たった5日で脳卒中の男性が歩けるようになり、高齢者の視力・聴力が上がった…ハーバード大の驚きの実験

2024年2月5日(月)14時15分 プレジデント社

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/paylessimages

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見た目も心も若い人は何が違うか。浜松医科大学名誉教授の高田明和さんは「ハーバード大学の心理学者が行ったある実験で、被験者たちに30年ほど前を錯覚させる環境で過ごさせたところ、参加した高齢者たちには明らかな若返りが見られた。1年半前に脳卒中を起こして歩けなくなっていた88歳の男性に至っては、なんと自力で歩けるまでに身体機能が改善していた。『自分は若い』と思い込むことで、心身は若くなる」という——。

※本稿は、高田明和『88歳医師の読むだけで気持ちがスッと軽くなる本 “年”を忘れるほど幸せな生き方』(三笠書房)の一部を再編集したものです。


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■「夢と希望」は心や肉体を若返らせるのか


「生涯現役」という言葉をよく耳にします。


いつまでも若い世代に伍しながら、衰えることなく若々しく、和気あいあいの人生を送る——そんなことができるなら、もちろん理想的です。


しかし、科学的に肉体は必ず衰えていくし、思考だって、徐々に世の中の変化についていけなくなります。だいたい、いつまでも老人が出しゃばっていたら、若い人たちとの世代交代の機会が失われてしまいます。だからといって「年をとった人間は、夢なんて持ってはいけない」などと言うつもりは、もちろんありません。


年をとったなと感じたときや、気持ちがちょっと落ち込んでいると感じたときほど、無理のない範囲で、夢や希望を持つことをおすすめします。


若いときは、「ああしたい、こうなりたい」「あれがほしい、あそこに行ってみたい」と、ときに無謀とも思える大きな夢を抱き、理想を追いかけようともしたでしょう。しかし、誰もが、すべての夢を叶えられるわけではありません。


画家になりたい人が全員、画家になれるわけではないし、ミュージシャンになりたい人が、誰でもミュージシャンになれるわけでもありません。ましてや、夢も仕事も家庭も友人関係も、すべてが理想どおり、なんていう人は極めて稀です。


■残りの人生の大半を“消化試合”と考えていないか


あの輝いている有名人も、恵まれているように見えるお隣さんも、もちろん私も、誰もが皆、人生でたくさんの失敗をし、たくさんの競争に負け、「思いが叶わない経験」をいっぱいしながら、年齢を重ねていかなければならないのです。「いろいろな負け」を味わうことを大前提に、皆、この世に生まれてきているのですね。


それでも、いくばくかの夢を叶えることができた人は、ある程度の満足感を覚えながら、今日を迎えているでしょう。


逆に、ほとんど夢は叶わなかったし、仕事も引退し、今さら若いときの夢を追いかける気力もない、という人にとっては、残りの人生の大半はただひたすら“消化試合”をこなし、やがて訪れる死を待つだけのつまらないものに思えるかもしれません。


でも、そうした局面でこそ持つべきなのが、「夢」なのです。


特別な才能や若いころのような体力なんてなくても、それでも現実的な新しい夢を持つことで、心も肉体も若返らせることが可能になります。そう、これからの人生を希望や生きがいに満ちた充実した日々に変えていくことは、可能なのです。


「夢と希望」こそが、私たちを若返らせる。


それは科学的・医学的なアプローチから見ても、確実に断言できることです。


本書を通して、あなたに、その重要な真実を知っていただきたいのです。


昔抱いたような大きな夢でなくても、小さな夢一つで、大逆転を果たすことになるかもしれません!


写真=iStock.com/GCShutter
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■マッカーサーが絶望に負けないために最後までやったこと


「夢と希望」が私たちを若返らせるという、医学的・科学的にもいえる真実を知っていただくために、改めて、次のマッカーサー元帥の言葉を見てください。


「理想を放棄すれば、人は老いる」


マッカーサー元帥といえば、日本が太平洋戦争で無条件降伏したあと、連合国軍最高司令官総司令部、いわゆるGHQの最高司令官として占領下の日本を統治した人物です。歴史上の評価はさまざまですが、大変に優秀な軍人であったことは確かであり、私は非常に尊敬している人物です。


