「ほんとうに革命的なこと」高橋大輔プロデュース『滑走屋』が来年3月に再演、振付担当・鈴木ゆまとともに描く舞台
2024年12月24日(火)8時1分 JBpress
文=松原孝臣 撮影=積紫乃
演出家という目線じゃなく同じ目線で
独自の世界観を築くことで圧倒的な好評を博した東京パノラマシアターの公演『MoMo de la Paris 〜パリから来た桃太郎〜』。
主宰であり脚本・演出、そして出演した鈴木ゆまは、公演にあたっての3カ月に及ぶ稽古の様子をこう語る。
「『今日は私は何も言わないので、皆さんが一人ずつ演出家になってシーンを作ってください』って日もありました。そのシーンに関係する俳優の方、ダンサーの子が一人ずつ演出プランを考える時間があって、みんなそれぞれにこういうステージングにした方がいいとか、こういうダンスを踊った方がいいとかを考えて、どうしてそういうステージングにしたかを聞くと、どういう存在で、どういう関係性で、このシーンではどうしなければいけないのか、だんだん削られて見えてくるんですね。そこから演出を決めていくと、みんなへの浸透率がすごく高くて、結果的にみんなの中でこれは必要なことだよね。これは不必要だねっていうことが最短距離でできます」
さらに言葉を加える。
「やっぱり決め事が多いので、最終的に私が決めなければいけないことももちろん多いんですけど、でもそこに至るまでにやっぱり多くの人が関わってくれて、みんなが主体的に考えて作品を求める状態が私は好きです。カンパニーをせっかくやっているんだったらみんなで創っているという感覚が持てる集団にしたいなと思っていましたし、それができるメンバーを今回集めました」
みんなで創る姿勢を大切にしながらも、それを一つの作品にまとめあげるには、やはりリーダーシップを必要とする。
「そうですよね。みんなが言いたいことの中から、作品に必要なエッセンスを抽出していく力がリーダーシップだと私は思うんですね。そこはみんなとの信頼関係だと思いますし、今年2月の『滑走屋』が私の中では大きいですね。『滑走屋』のとき、どういうリーダーシップを発揮してみんなを率いていたかを常に思い出しながら、どうやってこの集団を引っ張っていこうかと何度も思いましたね」
高橋大輔が立ち上げた『滑走屋』に、鈴木ゆまは振り付け等で参加した。そのときの経験の大きさを語る。
「若い人に対して、年齢が自分が上だとかそういうことが関係ないという姿勢が一つあります。『桃太郎』もすごく若い子たち、20代前半の子が多くて、キャリアもそんなに踏んでいない子がたくさんいましたけれど、なるべく稽古場で気にしてあげて、うまく役と向き合えていられるか、もっと役と向き合えるためにはどうしてあげたらいいのかってことを、演出家という目線じゃなく同じ目線で考えてあげるようにしました。メダリストの高橋大輔じゃなく、ちゃんと目の前の人に訴えかける、話しかけることをされていて、これはすごく人との人とのつながりが生まれてついていくよな、と思って見ていましたし、こうやって人がついてくると、みんなが輝いている作品になるんだなって思いました。『桃太郎』も、そこは意識していました」
「また新しい『滑走屋』ができあがる」
『滑走屋』から糧を得た鈴木ゆまだが、『滑走屋』を画期的な公演とした原動力の一つ、集団のフォーメーションやスケーターたちが描く構図の振り付けは、東京パノラマシアターなどで培われたものだ。『桃太郎』でも限られた舞台空間において、多くの出演者が狭さを感じさせない集団での踊りを披露したが、そこにも「共有」の大切さがあると言う。
「『桃太郎』でも1個、1個すごく丁寧に作りました。みんなのフォーメーションも全員が理解したり、そのシーン、ナンバーで目指すところとかを話し合ったり、時間を重ねて共有したことが大きいと思います」
『滑走屋』は鈴木ゆまから大きな糧を得て、鈴木ゆまも『滑走屋』から得たものがあった。幸福な関係にあるとも言える『滑走屋』は、来年の3月8・9日、第2回公演が広島の「ひろしんビッグウェーブ」で開催される。鈴木ゆまも再び参加する。
「広島で上演できるということで、そこに至るまで、スタッフさんそして福岡公演から応援してくださったファンの方々に、本当にありがとうございますとお伝えしたいです。そして、こういう素晴らしい機会をくれた高橋さんにも本当に感謝しています。
再演とは言いつつ、今回新しいスケーターさんも出られますし、高橋さんと話してみても、きっと同じにはならないと思うんですね。また新しい『滑走屋』ができあがるし、同じでは駄目だというプレッシャーがあるので、基本的なナンバーは同じにせよ、私としては新しいものをつくるという気持ちで挑んでいきたいなと思います。この前、福岡公演を観返してみたんですけど、私の中でも『ここ、もうちょっとこうしたいな』『もう少しこうだったら世界観が伝わりやすいな』と感じたところがいっぱいあるので、大輔さんや哉中ちゃん、演出チームで話しながらスケールアップした『滑走屋』を創造したいと思っています」
そしてこう語った。
「大輔さんが『滑走屋』を始めたということは、ほんとうに革命的なことだと思っているんですよ」
それは鈴木ゆまの言葉を思い起こさせた。
「新しいことをやるというのはすごく勇気がいるし、批判もされることがあって、お芝居だけとかダンスだけだとすごく分かりやすいんですけど、どちらでもなくどちらでもあるという新しい表現方法を提示していくという思いでやってきました」
「革命的なこと」という高橋への言葉は、どこかで志を等しくするであろうことから来る共感と賛辞であるようだった。
そして再び、公演への日々が始まろうとしている。
筆者:松原 孝臣