俳句の季語にもなっている「卵」の旬は春だった!?

2021年3月5日(金)10時30分 ウェザーニュース

2021/03/05 08:52 ウェザーニュース

現在では養鶏技術の発達もあって、鶏卵は1年中、手軽に入手が可能な食材になっていますが、もともとの旬は春だったそうです。「歳時記」でも卵は春の季語に定められ、「鶯や小山の裾の卵塔場」(正岡子規)、「卵一つ立春の藪動乱す」(原田喬)など俳句も多数、詠まれています。
なぜ卵の旬が春なのか、鶏卵料理の歴史などもふまえながら、歳時記×食文化研究所の北野智子さんに解説をしてもらいました。

原種に近い鶏は春にしか卵を産まなかった

「平飼いや放し飼いなど本来の生態に近い環境で育った鶏の有精卵については、春が旬だといえます。理由は、およそ1000年前からいる原種に近い鶏は、春の時季にしか卵を産まなかったからといわれています。
品種同士の掛け合わせが進んだ現在でも、1年のうちで鶏のコンディションが最もいい季節は春で、『春卵は美味』とされています。この時季、土に芽吹いた新芽を食べた鶏は、春の息吹を身体に取り入れるであろうことからも想像がつきます。
中国の暦(こよみ)に基づく七十二候の最後の候(1月末〜2月頭)を、『鷄始乳(にわとりはじめてとやにつく)』といいます。これは、春の訪れを感じた鶏が卵を産み始める頃を示しています。また、産むという意を持つ「乳」を「とや」と読ませているのは、その語源は「鳥屋(とや)」で、鳥を飼っておく小屋のことです。
ヨーロッパでも、卵は昔から冬の終わりを祝う『春の象徴』でした」(北野さん)
イースター(復活祭、2021年はローマ・カトリック西方教会が4月4日、ギリシャ正教が5月2日)の時季に、『イースターエッグ』として贈り物に用いられたり、卵料理を食べたりして祝っているそうです。

「精がつく」とされていた日本の卵

日本では長く卵料理は現れなかったようで、文献にも登場しません。卵料理文化が花開くのは江戸時代のことだそうです。
「天明5(1785)年に『万宝料理秘密箱』という103種もの卵料理が紹介されている料理本が出版されています。『卵百珍』とも呼ばれて人気を博したこの本は、世界初の卵料理に関するクッキングブックといわれています。
その後の江戸後期、江戸や京都・大坂の風俗を絵入りで記した『守貞謾稿(もりさだまんこう)』という事典的な書物によると、かけそばやうどんが十六文(現在なら400円ほど)だったこの頃、出商人(であきんど)がちまたで売り歩く『湯出鶏卵(ゆで卵)』が1個二十文(500円ほど)でした」(北野さん)
ゆで卵1個がかけそばよりも高いとは、かつては卵が高価な食材だったことが分かりますね。ちなみに、鶏卵うどん(卵とじうどん)は三十二文(800円ほど)だったそうです。
「湯出鶏卵売りの掛け声は『たあまご、たあまご』と必ず二声で、一声でも三声でもなかったそうです。手ぬぐいでほっかむりをして着物の裾をからげ、たるんだ股引(ももひき)を履いていて、見るからに妖(あや)しい姿だったと伝えられています。
当時鶏卵は『精のつくもの』とされ、多くは遊郭の吉原(よしわら)界隈で売り歩いていたそうです」(北野さん)
安価で手に入りやすくなった鶏卵はいま、「物価の優等生」と呼ばれています。旬とされたこの季節、高価な食材だった時代をしのびつつ、卵料理を楽しんでみてはいかがでしょうか。

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