けれども、彼の事績がよく知られているのは、最高司令官を解任されて日本を去った1951年の時点まででしょう。解任の理由は、1950年に勃発した朝鮮戦争の国連軍総指揮官としてのマッカーサーが、朝鮮戦争での原爆使用をめぐってトルーマン大統領と意見が対立したことによります(マッカーサーが原爆使用を進言)。


彼はGHQ最高司令官の任を解かれて帰国し、その退任演説であの有名な、


「老兵は死なず、ただ消え去るのみ」


という言葉を残しました。


でもマッカーサーは、日本を去ったあと、「ただ消え去る」どころか、その後の人生を、足搔きに足搔き続け、自分をクビにした大統領に反旗を翻し、一時は大統領選の対抗馬にまでなります。


結局、彼の夢は成就しなかったのですが、コンピューター会社の会長になったり、国賓としてフィリピンに招かれたり、日本のオリンピックへの復帰に関与したりと、生涯にわたり、アメリカで存在感を示し続けました。


■思いどおりにはいかなくても、足搔きまくる


軍人としての輝かしい功績に比べたら、老後にマッカーサーが成し得たことなど、些細なものにすぎないかもしれません。


それでも、大人しく引退してしまったら、本当に自分は「ただ消え去る」だけの人間になってしまう。マッカーサーは「だから、決して理想を放棄しない」と誓い、疑念や恐怖心、そして絶望が心を支配しないように、信念を持ち、自信を持ってできることをすることで、彼は人生に希望を見出そうと挑戦し続けました。


そうやって老いと戦いながら、人生に生きる意味を見出そうとした彼の努力は、私たちに大切なことを教えてくれているような気がします。


「ただ黙って老いに任せていれば、人生は尻すぼみになっていくだけ。たとえ思いどおりにはいかなくても、足搔きまくることで、人生はいくらでも明るく楽しいものに変わっていく」ということを。


そしてこれはすでに、医学的・科学的に証明もされています。


だから、決して夢や希望を失ってはいけません。


■ハーバードの実験「若い自分になりきることの驚きの効果」


ハーバード大学の心理学者、エレン・ランガー教授は、1981年に「反時計まわりの実験」と呼ばれる検証実験の結果を発表しました。


この実験は、70代後半から80代前半の男性8人を、内装を1959年当時の状態にすっかり改装した修道院の中で、5日間の共同生活をさせるというもの。


部屋の家具や装飾品、テレビのニュースや番組、音楽、昔の個人的な写真などの小物に至るまで、ありとあらゆるものが、「今は1959年だ」と錯覚を起こさせるように設えられていました。


写真=iStock.com/SetsukoN
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/SetsukoN

1959年といえば、被験者たちにとっては、まだ40代か50代のエネルギーに満ちあふれていた時期です。


しかし、この実験の目的は、「当時の思い出に浸りましょう」ということではありません。「考え方の変化」、つまり、「自分は若いのだ、という思い込み(気持ち)」が、老化のプロセスに影響するかしないかを調べることです。


そのため、ランガー教授は、被験者たちに1959年当時の若い自分になりきること、そして当時の出来事を、まさに今現在起こっているかのように話すよう指示しました。


さらに、被験者たちに心の底から自分が40代、50代であると思い込ませるために、彼らが現在の自分の姿を直視しないですむよう、その実験部屋から鏡など、実際の年齢を想起させるものをいっさい除去しました。


この実験は、イギリスBBCでも放映されています。


■脳卒中の88歳男性は自力で歩けるまで身体機能が改善


そして結果はといえば、実験開始からたった5日間で、参加した高齢者たちの視力、聴力、体力、手先の器用さ、見た目、総合的な認知能力などに、明らかな若返りが見られたのです。


しかも被験者の中には、1年半前に脳卒中を起こして歩けなくなっていた88歳の男性もいましたが、彼は、なんと自力で歩けるまでに身体機能が改善していたのです。


この実験は明らかに、「人間は『自分は若い』と思い込むことで、実際に心身が若くなる」ことを証明しました。


信じられませんか? では、ちょっとあなた自身で試してみましょう。


自分は今、17歳か18歳だと、強く強く思ってみてください。


さあ、思い出してきましたか? あの若かりしころの気持ちや感覚を。


すると今、なぜか背筋がスッと伸びて姿勢がよくなりませんでしたか? ほんの一瞬でも、心や体に力がみなぎるのを感じませんでしたか?


