立川の小学校襲撃、児童守ったマニュアルと「不審者侵入訓練」…教職員は連係・さすまたも駆使
2025年5月16日(金)5時0分 読売新聞
男2人が侵入した立川市立第三小学校(8日、立川市で、読売ヘリから)
東京都立川市の市立第三小学校に男2人が押し入り、教職員5人を殴るなどした事件は、15日で発生から1週間となった。教職員の好判断と勇気ある行動で、児童の安全は守られたが、開かれた学校での防犯の難しさが浮き彫りになった。各地では対策を強化する動きが広がっている。(礒村遼平、林麟太郎)
緊迫の教室
事件が起きたのは8日午前10時55分頃。46歳と27歳の男2人が校舎2階の2年生の教室に侵入し、名前を挙げて特定の児童を捜し始めた。図工の授業中で、教室には32人の児童がいた。
担任の50歳代の男性教員は男らを制止しようとしたが、顔面を殴られ、鼻の骨が折れてしまう。それでも「早く逃げて!」と児童に避難を呼びかけると、別の教職員が児童に体育館へ向かうよう指示した。
一方、別の教職員らは校舎内を回り、「不審者がいる」と伝達。各教室では机を出入り口に移動させてバリケードを築き、ドアを施錠する措置が取られた。
教職員らはさすまたを使うなどして、男らを1階に誘導し、会議室内で取り押さえた。侵入から約25分後、男らは駆けつけた警察官に現行犯逮捕された。
侵入を想定
「マニュアルに沿って、それぞれの役割を全うしてくれた」。立川市教育委員会の寺田良太指導課長は教職員の対応をそう評価する。
市教委によると、同小では文部科学省の手引に基づき、不審者対応や避難誘導の手順などを定めた防犯マニュアルを策定。年1回、訓練を行っており、昨年8月には、不審者が2階の教室に侵入したとの想定で実施していた。別のクラスの2年生の女児(7)は「怖かったけれど、先生が声をかけてくれたので安心できた」と振り返った。
侵入者に課題
男2人は正門脇の通用扉から敷地内に侵入していた。市教委の担当者は「遅刻や早退する児童のほか給食などの業者も出入りする。普段から施錠はしていなかった」と話す。
文科省のガイドラインでも、校門の施錠徹底までは求めていない。2023年に少年が中学校に侵入し、教員を切りつける事件が起きた埼玉県戸田市では、市立小中学校の全18校で来校者用玄関をオートロックにしたが、立川市で電子錠を導入している市立小学校は2校にとどまる。
今回の事件を受け、都教委は8日、区市町村や都立学校に、門扉の施錠や不審者侵入に備えた訓練の徹底を呼びかける通知を出した。
各地の学校でも危機への備えが進む。岐阜市立白山小学校では9日、地元の警察署の働きかけで、立川市の事件と同じ想定で、教職員向けの緊急対応訓練が行われた。甲府市の山梨学院中学校も14日、保護者が校舎に押しかけて刃物を出した想定で訓練を実施した。
警視庁幹部は「学校からの相談には積極的に応じ、訓練も一緒に行うなど、連携を深めたい」と語った。
保護者への対応「複数の教員で」
逮捕された46歳の男は、2年生の女児の母親の知人だった。母親は事件当日、娘と別の児童とのトラブルについて担任に相談していたが、話がまとまらず、男に連絡したという。
警視庁は、児童を巡る学校と保護者間のトラブルが背景にあったとみている。
都教委は9日、学校と家庭・地域との関係について議論する有識者会議の初会合を開催。委員からは「保護者との良好な関係を築くことが、児童生徒の安全にもつながる」との声が上がったという。年内にも議論をまとめ、保護者への対応策に反映させる方針だ。
学校の安全対策に詳しい大阪教育大の藤田大輔教授(安全教育)は「保護者との関係構築には、普段から相手の話をしっかりと聞くことが大切だ」と指摘する。その一方で、「保護者から無理難題なクレームを押しつけられ、教育現場が疲弊するケースも多い。一人の教員に背負わせず、複数の教員で対応する必要がある。第三者組織による保護者のための相談窓口の設置も検討すべきだ」と話した。