「女は短大でよい」「大学は地元国立のみ、上京不可」「化粧くらいしろ」…地方出身の“女子東大生”が明かす「生きづらさ」
2025年4月26日(土)7時0分 文春オンライン
日本の最高学府「東京大学」。傍から見れば「勝ち組」「学歴エリート」の学生たちも、人知れず苦悩を抱えている。例えば「女性であること」「地方出身であること」による“差別”に直面することもあるといい「地方出身女性だけ言われる心ない言葉」もあるのだとか。『 「東大卒」の研究 ——データからみる学歴エリート 』(本田由紀編著、久保京子、近藤千洋、中野円佳、九鬼成美著、筑摩書房)より、久保京子氏が執筆した章から一部抜粋してお届けする。(全3回の1回目/ 2回目を読む / 3回目を読む )

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これまで、アンケート調査の結果から、地方女性の特徴を明らかにしていきました。ところで、東大卒業生調査には自由記述欄が設けられています(設問「東大の卒業生としてのご経験や、東京大学が改善してゆくべき事柄について、あなたのお考えを自由にお書きください」)。寄せられた自由記述から、地方女性の特徴について見ていきましょう(引用は原文ママ)。
いくつかの回答では、地方女性の困難についての記述が見られました。彼女たちは、自分たちと、首都圏中高一貫校出身者との違いを身に染みて感じているようです。
「地方出身とは付き合うメリットがない」
〈 東大生には大きく2種類いました。1つは首都圏出身で中高一貫私立出身の人たち。彼らは、親が大企業につとめていて、小さい頃から教育や文化資本に恵まれ、卒業後には有名企業や高収入の仕事に就くことを最初から計画しているようでした。一方、もう1種類は地方出身でなんとなく東大に入った人たち。私は後者で、ただ勉強が好きだったので面白い人たちに出会えるかなと思って東大に入った。(…)実際はまったく違い、勉強だけしてきた男子校出身者が多数。そしてなにより、地方出身者と、首都圏中高一貫出身者のあいだには大きな分断があり、交わることがなかった。彼らの方が、地方出身とは付き合うメリットがないと区別していたのだと思う。大学時に交際した人も、仲良くなった人も、みな、地方の県立高出身者だった。(地方女性Aさん)〉
〈 地方出身者でかつ、女子であるという学内でのマイノリティとしては、首都圏や大都市圏出身で学内外での繫がりも広く優秀な周囲の学生についていくのはとても大変でした。東京大学を出て10年以上経ちますが、今なお東京圏中心の男子学生が多いのは、私のような背景を持つ学生へのケアやフォローが不十分または周知されていないことも一因ではないでしょうか。学生自身の奮起を促すのも大事ですが、東京大学がより多様な背景(出身地、経済状況)の学生を育てられる大学であってほしいと思います。(地方女性Bさん)〉
Aさんは、首都圏出身者と地方出身者で経済的・文化的な豊かさや、入学時点の将来設計で違いを感じているようです。また、東京大学に入学しても多数派である「男子校出身者」「首都圏中高一貫校出身者」との間に分断を感じていることがうかがえます。
Bさんもまた、「首都圏や大都市圏出身」者と比べて、自身が「地方出身者でかつ、女子であるという」東京大学の少数派であると感じています。また、「東京圏中心の男子学生」が多数派であり続けている理由として、地方女性へのケアやフォローが不十分であるという指摘をしています。
地方出身の女性だけ男子から言われる“言葉”
こうした、中高一貫校出身者との対比として現れる地方女性の困難の背景は、親の学歴、文化的資源の少なさ、周囲に東大出身者の少ないこと(東京大学進学を勧める親族や東大に進学した先輩・同級生が周囲にいないこと)による情報の不足など、前述した地方女性の特徴に由来するといえます。
当事者ではない東京圏男性・女性からは、次のような意見が出ています。
〈 自分の経験のみからのきわめて主観的な考えですが、私の友人の東大男子たちほど東大女子に対してリスペクトをもって接してくれた集団はなかったように感じます。その関係は現在までずっと続いています。(…)大学として、女子差別をなくそうという取り組みはよいのですが、もうそろそろ女子男子の区別なく、差別をなくそうで良いのではと感じます。(東京圏女性Cさん)〉
〈 女子学生の間で東京出身者と地方出身者の置かれている立場の差を、卒業後10年以上経ってやっと自覚しました。恥ずかしながら自分が恵まれている方であることをやっと知りました。男子学生も地方出身の女子学生へのあたりが強い場合があり改善できればいいのにと思います。例えば、化粧をしていなかった時、東京出身の私は「俺は○○さんに男扱いされていないから化粧をしてもらえないんだ」と言われていましたが、地方出身の友人は「女のくせに化粧くらいしろ」と言われていました。(東京圏女性Dさん)〉
〈 わたしは東京で生まれ育ちましたが、旅先の○○〔ある地方都市〕で「高3のお嬢さんはつぎは大学に?」「いえ、女の子だから短大へ」「そうですよねー」という会話を聞いて驚いたことを忘れられません。20年くらい前のことですが、自分がその土地に生まれていたら、果たして大学に進学するガッツがあるだろうか? と何度も思いました。(東京圏女性Eさん)〉
〈 ほんの数年前、ゼミで一緒だった女性東大生から、地方の女性中高生を取り巻く厳しい現状を聞きました。「女は短大でよい」「大学は地元国立のみ、上京不可」などと家族や周囲に言われる中、高成績を叩き出して抵抗を続け、半ば喧嘩別れのような形で実家を飛び出してきた女性東大生が少なくないそうです。(…)当然、みんな実家とは気まずい関係だそうです。(東京圏男性Fさん)〉
東京圏出身の女性であるCさんは、自身の経験から、東京大学の男性学生は女性学生を「リスペクト」していた、それゆえに差別解消の取り組みにおいて性別を重視する必要はないと述べています。
しかし、Dさんが指摘しているように、東京大学では、男性学生の地方女性への差別があることや、たとえ同性であったとしても地方女性の困難を知り、理解するのは難しいことがわかります。そして、地方女性の困難を理解するためには、自分が同じ立場だったらどうだろうという想像力(Eさん)や自分とは異なる属性(性別や出身地)の人と接する機会(Fさん)が必要です。Fさんが聞いた話は、親との仲の良くなさが、東大進学に必要だった一例ともいえるでしょう。
〈 〈Youは何しに東大へ?〉「官僚」でも「商社」でもない…「東京大学」卒業生に人気の“仕事”とは 〉へ続く
(久保 京子/Webオリジナル(外部転載))