この行為を一瞬だけではなく、24時間ずっと、自分は若いと思い続けたらどうなるでしょうか? 毎日そう思い続けたら?


明らかに、心身は若くよみがえるはずです。


■楽器の演奏なら「昔の自分」より上達することも


人は「実際の肉体の老いを感じて」というより、むしろ「年齢を自覚するせいで」老いてしまっているところがあります。


たとえば、学生時代にピアノやギターを弾いていたけれど、「社会人になってから、忙しくてやめてしまった」という人は多いでしょう。


そういう人は、今はもう昔のように上手には弾けないかもしれませんが、それでも再び練習を始めれば、案外と早い段階で以前のレベルに戻ります。


体はかつての感覚を覚えており、ハードな運動とは違って楽器の演奏などは、スキルも復活していくものだからです。その後も練習を続ければ、だんだんと「昔の自分」よりも上達していくかもしれません。


写真=iStock.com/maroke
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/maroke

ただ、当時のようにメキメキ上達したり、すぐに楽譜を覚えて弾きこなしたりすることが少々難しくなったことを実感した場合、つい、こんなふうに思ってしまいます。


「若いころは、もっとスラスラと演奏できたのに、私ももう年だな……」


「自分も70歳か。いつのまにか、ギターまで弾けない年齢になったんだな……」


そうやって「老い」を嘆けば、たちまちモチベーションは下がり、練習することさえ嫌になってしまいます。すると上達はさらに遅くなり、あげくの果てには、楽器未経験にもかかわらず地道に練習を続けた同年代の人に追い越されてしまう。それでさらに老いを痛感して、老け込む——という悪循環にはまっていきます。


要するに、ハーバードの反時計まわりの実験から導かれた「若さを持続するために大切なこと」とは、これです。


「年をとったから、もう若いころのようにうまくできない」などと、年齢をまざまざと痛感させられるような機会は極力減らして、「今も、若いころのようにできる! 若いころと変わらない」という「思い込み」を維持すること——。


そして、そのためには、年をとったことを感じさせるような事象は、周りから排除したほうがいいのです。


■思い出の場所はむしろ、老いの危険を呼び込む


反時計まわりの実験結果から導かれた「自身が老いたことを意識しないために、年齢を感じさせる事象は排除するほうがいい」という考え方は、うなずけます。


でも、だからといって、この実験室のように、20年前に戻ったかのような環境で生活することも、鏡など姿が映るものをいっさい周りから排除することも、現実には不可能でしょう。


さらに、実験のように周囲の人間もそれに合わせてくれたらいいのですが、そんなことは絶対ありません。


また、中途半端に昔懐かしいものに触れれば、つい、「あのころはよかった」というノスタルジックな感覚に陥りがちです。そんな感傷的な気持ちは、自分が老いたことをより痛切に意識させる危険性があります。


過去を強く想起すれば、同時に、現在の自分や自分をとりまく世界が大きく変化してしまったこともまた、意識してしまうものです。普段、そんな変化を意識していなかった人ほど、老いを一気に感じてしまうこともあるでしょう。


写真=iStock.com/PonyWang
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/PonyWang

現実社会ではこうしたリスクがあるので、ハーバードの実験で用いたような環境に変えるべきではない、というのが私の考えです。


■あなたの中にも必ずある“若返る力”を目覚めさせるコツ


心身を若返らせるために、ことさら実験のような装置など不要! と私が断言するもう一つの理由は、人間には、意識さえ変わればいくらでも若返る力が備わっているからです。しかし、逆のことも起こり得ます。


出版社の編集者に聞いた話が、いい例なのでご紹介しましょう。


見た目は40代くらいで若々しく、これまでずっと若者に向けた本ばかりを書いていた作家が、そろそろ新規路線の開拓をしようということで、高齢者向けの本の執筆をはじめたそうです。


数カ月後、完成原稿を受けとるために久しぶりにお会いしたら、あの若々しかった作家が一気に老け込んで、すっかり後期高齢者のような見た目になってしまっていたので、編集者はびっくり仰天したそうです。


その作家は、高齢者向けのテーマに真摯(しんし)に向き合い、高齢者について四六時中考えているうちに、自分の年齢を強く自覚し、「老い」をしみじみと意識してしまったのでしょう。——しかし、その結果、完成した原稿は素晴らしい内容になっていました。


