日米関税交渉、自民党内で「コメ標的」への警戒感高まる…安易な譲歩図れば「農業票離れる」懸念
2025年4月22日(火)6時50分 読売新聞
米国の関税措置に関する自民党の総合対策本部で発言する小野寺政調会長(中央)(21日、党本部で)
米国による関税措置の見直しに向けた日米交渉を巡り、自民党内でコメが標的になることに警戒感が高まっている。夏の参院選を控える中、農産物の象徴的存在であるコメの関税で安易な譲歩を図れば、有力な支持基盤の農業票が離れるとの懸念からだ。(鷹尾洋樹、谷口京子)
元農相で党内農水族の代表格である森山幹事長は21日の記者会見で、「主食用のコメ(の輸入)は、国産米の需給に影響を与えないよう対応することが決まっている」と指摘した。1993年に初めてコメ市場の部分開放を行った関税・貿易一般協定(ガット)のウルグアイ・ラウンド合意を振り返りながら、市場開放の動きにクギを刺した。
関税措置を巡ってこの日に開かれた党総合対策本部の会合でも、日米交渉が農家に与える影響を心配する声が相次いだ。過去の対米交渉では、自民が主導してコメを「聖域」に据え、市場開放要求を拒否してきた。
2016年に署名した環太平洋経済連携協定(TPP)では、衆参両院の農林水産委員会がコメを重要5項目に位置付け、「関税死守」を決議した結果、TPP枠として新たに最大7万トンの無関税輸入枠を設けながらも、高関税は維持した。17年の米国のTPP離脱を受けた日米貿易協定でも、日本が豚肉などの関税引き下げを受け入れる一方で、コメは除外を取り付けた。
農水族のベテランは「コメで譲れば、守ってきた原則が覆る。TPP再交渉という話にもなりかねない」とけん制する。
ただ、現在、国内では不作や流通の目詰まりなどで米価が高騰する「令和の米騒動」のさなかで、TPP交渉時とは状況が大きく異なる。ウルグアイ・ラウンド合意当時も、記録的な凶作でタイ米などを緊急輸入する「平成の米騒動」の直後で、コメの自給体制に不安が広がっていた。
政府が備蓄米の放出などで価格の安定化に取り組む中、供給安定につながる輸入拡大を消費者は受け入れやすいとの見方も政府・与党内にはある。今回、トランプ大統領自らコメに対する関税に言及しており、「取引材料から排除はできない」(自民中堅)との声も出始めている。
政府は自民内の動向も見極めつつ交渉方針を定める構えだ。政府内には交渉をテコに「農業改革を行う好機だ」(高官)との声もあり、コメ関税や農業政策を巡って、政府・与党間の駆け引きが激化する可能性もある。