こたつは囲炉裏が変化? 冬に重宝するこたつの意外な歴史

2023年12月30日(土)5時10分 ウェザーニュース

2023/12/30 05:10 ウェザーニュース

この冬も強い寒気の南下で冷え込みが厳しくなり、暖房器具がフル回転という日々も増えてきました。
ウェザーニュースでは、こたつが家にあるか、アンケート調査を実施したところ、「ある」という回答は2021年は49%、2023年は46%という結果で、半数近くに上ることがわかりました。

近年はエアコンやヒーターなども増えていますが、“日本の冬にはやっぱり、こたつ”というイメージも強いですね。
部屋の温度だけでなく、心もほっこりと温めてくれるこたつですが、いつの時代から使われるようになったのでしょうか。
そこで、“こたつの進化の歴史”について、インテリア・寝具製品などを製造販売するイケヒコ・コーポレーション(本社・福岡県大木町)に伺いました。

誕生のきっかけは室町時代?

暖房器具としてのこたつは、いつ頃から使われるようになったのでしょうか。
「こたつの原型は室町時代の『囲炉裏(いろり)』の使い方にあったとされています。囲炉裏は古い民家や宿泊施設などでいまも目にする機会がありますが、古くから日本の家屋の主要な暖房器具といえる存在でした。
当時の人々が足元を暖めるために、囲炉裏に衣服を被せてそこに足をいれたことが、こたつ誕生のきっかけと伝えられています。その衣服に火が燃え移らないように、囲炉裏の上にやぐらを組んだものが、こたつの原型ともいわれています」(イケヒコ)

こたつの原型と考えられている「囲炉裏」

囲炉裏に薪(まき)をたくさんくべて、部屋全体を暖めることは難しかったのでしょうか。
「昔の家屋は、部屋全体を暖めることがとても難しい造りになっていました。基本的な建築思想といえるかもしれませんが、『夏にやさしく、冬に厳しい』構造だったのです。
たとえば、鎌倉時代末期に吉田兼好(よしだ・けんこう)が著した随筆『徒然草(つれづれぐさ)』に、『家の作りやうは、夏をむねとすべし。冬は、いかなる所にも住まる』とあります。現代語に訳すと『家を建てるときは、夏を基準にするべきだ。冬は、どんな所でも住むことができる』となります。
夏の厳しい湿気と暑さをしのぐことを第一に、日本の家屋は通気性のよさを重視して建てられました。これが冬にはあだとなってしまい、冷たい隙間風が吹き込んで暖気は保たれなくなってしまい、いくら囲炉裏に薪をくべても部屋全体の温度を上げることはできません。
“せめて足元だけでも暖めたい”という人々の思いが、囲炉裏の上に衣服を被せるというアイデアを生み出したのでしょう」(イケヒコ)

「置きこたつ」や「こたつ布団」は江戸時代が発祥

室町時代に発案されたというこたつですが、その後のどのような“発達”を遂げていったのでしょうか。
「全国に広がったこたつは、江戸時代に急速な発達・発展をみせるようになります。
まず、熱源を囲炉裏から火鉢に替えた『置きこたつ』が登場しました。これによって、いつでもどこでもこたつで暖まれることが可能になりました。
さらに、囲炉裏の周りを床より下げることで、大人数の人たちが入れることを可能にした『大こたつ』も発案されています。町の商人たちが好んで大勢集まり、大こたつで暖まったと伝えられています」(イケヒコ)
こたつ布団はいつ頃から使われ始められたのでしょうか。
「こたつ布団の始まりも、江戸時代と考えられています。
武蔵国忍(おし)藩(埼玉県行田市)の下級武士・尾崎石城(おざき・せきじょう)が幕末の1861〜62(文久元〜2)年に著した『石城日記』に、武士などの当時の人がこたつでくつろいでいる様子が描かれています。
大きさからみて置きこたつで、その上に掛けられているのは衣服ではなく、明らかに布団状のものでした。
このこたつ布団は、当時極めて高価だった木綿布団ではなく、一般的な寝具として使われていた藁(わら)布団ではないかと考えられています」(イケヒコ)

江戸時代、こたつでくつろぐ様子『石城日記 第六巻』尾崎石城著(「慶應義塾大学文学部古文書室」所蔵)

明治時代に発案された掘りごたつ

明治時代の「文明開化」で、レンガ造りや洋式建築の保温性が高い家屋が建てられたり、ストーブなどの暖房器具が普及したりしました。それでも、こたつがすたれなかったのはなぜなのでしょうか。
「確かに、明治時代にはストーブの本格的な輸入・製造が始まり、当時は『置き暖炉』と呼ばれて、薪や石炭を原料にしていました。
大正時代になると石油やガス、電気などのライフラインが普及して、石油・ガスストーブ、電気火鉢・ストーブが登場するなど、暖房器具の多様化が急速に進んでいます。
しかし、保温性の高い家屋で新時代の暖房器具を使えたのは都会の富裕層などに限られ、一般庶民の多くが囲炉裏や火鉢、こたつを引き続き愛用していました。
気密性が高い西洋の住宅環境で発達した部屋全体を暖めるストーブ類と、なお風通しのよいままだった日本の家屋とは、どうしても相性が悪かったのかもしれません」(イケヒコ)
最近は掘りごたつが人気です。畳主体だった時代には合わない構造だと思われますが。
「掘りごたつが登場したのは、明治時代の末期です。
当時日本で暮らしていたイギリス人陶芸家バーナード・リーチは、正座が苦手でした。“足を伸ばして座れるこたつを作れないか?”と考えたことをきっかけに、リーチが自宅に造らせた堀りごたつが、日本で初めての一般住宅向け掘りごたつといわれています」(イケヒコ)

電気こたつは昭和初期に発案

電気こたつがある昭和の居間(イメージ)

いま、ほとんどのこたつは電気こたつです。電気こたつはいつ頃発案されたのでしょうか。
「置きこたつの熱源が電気式になったのは、昭和初期のことです。
1929(昭和4)年に松下電器製作所(現・パナソニックホールディングス)が発売した『ナショナル電気こたつ』は、温度調節、安全装置といった先進的機能が好評で、初年度に4万5000台、次年度には8万台を売り上げた大ヒット商品となりました。
後の高度経済成長期(1957〔昭和32〕年)には東京芝浦電気(現・東芝)から、現在の『こたつテーブル』の原型ともいえる、テーブルの天板に電気ヒーターを取り付けた『電気やぐらこたつ』が発売され、多くの家庭に普及しました。
ほかの大手家電メーカー各社も次々にこたつテーブルの製造に着手し、その後17年間で計4500万台、ピークを迎えた1974(昭和49)年の販売数は368万台に達しました。
この間の1959(昭和34)年頃に、天板付きのこたつも普及しました。こたつテーブルと天板がそろったことで、こたつは家族団らんの象徴として、日本人に愛されるようになったのです」(イケヒコ)
現在のこたつは、夏でも使える家具調や一人暮らし用の省スペースタイプのものなど、時代のニーズに合わせてさらに変化を見せています。
この冬、こたつを単なる暖房器具からインテリアのひとつとしても楽しみながら、改めて家族団らんの場として集い、語らってみるのはいかがでしょうか。
取材協力
株式会社イケヒコ・コーポレーション(https://ikehiko.net/)

ウェザーニュース

「こたつ」をもっと詳しく

タグ

「こたつ」のニュース

「こたつ」のニュース

トピックス

x
BIGLOBE
トップへ