【気象キャスターが教える】台風はどこからやってくるのか?

2024年2月24日(土)6時0分 ダイヤモンドオンライン

【気象キャスターが教える】台風はどこからやってくるのか?

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空が青い理由、彩雲と出会う方法、豪雨はなぜ起こるのか、龍の巣の正体、天使の梯子を愛でる、天気予報の裏を読む…。空は美しい。そして、ただ美しいだけではなく、私たちが気象を理解するためのヒントに満ちている。SNSフォロワー数40万人を超える人気雲研究者の荒木健太郎氏(@arakencloud)が「雲愛」に貫かれた視点から、空、雲、天気についてのはなしや、気象学という学問の面白さを紹介する『読み終えた瞬間、空が美しく見える気象のはなし』が発刊された。西成活裕氏(東京大学教授)「あらゆる人におすすめしたい。壮大なスケールで「知的好奇心」を満たしてくれる素敵な本だ」、鎌田浩毅氏(京都大学名誉教授)「美しい空や雲の話から気象学の最先端までを面白く読ませる。数学ができない文系の人こそ読むべき凄い本である」、斉田季実治氏(気象予報士、「NHKニュースウオッチ9」で気象情報を担当)「空は「いつ」「どこ」にいても楽しむことができる最高のエンターテインメントだと教えてくれる本。あすの空が待ち遠しくなります」と絶賛されている。今回は、気象予報士の津田紗矢佳氏の原稿を特別に掲載します。

Photo: Adobe Stock

私たちの生活に大きな影響を及ぼす台風

 台風は毎年のように大雨や暴風などの被害をもたらします。

 2023年を振り返ってみると、台風6号によって沖縄を発着する航空機や船が運航できなくなり、観光客が長期間足止めされたり必要物資が届かなかったりしました。また、関東でも台風13号の影響で記録的な大雨となり、道路の冠水や川の氾濫などが相次ぎました。台風による大雨や暴風で、命を落とす方も少なくありません。

 災害を引き起こす台風は、どこで生まれ、どのようにして日本へやってくるのでしょうか。

2023年台風6号。沖縄付近で渦を巻く様子が気象衛星によってとらえられた。(写真:ウェザーマップ)

台風の正体を知る

 そもそも台風とは、積乱雲(雷雲)が集まったもので、日本の南の熱帯や亜熱帯の海上で生まれます。この海域では、風と風のぶつかり合いによって積乱雲が多く発生しているのです。この積乱雲たちが集まって渦を巻きはじめたものを「熱帯低気圧」といいます。

 熱帯低気圧は「台風の卵」と呼ばれることもありますが、すべてが台風になるわけではありません。熱帯低気圧内の最大風速(10分間の平均風速)が17.2m毎秒以上になると、ようやく「台風」となります。

 台風が発生すると、ニュースでは台風の情報を連日扱うようになります。なかでも進路は、どの地域で台風の影響が大きくなるかにかかわるため非常に重要です。

「進路」というと、台風自身が動いているように思われるかもしれませんが、実は台風は自分自身ではほとんど動かず、周囲の風に流されて動いています。

 台風を動かす風は主に二つあり、一つは「太平洋高気圧のまわりを流れる時計回りの風」で、もう一つは「上空の強い西風である偏西風」です。南の海上で生まれた台風は、太平洋高気圧の縁に沿って北上し、その後、日本付近で偏西風に流されて、東へ向きを変えるようになります。

 太平洋高気圧の勢力や偏西風の位置は季節によって変わるため、台風の主な経路も季節によって変わります。夏から秋にかけては、太平洋高気圧と偏西風が台風を日本に運びやすい位置にいるため、台風が日本にやってくることが多くなるのです。

 このようにして、台風は熱帯や亜熱帯の海上で生まれ、その多くは発達しながら太平洋を北上し日本にやってきています。

台風の月別の主な経路(実線は主な経路、破線はそれに準ずる経路)。(図:気象庁)

月別の台風接近・上陸数の平年値(1991〜2020年の30年平均)。気象庁資料に基づいて筆者作成。接近数も上陸数も、8月〜9月をピークに夏から秋にかけて多くなっている

地球温暖化の影響

 気象庁気象研究所の研究によると、過去40年で東京など太平洋側の地域に接近する台風が増えてきており、これらの台風は強度がより強く、移動速度が遅くなっていることが明らかになりました。そして、地球温暖化が進んだ場合、今世紀末には日本の位置する中緯度を通る台風や熱帯低気圧の移動速度がさらに約10%遅くなるといいます。将来的に、台風による大雨や暴風などの影響を受ける時間が長くなる可能性があるのです。

 台風の影響は国内の居住地だけにとどまりません。

 例えば、国内外における航空機や船舶などの輸送です。航路上に台風が来れば、輸送スケジュールに遅れが出たり、遅れが出た分保管のために余計なコストがかかったりします。

 また、化石燃料の輸入先である東南アジアで台風による大雨が発生すると、日本で発電する際に必要となる化石燃料が採掘できなくなるなど、日本国内にも間接的に影響が出てしまうということです。

 地球温暖化によって台風は変わりつつあります。

「これまで通り」が通用しなくなる時代に備え、家族間や会社内で対策を進めておく必要があるのです。

【参考文献】気象庁「台風の月別の主な経路」 https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/typhoon/1-4.html気象庁「台風の平年値」 https://www.data.jma.go.jp/fcd/yoho/typhoon/statistics/average/average.html経済産業省資源エネルギー庁「令和4年度エネルギーに関する年次報告(エネルギー白書)」 https://www.enecho.meti.go.jp/about/whitepaper/2023/pdf/気象庁気象研究所プレスリリース「過去40年で太平洋側に接近する台風が増えている」 https://www.mri-jma.go.jp/Topics/R02/020825/press_release020825.pdf気象庁気象研究所プレスリリース「地球温暖化によって台風の移動速度が遅くなる」 https://www.mri-jma.go.jp/Topics/R01/020108/press_release.pdf

(本原稿は、荒木健太郎著『読み終えた瞬間、空が美しく見える気象のはなし』の内容と関連した、ダイヤモンド・オンラインのための書き下ろしです)

津田紗矢佳(つだ・さやか)
気象翻訳者。気象予報士・防災士
1987年生まれ、山口県出身。上智大学文学部英文学科卒業。大手法律事務所で渉外秘書として勤務したのち、2016年に気象予報士資格を取得。現在はウェザーマップに所属し、テレビ朝日「日曜スーパーJチャンネル」気象キャスター、テレビ朝日気象デスク、あきたいざたんアンバサダーリーダーを務める。Yahoo!天気・災害動画出演中。防災・減災のために、天気や防災をわかりやすく伝える気象の翻訳者として、執筆・講演・出演などの活動を行っている。著書に『天気を知って備える防災雲図鑑』(文溪堂)、『空を見るのが楽しくなる!雲のしくみ』(誠文堂新光社)がある。
X(Twitter)・Instagram:@sayapontenki

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