「まさか、うやむやにしてしまうのか」“ひめゆり発言”の報道を批判→撤回を表明…自民・西田昌司氏(66)の発言をめぐる3つの不思議
2025年5月13日(火)7時0分 文春オンライン
自民党参院議員の西田昌司氏のひめゆり発言の件、不思議なことがいくつもある。たとえば以下だ。
・「保守」を自称する政治家に限って日本の歴史と向き合わない不思議
・事実を確認しないまま勝手に誰かと戦っている不思議
・公明党は参院選で、それでも西田氏の推薦をするのか? という不思議
報道をまとめると西田氏は太平洋戦争末期の沖縄戦で犠牲になった学徒隊の生徒や教員らを慰霊する「ひめゆりの塔」の説明書きについて「歴史の書き換え」などと主張した。
「日本軍がどんどん入ってきて、ひめゆりの隊が死ぬことになった。そしてアメリカが入ってきて、沖縄が解放されたと、そういう文脈で書いているじゃないですか」と講演会で述べた。しかし、現実はそんなことは書かれていない。

そのうえでまず、【「保守」を自称する政治家に限って日本の歴史と向き合わない不思議】についてだ。
戦前・戦中派の議員たちの思いも足蹴にしていないだろうか
西田氏の言動を東京新聞社説(5月9日)は《沖縄の苦難に心を寄せてきた自民党を含む先輩国会議員の思いにも背くのではないか。》と指摘。翌日、「先輩国会議員」の代表として念頭にあったのは「西田氏と同じ京都府出身の故野中広務衆院議員ら戦前・戦中派の議員たちのことです」と書いていた。
野中氏は生前、取材に対して「沖縄を忘れることは第2次世界大戦を忘れることだ。戦争の恐ろしさを忘れないためにも、沖縄のことを絶対に忘れてはいけない」と語っていた。私も野中氏の著作は何冊か読んでいるのでそうした言葉を知っている。西田氏は歴史を知る戦前・戦中派の議員たちの思いも足蹴にしていないだろうか。
なぜ「保守」と名乗れるのか不思議でならない。芸能人を自称付きで報道するならこれからは西田氏を「自称・保守」と報道したらどうか。ちなみに東京新聞の社説タイトルは「『ひめゆり』発言 沖縄への侮辱、撤回せよ」だったが、これは「日本への侮辱、撤回せよ」でもある。沖縄が馬鹿にされることは日本が馬鹿にされることだ。そんな当たり前のことを教えるのも大事だ。
「切り取られた記事が、この誤解を生んだ」と報道を批判
次に【「事実」を確認しないまま勝手に誰かと戦っている不思議】である。
自身の発言に事実誤認の指摘や批判が起きると西田氏は「私の意図とは無関係に切り取られた記事が、この誤解を生んだ」と報道を批判した。ところが具体的に問われると「その新聞報道自体、見てないからよく知らない」。
え、新聞を読んでいないのになぜ切り取りとわかるの? 会見を取材したTBSラジオの澤田大樹記者は「ひとことで言うと、かなりいい加減」と感想を番組で述べていた。たしかに現場では皆びっくりしただろう。「ひめゆりの塔」説明書きについて西田氏の根拠は「ずいぶん昔のことで細かい記憶はないが、全体的な印象を率直に述べた」程度だという。無茶苦茶だが、そういえば最近、不確かな印象だけで勝手に誰かと戦っている人って多くないだろうか?
先日、NHK「ETV特集」の「フェイクとリアル 川口 クルド人 真相」を見ていたら、「川口自警団」を名乗る人にインタビューをしていた。SNSを介してほとんどが東京から川口に来ているという。団長は「クルド人というのがこの地域で非常に目立って悪いことをやっている」。
NHKスタッフが起訴率は「来日外国人」も「(日本人を含む)全体」もほぼ変わらないという事実を指摘すると、団長は「(SNSで)上がってくる情報が」「とにかくよく聞くんですよ」。そのうえで「僕は別にニュース、新聞とかそういうソースを全然見ない人なんです」。
さらに驚愕なのは「真面目に地道にやりすぎても良くないなっていうのがある」と述べ、SNSのインプレ稼ぎ目的を肯定していた。事実ではないことを投稿することに何の怖さも感じていないのが怖かった。今回の西田氏の言動に似ていないか。共通するのは特定の支持者にウケればよい、ということか。
平和の党を自認する公明党の今後の対応は…
では最後に【公明党は参院選で、それでも西田氏の推薦をするのか?】。今後の最大の見どころと言っていい。西田氏は夏の参院選京都選挙区に自民党公認・公明党推薦で立候補する予定なのだ。
西田氏への推薦見直しについて公明党幹事長は「まず発言の撤回ならびに謝罪、歴史の検証を本人に強く求めることが大事だ」と述べるにとどめた(朝日新聞) 。
公明党が直面している状況をタブロイド紙が書くと以下になる。
《昨秋の衆院選は裏金非公認議員を推薦して大惨敗。にもかかわらず、「政治倫理審査会で弁明した」とかいう理由で西田氏らに推薦を出し、学会員らからブーイングを浴びせられている最中。》(日刊ゲンダイ5月7日)
さらに、池田大作氏の著書「人間革命」は米軍統治下の沖縄で書き始められたもので、「かたちを変えた、本土の『捨て石』であったといってよい」とつづっていたことも。
すると西田氏は謝罪会見を開いた。公明党のことも気にしたのだろう。
しかし内容は「あの場でひめゆりの塔を持ち出して話すことが、県民の皆さんの心に傷を負わせた」というもので今回も「発言は事実」と繰り返した。あの場で喋ったことは謝罪するが、「歴史の書き換え」発言や「沖縄の場合は地上戦の解釈を含めてかなりむちゃくちゃな教育をされている」との部分については撤回しないと明言したのだ。
こうなると注目は公明党だ。公明幹事長は謝罪のほかに「歴史の検証を本人に強く求めることが大事だ」と言っていたからだ。しかし西田氏の「謝罪会見」では沖縄を愚弄する歴史修正主義者であることがまたしても証明された。平和の党を自認する公明党はこのまま西田氏を推薦するのだろうか。まさか、うやむやにしてしまうのか。俄然、注目である。
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(プチ鹿島)