《男の心臓はまだ脈打っていた》生きている人体からの肝臓、腎臓摘出を命じられた医師が明かす「臓器移植」の“すさまじい現場”

2025年5月19日(月)12時0分 文春オンライン

 治らぬ病を抱え、臓器移植の道を探る患者は多い。しかし移植用臓器は世界的に不足し、日本ではまったく足りない。そこで、「闇」の道に手を出す人たちがいる。


 はたして、どのように臓器は流通しているのか。ここではノンフィクション作家の高橋幸春による『 臓器ブローカー すがる患者をむさぼり喰う業者たち 』(幻冬舎新書)の一部を抜粋。現場のもようを紹介する。(全3回の1回目/ 続き を読む)



写真はイメージです ©Paylessimagesイメージマート


◆◆◆


まだ生存している死刑囚から臓器を取り出した経験


 イギリスに亡命した中国人医師エンヴァー・トフティ(Enver Tohti)は、まだ生存している死刑囚から臓器を取り出した経験を持つ。


 1995年6月、当時のトフティはウルムチ中央鉄道病院の外科医だった。ウルムチは、新疆ウイグル自治区の首府だ。主任外科医から「熱くなる仕事」だと告げられ、翌朝9時に医療チームと救急車の準備をするように指示された。


 麻酔科医と2人の助手を乗せ、救急車は主任外科医が乗る車の後について行った。しかし、車内はすぐに重い空気につつまれる。救急車が向かっていたのは、反体制派グループを処刑する西山処刑場だとわかったからだ。険しい丘の手前で2台の車は止まった。


 トフティは主任外科医から命じられた。


「銃声が聞こえたら丘の向こうに回り込め」


 しばらくすると銃声が聞こえた。一斉射撃のようで、何発もの銃声が響き渡った。再び主任外科医の車の後について走った。


 車が止まった場所には、射殺されたばかりの遺体が転がっていた。


 10体なのか20体なのか、それを数えている余裕はトフティにはなかった。武装警官が声を上げた。


「こいつだ」


 30歳ぐらいの男で、他の囚人はすべて坊主頭だったが、彼だけは長髪だった。外科医であるトフティは、もう1点、その男に他の囚人とは異なるところがあることに気づいた。


「その男だけは、右胸を撃ち抜かれていた」


「手術しろ」主任外科医が命じた。


「何の手術をするんですか。すでに死んでいるのに……」


 だが、男は死んではいなかった。


“麻酔なし”での摘出


 主任外科医は再度、命令した。


「肝臓と腎臓を摘出せよ」


 指示は「その男から」というものだった。男はすぐに救急車に運び込まれた。


「麻酔は不要。生命維持装置も不要」主任外科医の声が響いた。「意識はない。メスを入れても反応はしない」


 麻酔科医は何もしようとしなかった。


 トフティが男の体にメスを入れた。男の体が大きくのけぞった。命令されるままにトフティは肝臓と腎臓を摘出した。


 その後、それでも男の心臓はまだ動き、脈打っていた。トフティに残された仕事は、遺族のために開腹部の縫合を丁寧にすることだけだった。


口外しないように釘を刺される


 翌日、主任外科医が「昨日はいつも通りの日だったよな?」とトフティに語りかけてきた。


 主任は臓器摘出を口外しないように釘を刺してきたのだ。「はい」とトフティは答えるしかなかった。


 のちにトフティはイギリスに亡命する。が、まだ生存していた死刑囚から臓器を取り出した事実を語るのには、15年という歳月が必要だった。


 トフティが亡命したのは、この摘出手術が理由ではない。新疆ウイグル自治区は中国の実験場ともいわれ、核実験なども度々行われた。その周辺地区でがん患者が多発している事実を西側に流したことで、身の危険を感じたからだ。


「西側の価値観を知り、事実を明かさなければいけないと考えるようになりました」

〈 「人を意図的に脳死させる『脳死マシーン』を開発した」数千万円の金が飛び交う“臓器売買”で行われている“まさかのやり口”とは 〉へ続く


(高橋 幸春/Webオリジナル(外部転載))

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