「電子レンジとレトルト食品」を活用できないと長生きはできない…「手間のかかる料理」に潜む健康リスク

2024年2月7日(水)7時15分 プレジデント社

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/AndreyPopov

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100歳まで健康を保つために必要なこととは何か。管理栄養士で大妻女子大学家政学部の川口美喜子教授は「おいしい料理を手軽につくり続けるために調理器具は見直したほうがいい。大きな圧力鍋や重い鉄鍋は手放して、電子レンジとレトルトの活用を考えてほしい」という——。

※本稿は、川口美喜子『100年栄養』(サンマーク出版)の一部を再編集したものです。


写真=iStock.com/AndreyPopov
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■大容量の圧力鍋、鉄鍋は捨ててしまう


食欲や食事量が落ちてきた人に、おいしく食べる喜びを取り戻していただくきっかけになるように、「スムージー」をご提案しています。


このスムージーをつくるのに便利な調理器具がハンドブレンダー。ポタージュスープや介護食などをつくるときも手軽なので、高齢になったらもっていたい調理器具としてみなさんにおすすめしています。ミキサーよりもお手軽で、1人分がつくりやすいです。


ほかにも、おいしい料理を手軽につくり続けるために、もっているとよい調理器具があり、私は「60代で、調理器具を見直し、買い直しましょう」とおすすめしています。


たとえば、お芋をつぶすマッシャー、皮むきがラクなピーラー、直径16〜18cmの小さなフライパン、小さめの圧力鍋、小さめのミキサーやフードプロセッサー。


いずれも、重いものから軽めのものへ、大型から、小型へチェンジです。ご高齢の方のキッチンへおうかがいすると、大容量の圧力鍋や重い鉄鍋などはしまい込まれ、ほこりをかぶっていることが多いものですが、60代以降の「コンパクト神器」は、普段から大いに活用され、役立っています。


■電子レンジ、トースター調理で洗い物の手間を省く


子どもが巣立ったあるご婦人は、包丁や鍋などを小さく、軽いものに替え、調理器具を減らし、食器も整理して、便利な調理器具をすぐ取り出せる位置に置くことに。奮発して高機能の電子レンジに買い替え、テーブルに出したIHコンロと併用して、ガスをほとんど使わないようにした、と言いました。


まさに、年齢を重ねて料理がおっくうになってしまうのには「包丁が重い」「鍋が重い」「うっかり空焚きが怖い」「器がかさばる」といった、小さなストレスも影響することが多いのです。


1人暮らしになったことをきっかけに、キッチンのレイアウトを替え、調理の大半を座ってできるようにした人もいました。こうしたことも、おいしく食べ続ける工夫ですね。


たとえば「小さめの圧力鍋」は、調理時間は短いのに、食材の旨味を逃さず、芯までしっかり調理できる優れものです。


以前、私が定期的に食事会を開いている「暮らしの保健室」(東京都新宿区)で、「時短料理の日」と題し、参加者が考案した時短レシピを披露し合う会を開いたことがありました。


先輩たちは1つの鍋や電子レンジ、オーブントースターなどを利用して調理し、できあがった品々は1つの皿に彩りよく盛って、片付けや洗い物の手間も省いているとのことでした。缶詰やびん詰め、レトルトの「常温で置いておける食品」を大いに活用していることも共通点でした。


■100歳まで健康でいるためにいちばん大切なこと


みなさん若いころから家事の軽減で工夫してきて、習得してきた「時短テク」や「手抜きテク」を開花させて、高齢期の食事のしたくはよりシンプルに、「毎日しっかり食べる」を保っておられるのです。


ご長寿な健啖家の共通点は「暮らし方」に関することも多々あります。とくに「100年栄養」と関係することを紹介しましょう。筆頭は1日のリズムが決まっていて、ブレないということです。