要は、わざわざ周囲の環境を変えなくても、自分が思い込んだ年齢のとおり、心身の年齢は変われるということです。


■感傷に浸ると、老いを痛感してしまう


最近は、テレビやラジオの視聴者が高齢化したせいか、多くの放送局で「昭和の歌謡曲」の特集が組まれています。


昭和歌謡を「懐かしいな」と感じてつい聴きたくなる気持ちはわかりますが、「昔はよかったな」「あのころは……」なんて感傷に浸ることは、老いを自覚し、自分が年をとったことを痛感してしまうために、どんどん精神的な若さを奪っていきます。


だから、若いころによく聴いた音楽を聴いたり、若いときに訪ねた場所に行ったりして懐かしさに浸ることを、私は推奨しません。


音楽などは極力、「今の流行り」を耳に入れるほうがいいでしょう。


そうした理由から、楽器を再度練習するときも、昔よく演奏していた曲は避けて、今どきの新しい曲を演奏するようにすれば、意識を若く保てるのです。


■「懐メロはNG」でも「若いころに観た映画や本はOK」である理由


懐メロはNGですが、昔に読んだ本や、過去に観て感動した映画を、年をとった現在もう一度体験してみることは、おすすめです。


一度読んだ本や観た映画を再び味わったところで、面白くないのではないか?


いえいえ、そんなことはありません。映画や本の場合は、印象的な個所は覚えていても、ほかの部分を憶えていないことがほとんどでしょう。


懐メロとは何が違うの? 音楽は感情に訴え、当時の感傷的な気分や、もう戻ってこない青春や切なさをよみがえらせがちであるのに対して、本や映画のいいところは、ただ「懐かしいな」では終わらないところです。


写真=iStock.com/xijian
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/xijian

もちろん、読んだり観たりした当時の感情を呼び戻されはしますが、それよりも今の視点で新しい学びや発見、感動を得ることのほうが圧倒的に大きくなります。何度読んでも何回観ても、その都度その都度、新しい発見や学びを得られるのです。


「あのときは理解できなかったけれど、今ならこの登場人物の判断が正しかったことがよくわかる」「そうだ、こうしたやり方もあったのを忘れていたな……」などなど。


変に感傷的になりすぎずに、当時の自分の発見や学びの感覚を現在の自分に呼び戻しながら、さらに新たな発見や学びが上書きされていくので、「若返り」には効果的な影響を及ぼします。


■88歳医師が感銘を受けた本の一節


私自身、若いころから現在まで何度も読み返している本が2冊あります。



高田明和『88歳医師の読むだけで気持ちがスッと軽くなる本 “年”を忘れるほど幸せな生き方』(三笠書房)

両方ともロシア文学の作品で、1冊はツルゲーネフの『初恋』。青春を懐かしむ物語ではありますが、高齢になった現在読むと「時間を大切に使うことの重要性」を思い出させてくれます。


もう1冊は、チェーホフの戯曲『桜の園』。彼は医者だったので、「ある病気にいろいろな治療法があるときは、治す方法がまだ見つかっていないことを意味する」という文句が出てきます。


私は医学者としてこの言葉に非常に感銘を受けたため、いまだに何度も読み返すことになっているわけです。


映画やテレビドラマは、インターネットの配信サービスを使えば、かなり昔の作品も観ることもできます。昔の本は、古書店やネットで中古品を探すことになりますが、購入すれば長い空白の時間を埋めることもできます。


ぜひ時間があるときに、試してみてください。


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高田 明和(たかだ・あきかず)
浜松医科大学名誉教授 医学博士
1935年、静岡県生まれ。慶應義塾大学医学部卒業、同大学院修了。米国ロズウェルパーク記念研究所、ニューヨーク州立大学助教授、浜松医科大学教授を経て、同大学名誉教授。専門は生理学、血液学、脳科学。また、禅の分野にも造詣が深い。主な著書に『HSPと家族関係 「一人にして!」と叫ぶ心、「一人にしないで!」と叫ぶ心』(廣済堂出版)、『魂をゆさぶる禅の名言』(双葉社)、『自己肯定感をとりもどす!』『敏感すぎて苦しい・HSPがたちまち解決』(ともに三笠書房≪知的生きかた文庫≫)など多数ある。
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(浜松医科大学名誉教授 医学博士 高田 明和)

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