

やつお風の盆で有名な八尾を通り過ぎ、[利賀村こちら]という立て看板が見えた。父もこの道をきっと通ったに違いないと思うと、センチメンタルな気持ちになった。

そういえば、母を思うことは多いが、あまり父のことは思い出さないので、今日はわたしにとっての父の日だ。

通行止め!


そんなことを考えていると、 あれ、ここで合ってるのかしらと思うほど崖っぷちの細い山道を走っていた。

対向車はしばらく見ていない。この崖から下に落ちたら大変とハッと息を吐いた。急カーブを曲がるたびに、よし!よし!と小さくかけ声をかけた。

父の母は、利賀の山道を運転中に崖に落ちて亡くなった。そこにはお地蔵さんが建てられている。 このあたりの山道の曲がり角には、所々にお地蔵さんがあり、昔は今より道路事情がよくなかったのであろう、亡くなられた方が沢山いたようだ。

わたしも気をつけねば。汗がじわりと出てきた。 気がつくと、だいぶ山の中にきたのか、木々と川、空と雲しか、みえなくなってきた。建物もないのだ。 ヴィッツと共に、2時間近く走ってきたが、そろそろレヴォに着いても良さそうなのだが。


本連載から生まれた青木さんの著書『母』

行き過ぎたのだろうか。 だけど、それらしき建物もなかった。 いや、だが、店は、かなりの山奥にあるという話だったし、もう少し行ってみようとヴィッツを走らせるが、もはや、本当に、自然以外は何もない!30分以上、車も人も見ていない! ヴィッツをとめて、スマホをみると圏外。ラジオも圏外。

いよいよドキドキしてきた。わたしは、大丈夫かな、とかヤバいですね、とか何かしらのひとりごとを言いながら、仕方なくさらに走ると、細い道が更に細くなり、草むらをかき分けて走ると、目の前に 通行止め! と手書きで書いた看板があらわれた。

道には、通れないように木が打ちつけてある。 やっぱり行き過ぎたんだ。 道を間違えた? 間違えるもなにも、一本道だったし! わたしは、無事に帰れるのだろうか。一瞬で安全だと言われる日本でも人は孤独で不安になれるのだ。

何かが猛スピードでやってきた


涙目になりながら、細い道でUターンし、今来た一本道を、はっはっと息をしながら引き返す。 誰かに、会いたい。 建物が、みたい。 そこへ坂の下から何かが猛スピードでやってきた。 自転車?まさか。こんなところで。

いや、確かに自転車だ! わたしは道の真ん中にヴィッツを止め窓から 「すみません!」と叫んだ。 自転車は止まり、その人は優しそうな男性だった。

「あれ?青木さん?何してるんですか、こんなところで」 それはこっちのセリフだよ。 「行き止まりでしょう、上は」
「そう、そうなんですよ。あの、レヴォというところに行きたくて」

「レヴォは、2.3キロ下ですよ。小さな看板がありますよ、そこを曲がる」
「ああ、そうでしたか、いやあ、ありがとうございます、助かりました本当」

「青木さんせっかくですから」
「はい」
「写真撮っていいですか?」
「じゃあ、わたしも撮っていいですか?」
わたし達は、何故か互いのスマホで写真を撮り、手を振って別れた。

無事到着


わたしは、一路レヴォへ向かった。ヴィッツのメーターで、3キロ走ったが、それらしきものはない。あと2キロ走ってみたが、何もない。さては騙されたか、あれはキツネだったか。

ようやく民家があらわれ、庭に数名の人がいたので、わたしは遠くから 「すみませーん!レヴォはどこですか?」と声をかけた。

すると、 「2キロくらい下!」 と返ってきて、これは2キロ2キロ詐欺かもしれない、と呟きながら 2キロほどゆっくりと走らせると小さな小さな立て看板があり、その細道を曲がると、ようやく、目的地であるレヴォが現れた。

わたしは、無事到着したことに心から安堵し、うおーーー!と利賀の山々に叫びたかったが「いらっしゃいませ」と丁寧でラグジュアリーな店員さんの出迎えに一瞬で圧倒され「こんにちは」とにこやかに応えた。


個性的なレヴオの料理に舌鼓

さて、肝心のレヴォの感想だが食べたことも見たこともない迫力ある料理はとても美味しかったです。また行きます。(食レポ0点!)

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