高齢になると睡眠の問題を抱える人が増えますので、リズムがブレないのは素晴らしいことです。毎日、一定時間睡眠がとれるのは、起きている時間が充実していて、適度に心身が疲れるためでしょう。


明け方トイレに起きても、また寝られて、普段どおり起きることができれば、ストレスになりません。しかしトイレで目覚め、もう寝られなくなってしまうと、寝足りない。つい昼寝や夕方寝をして、また夜の睡眠に影響が……、一般的にはそういう人が多いです。


■ルーティンワークがない人は「食事の時間」を決めよう


高齢になればどうしても寝られる時間は短くなっていきます。8時間、9時間眠ろうと思っても、眠れなくなるのが自然です。6、7時間が適切ですから夜、早寝しすぎないことも大事ですね。


夕食後、ぼーっとテレビを見ているとうっかり眠ってしまうので、眠らないで食後の時間を過ごす趣味をもっている先輩もいました。食べることと同様に、生活のリズムを保つにも自分なりの工夫が必要なのだと教わりました。


1日の生活時間を、3食の食事時間を軸に組み立てることもいいでしょう。朝7時の朝食までに散歩から帰る。昼12時の昼食に間に合うように家事や趣味のことをする。18時に夕食を食べられるように、それまでに買い物を済ませ調理をする、という具合に、食事の時間を決めてしまうことで、そこまでの行動を効率的に組み立てることができます。


体重計も血圧計も、そして体温計も多くのご家庭でそろっていることが多いものです。


しかし、高血圧で主治医から何度も「家庭血圧測定」をすすめられていても、習慣にならない人も多いもの。しかし、ご長寿な健啖家には「自分の基本データ」をよく理解し、それで生活を調整している人が多いです。


ほかにも万歩計や睡眠計、心拍データなど、最近ではスマートフォンなどでわかるので、積極的に利用している人もいます。


■長生きする人は体重がほとんど変わらない


体調に変化があったとき、「変化がある」事実を確かめるためには、当然ながら「普段はどうか」を知っていなければできません。医師や看護師は、そのときのデータはわかるけれど、普段はどうなのか、それこそが正確な判断のために大事なことです。


平熱も人によってかなり違います。年齢を重ねて、若いころとは違ってくることもあります。中年以降は最低限、体重・血圧・平熱を定期的に測って、覚えておきましょう。


栄養不良のもっとも正確な指標となるのは体重の変化です。経年変化がわかると、何か問題が予想されたとき、より正確な判断ができます。


健啖家の先輩たちに尋ねると、若いころから現在までの体重の変化をしっかり覚えている人、ほとんど変化がなかった人の2タイプが多数です。


人生におけるさまざまな転機(結婚、転職、転居、入院)で変化したエピソードを話してくれる人も多く、私にとっては「栄養のリアル」について理解を深める学びの機会になります。


みなさんもご自身の経過をぜひ思い出してみてください。


写真=iStock.com/JohnnyGreig
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■93歳で「入れ歯なし」の人が歯を保てている理由


高齢期には、虫歯や歯周病とともに摂食嚥下(えんげ)機能についても相談できる歯科に通い、定期的に診てもらいましょう。


以前、先輩に「部分入れ歯にしたら味が落ちた」と嘆いて、慰めてもらったことがあります。先輩は93歳にしてすべて自分の歯を保っていました。30歳以上若い私が気の毒がられ、励まされたのです。


その先輩は年齢相応の体力と認知機能の低下があり、「暮らしの保健室」の食事会にはヘルパーさんが抱えるようにして連れてこられる人です。いらしてすぐは表情がこわばっていますが、席につきしばらくすると和んできて、料理を出すと、食材や調理法、盛りつけに対する感想の言葉が出ます。しっかり1人前を召し上がり、食事前とは別人のような活気のあるお顔になるのが常です。


