桜島と錦江湾望む絶景なのに密林状態はもったいない…イチョウ1200本植え「桃源郷」に

2025年4月20日(日)18時3分 読売新聞

中馬吉昭さん

[この人に聞く 垂水千本イチョウ園主 中馬吉昭さん]

 錦江湾を望む鹿児島県垂水市の山中に約1200本のイチョウを植樹し、市を代表する観光地「垂水千本イチョウ」に育てあげた中馬吉昭さん(83)。秋のシーズン中は約5万人が訪れる。そのにぎわいを春にも呼び込もうと、桜並木の整備も進めている。

 ——植樹をするようになったきっかけは。

 「50年ほど前、東京から妻の実家がある垂水市に移り住んだ。近くに代々所有する山があり、錦江湾や桜島、開聞岳を一望できた。絶景なのに、密林状態になっているのは『もったいない』と感じ、1978年から伐採を始め、イチョウの木を毎年50〜60本ずつ植えていった。よそ者に対する雰囲気があったので、少しでも和らげられたらとの思いもあった」

 ——なぜイチョウを。

 「子供の頃、明治神宮外苑のイチョウ並木に心を奪われたのがきっかけ。当初は観光名所にしたかったわけではなく、自分で景観を楽しむ“桃源郷”にするつもりだった。伐採や除草、植樹に費用がかかったとしても、ギンナンを拾って売れば何とかなると思った」

 ——2008年から一般公開している。

 「一般公開する数年前から、秋になると見物客が訪れていた。垂水フェリーから、一部分だけ黄色に色づく山が見えていて、利用客の間でうわさになっていたらしい。11年には県の第1回景観大賞を受賞した。今ではシーズン前に地域の方々100人ぐらいが清掃活動に参加してくれるようになった」

 ——ユーモアあふれる文言も訪れる人を楽しませている。

 「垂水千本イチョウのことを印象づけたくて、『僕立公園』と冠をつけたり、『垂水世間自然遺産』と勝手に命名したりした。若い頃、都内のデパートに勤めていて、顧客の満足度を上げるための工夫を考えていた。癖かもしれない」

 ——春には桜も見られるようになった。

 「イチョウは秋だけなので、『他の季節にも人を呼べるような仕掛けをしてほしい』という地元の声に応じた。10年ほど前から20本ずつ桜の苗を植えており、徐々にきれいな花を咲かせるようになってきた」

 「イチョウ並木ののり面に並行して植えており、あと数年もすれば、桜並木の通りもできそうだ。桜のことはまだあまり知られていないが、新たな春の観光スポットになるよう頑張っている最中だ」

ちゅうまん・よしあき=東京都練馬区出身。都内の高校、大学を出て、西武百貨店に入社。垂水市に転居後は不動産会社などに勤務した。現在、午前中は妻の信子さん(82)とイチョウの手入れや除草などを行う。午後は好きな読書に没頭する。司馬遼太郎の作品は全て読破したという。

取材を終えて

 間もなく半世紀という長い時間をかけて、何もなかった山をイチョウで彩る“桃源郷”に変えた。その努力と行動力には、ただただ感服するばかり。原動力を尋ねると、「決して難しいことじゃない」と淡々と答える一方、「世の中の役に立っているという実感が継続を後押しした」とも語ってくれた。夫婦の二人三脚で作り上げた観光スポット。老後の参考にさせてもらいたいと思った。(鶴結城)

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