万博でも注目! CO2を栄養源に“プラスチック”を作る“細菌”って?

2025年4月18日(金)5時10分 ウェザーニュース

2025/04/18 05:00 ウェザーニュース

桜のシーズンは1年のうちでも特に天気が気になる時季です。このまま地球温暖化が進めば桜の開花時期がずれたり、お花見頃の天気も変わってしまうのではないか心配になってきます。
地球温暖化に大きな影響を与えているとされるのが大気中の二酸化炭素濃度ですが、今、その二酸化炭素からプラスチックを作る細菌の研究が進んでいるのです。しかも、そのプラスチックには、海洋プラスチックごみ問題の解決に役立つ性質も備わっているといいます。

大阪・関西万博でも「水素酸化細菌」の活用事例を紹介(画像提供/経済産業省)

大阪・関西万博の日本政府館「ファームエリア」でも紹介されるこの細菌について、株式会社カネカの広報部メディアリレーショングループに詳しく教えていただきました。

CO2からプラスチックを作る微生物とは

地球温暖化の大きな原因の一つとして、二酸化炭素(CO2)などの温室効果ガスの影響があります。2019年の地上付近における大気中の二酸化炭素の世界平均濃度は410.5 ppm7、工業化以前の約1.5倍となっています。
CO2からプラスチックを作るとは、いったいどんな微生物で、どんな仕組みなのでしょうか。
「水素酸化細菌といい、CO2を体内に取り込んで特殊な有機物に変え、体内にためる性質があります。ちょうど人が食べ物を食べて脂肪として体に蓄えるように、CO2を食べて特殊な有機物として蓄えるのです」
どうしてCO2が有機物に変わるのでしょうか。
「水素酸化細菌にCO2だけでなくH2(水素)・O2(酸素)を与えます。すると、細菌内で水素が酸化する際にエネルギーが生じます。そのエネルギーを使ってCO2を有機物に変換させるのです」

CO2を吸収してプラスチックの代わりとなるものを作るというのは画期的です。
「水素酸化細菌から生み出される有機物を取り出したものが、プラスチックの代わりとなる生分解性バイオプラスチックで、『Green Planet(グリーンプラネット)』と名付けました」

自然にかえるバイオプラスチック!?

「Green Planet」は作る過程でCO2削減に役立つだけでなく、素材として優れた特徴を備えているといいます。
「まず、一つめは、成形しやすく安全であること。プラスチックの代わりにカトラリーや買い物袋、ストローなどの材料となります。
そして、微生物により生分解されること。『Green Planet』は自然界に存在する様々な微生物に“食べられ”、最終的にCO2と水になるのです。しかも土中だけでなく、既存の生分解性バイオプラスチックでは難しかった海水中でも生分解されます」

90日間でストローとナイフが生分解する様子(画像提供/カネカ)

海洋プラスチックごみは、環境問題として存在感を増しています。石油から作られたプラスチックは海などに流出してしまうと生分解されることなく残り、さらに微小なマイクロプラスチックとなって食物連鎖に取り込まれ、生態系への悪影響が危惧(きぐ)されているものです。

石油由来のプラスチックの代わりに!?

実は、すでに「Green Planet」を使った製品は、私たちの生活の中にいくつもあるといいます。

「『Green Planet』を作る細菌は、1990年代にカネカの高砂工業所の土の中から発見されました。
植物由来の油から生分解性バイオポリマーを生み出すもので、様々な改良を重ねて、生成される生分解性バイオポリマーの質の改善や量産化、また廃食用油も使えるようにするなどしてきました。
最近、スターバックスが紙ストローから環境に配慮した植物由来のバイオプラスチックストローに切り替えることが話題となりましたが、この材料が『Green Planet』です」

スターバックスのストローにも「Green Planet」が使われている(画像提供/カネカ)

「大阪・関西万博でも、堆肥化(たいひか)可能な生分解性プラスチックとして一部の食品容器、カトラリーに使用されます。
ほかにも、ホテルチェーンでは歯ブラシやヘアブラシなどのアメニティ、コンビニエンスストアのスプーン、空港店舗のショッピングバッグのほか、食品容器、包装材などに使われています(※)」
※「Green Planet」は海洋生分解性を証明する国際認証「OK biodegradable MARINE」を取得

脱炭素プラスチックの未来

近年、藻(も)などの海洋植物が光合成によりCO2を吸収し、海底などに蓄積する働きが「ブルーカーボン」として世界的に注目されています。
「水素酸化細菌がCO2を吸収する能力は、藻類の50〜70倍あります。光合成を通じてCO2から生成される植物油を原料とするよりも、CO2をダイレクトに原料として生分解性プラスチックを作るほうが効率的であり、省資源になります」
CO2由来の生分解性プラスチックは、まだ実用化できていませんが、カネカは兵庫県内の工場に細菌培養槽を新設し、生産工程の効率化と安全性の向上を図るといいます。
「将来的には大容量の培養槽での実証実験など行い、CO2を原料とした『Green Planet』の量産化につなげていく計画です。今後、CO2を効率的に『Green Planet』に代える菌への改良とスケールアップ技術の確立に取り組み、2030年度までに培養槽の容量を10万リットル相当に拡大することを目指します。
いずれ『Green Planet』が、環境へのプラスチックの負荷を減らすだけでなく、脱炭素にも役立つ循環型のバイオものづくり技術として世の中を変えていくことを期待しています」
近い将来、バイオプラスチック製品を使うことが、脱炭素社会、地球温暖化の緩和に役立つ選択肢となるのかもしれません。
ウェザーニュースでは、気象情報会社の立場から地球温暖化対策に取り組むとともに、さまざまな情報をわかりやすく解説し、皆さんと一緒に地球の未来を考えていきます。
参考資料
文部科学省及び気象庁「日本の気候変動 2020 — 大気と陸・海洋に関する観測・予測評価報告書 —」

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