お箸のもち方がきれいで、食べ方が美しい。私はお隣に座って食事をし、食後、ついグチをこぼしてしまったのでした。


「お気の毒ねぇ。歯は大事にしないと食べられなくなってしまうわ。私はずっととてもいい先生に診ていただいているのよ。最近は家に診察に来ていただくの」


本当にご立派です。みなさんも歯や摂食嚥下の診察や訪問診療もしてくれる、そしてできれば管理栄養士の勤務している歯科を見つけられたら、鬼に金棒。生涯にわたり「食べる口」を守りやすいです。


■よく食べる人は、よくしゃべる


そして、お元気な方は、しゃべる口もお達者ですね。


以前、「食べる口とともに『しゃべる口』も大事」というテーマで本を書きました。本当に、この2つは関係していて、どちらかに問題が起きると、引きずられるようにもう一方も弱ってしまうことが多いのです。


私はこのことを病院で入院、治療している患者さんから教わりました。しゃべる人は食べられて、早々退院する。話せない、食べられない人は時間がかかる。地域活動をするようになって、地域で暮らすお年寄りを見ても同じだと思いました。


しゃべる、食べる人はお元気。健啖家の先輩はおしゃべり好きです。


当たり前に感じるかもしれませんが、高齢期には「当たり前」がうまくいかなくなることが多いのです。意識的に増やさないと、しゃべる機会は減る一方です。なるべく人と関わり、話す、ということを意識してみてください。


ドラッグストアでは低栄養を予防する栄養機能食品が販売されています。また、アスリート向けの栄養機能食品の中にも、高齢の人も活用するとよい製品もあります。


そしてなにより、最近は管理栄養士が勤務していることが増えてきました。


買い物がなくても、ちょいちょい顔を出し、管理栄養士となかよしになってください。それぞれの地域で、専門職の専門性を上手に利用し、元気を保っておられる先輩たちがいます。


■自立した人は、「頼れる先」をたくさんもっている


私も地域活動では利用してもらう専門職の1人。やはり互いに何度も顔を合わせ、食や生活についていろいろなお話を聞き、頼りにしてもらえるとうれしく、支援しがいが高まるのです。


ドラッグストアでは、とても忙しくて、十分に相手ができないこともあるかもしれませんが、悩みや相談を無下にはしないはず。介護における食の問題なども、相談できます。



川口美喜子『100年栄養』(サンマーク出版)

ところで、私は自立とは「誰にも頼らずに自分だけで生活する」ではなく、「たくさん頼れる先をもって、バランスよく利用し、自分らしい生活を続ける」だと考えています。


人は誰でも老い、体力も機能も衰えます。それを受け入れ、できることを楽しむ姿を、人生の後輩たちに見せるのも、お役目の1つだと思うのです。


医療や介護の仕事をしている人には同じように考えている人が多いと思います。私たちは頼りにしてもらって、仕事ができ、活かされます。


高齢社会となって人生の途中で病気や障害とともに生きることになる人は多くなりました。ぜひ「多くの依存先をもち、使いこなせることが自立」と理解する人が増えるといいと思います。


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川口 美喜子(かわぐち・みきこ)
医学博士 大妻女子大学家政学部教授 管理栄養士
専門は「病態栄養学」「がん病態栄養」「スポーツ栄養」。島根大学医学部附属病院で栄養管理室長を務め、NST(栄養サポートチーム)を立ち上げるなど、“食事をとおした治療”に積極的に参加。現在は、大学で後進を育てながら、地域医療のパイオニアである「暮らしの保健室」(東京都新宿区・江戸川区)や、がん患者とその家族が訪れるマギーズ東京(東京・豊洲)などにて、栄養指導、栄養ケアを行う。病気や日々の暮らしに問題を抱える多くの人のために、卓越した栄養学の知識を具体的な食事に落とし込んで支援している。著書に『老後と介護を劇的に変える食事術』(晶文社)など。
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(医学博士 大妻女子大学家政学部教授 管理栄養士 川口 美喜子)

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