コンビニはないが「アビーロード」はある、飲み会4人組の一言から生まれた商店街…人口減の村の反撃
2025年5月5日(月)11時17分 読売新聞
ジョン・レノン担当の上神田さん、リンゴ・スター担当の三田地さん、ポール・マッカートニー担当の三船さん、ジョージ・ハリスン担当の中村さん(右から)(いずれも4月17日、岩手県普代村で)
岩手県沿岸北部に位置し、人口約2300人の普代村。2021年に全線開通した三陸沿岸道路の普代インターチェンジ(IC)からほど近い場所に「普代アビーロード商店街」がある。約600メートルの道路沿いに鮮魚店や菓子店、雑貨店など約15店が点在している。
その一つ、上神田精肉店。店頭のガラス棚には、特製のタレで漬けたカルビやホルモンなどが並ぶ。村特産の昆布入りメンチカツもファンが多い。スマートフォンで検索してみると、「普代の昆布でお肉もよろコンブ♪」。合言葉だそうだ。
肉や総菜はその場で包んでくれる。買い物袋をさげた常連の女性(60)に声をかけた。「焼き肉の日には、必ずここ」。観光地のような華やかさはないが、昔ながらの素朴な温かさを感じた。
「ここの横断歩道、アビイ・ロードみたいだよな」
商店街の愛称はアビーロード。ビートルズの名盤を思わせる。横断歩道を歩く4人の店主のシルエットは、商店街の自動販売機にもデザインされ、象徴的な存在になっている。4人の1人、上神田精肉店の上神田敬二さん(52)が愛称が決まった秘話を明かしてくれた。
19年のある夜、4人の飲み会で生まれたという。「ここの横断歩道、アビイ・ロードみたいだよな」。上神田さんの冗談のようなひと言に、三船製菓の三船洋介さん(45)、下川原商店の中村英伸さん(52)、三田地商店の三田地勇治さん(48)たち3人は、妙に納得しながらうなずいた。村にはコンビニやチェーン店が一軒もない。人口減で活気を失いつつあった中での、小さな反撃だった。
「商売は喜ばせ合戦」
商店街の活性化へ動き出したところで、新型コロナ禍が襲い、客足が遠のいた。そこで4人が考案したのは、毎月最終土曜に開催する「ジョイフルデー」。季節に合わせて、その日だけの限定サービスを付けるイベントだ。精肉店は菜の花入りのコロッケを出し、菓子店は限定のドーナツを並べ、日用品店は寒さを気遣いカイロを値引きした。4人で始めた試みは、今や商店街の目玉イベントにまで育った。「商売は喜ばせ合戦ですよ。客の取り合いじゃなくて」
「顔なじみの店があるだけで十分よ」
もう一人のキーパーソン、三船さんの店にも立ち寄った。1893年の創業で、モンブランやショートケーキが人気の菓子店だ。三船さんは、来年をめどに店内のイートインコーナーを改装し、クレープ屋を開く構想を思い描く。「妻と一緒にできればいいなと。みんなが気軽に集まれるような場所を作りたい」
商店街の一角で、ビールのつまみを求めて歩く地元の男性(78)がつぶやいた。「コンビニがなくてもさ、顔なじみの店があるだけで十分よ」。帰り際に横断歩道を歩いて、少しだけスターの気分に浸った。(福守鴻人)