万博会場の照明「新しい夜」、着想は安達太良山で見た景色…大屋根リングには色を変える「流星」
2025年5月12日(月)9時53分 読売新聞
万博への思いを語る東海林さん(東京都で)
開催中の大阪・関西万博で、会場全体の照明を手掛けたのは、福島市出身の照明デザイナー東海林弘靖さん(66)だ。会場照明の基本概念は「新しい夜」。着想を得たのは、地元の安達太良山で見た景色だという。万博の照明演出に込めた思いを聞いた。(山本純哉)
東海林さんは福島高校(福島市)時代に建築家を志し、工学院大学(東京)と同大大学院で学んだ。修了後に入社したのは照明デザイン会社。「特徴的な技術を身につけた、ほかに誰もいない建築家になりたかった」
いずれ辞めるつもりだったが、照明による空間づくりを提案しているうちに、空間の広がりや柔らかさなど、照明が建築に全く違う表情をつくり出すことに気づいた。「この仕事の方がすごいんじゃないか」。そのまま約40年、照明デザインが本職になった。
2000年に独立し、現在は東京・銀座で照明デザイン会社を経営している。ホテルや公共施設など500件以上の案件を手掛けた。その仕事仲間の一人で、万博の会場デザインプロデューサーに就いた建築家の藤本壮介さんに請われ、照明の総合プロデュースをすることになった。
暗さを楽しむ
世界各国を回ってオーロラやサハラ砂漠の満月など、あらゆる「光」を学んできたが、基本概念の「新しい夜」の着想を得たのは、安達太良山に建てた山荘で見た、ゆっくりと暗闇へと移り変わる景色だった。「夜の神聖さを感じ、自然には逆らえないと思った」という自身の体験を、万博会場では「暗さを楽しむ」という形に落とし込んだ。
来場者が空や景色を楽しめるよう、会場を照らすのは華やかではなく、淡いあかり。万博のパビリオンをつなぐ遊歩道に並ぶ照明は、1時間かけて徐々に光を強め、太陽の光と自然に「バトンタッチ」する。
内径約615メートル、1周約2キロの大屋根リング上部のデッキにも足元に照明を配置した。淡い光が呼吸をするように点滅を繰り返す。この連なった照明が流れていくように色を変える仕掛けは「流星」と名付けた。10月までの会期中、リングでは夏至や立秋など二十四節気に合わせて赤や黄といった異なる「流星」を見ることができる。
省エネに価値
会場中央に緑が広がる「静けさの森」には、照明を全く設けなかった。「『暗い=困る』と皆がすり込まれている」とし、「暗さっていうのはワクワクする楽しい世界だと示したかった」と語る。照明をなくすことで、「新しい夜」を強く訴えかける場所にした。
来場者には「夜の時間も楽しんで、いいな、きれいだなと思って帰ってもらいたい」と期待している。自然に溶け込むような「新しい夜」は、省エネルギーの照明演出でもあるという。故郷の福島が原発事故に遭い、今は省エネが求められる社会だと指摘する。「こっち(暗さ)の方が気持ちいいねと新しい価値を感じてもらうことが、エネルギー問題の解決にもつながってほしい」