「役不足なので不安です」「お求めやすい商品です」「ご進言ください」は大間違い…正しく言い直すと?

2024年2月10日(土)15時15分 プレジデント社

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/byryo

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使うと恥をかく日本語は何か。中国文献学者の山口謠司さんは「『役不足』とは、『能力に対して、役目が不相応に軽いこと』を意味する。しかし、ある調査では6割の人が『本人の力量に対して役目が重すぎること』と認識している。大きな仕事を頼まれたときに正しい返答は『力不足なので不安です』である」という——。

※本稿は、山口謠司『もう恥をかきたくない人のための正しい日本語』(三笠書房)の一部を再編集したものです。


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■6割の人が誤って認識している言葉


ビジネスシーンで間違って使われやすい「役不足」
× 役不足なので不安です

○ 力不足なので不安です

平成18(2006)年度に行なわれた文化庁国語課の「国語に関する世論調査」で、「役不足」をどういう意味で使っているかという質問がありました。


(ア)本人の力量に対して役目が重すぎること
(イ)本人の力量に対して役目が軽すぎること


みなさんは、どちらの意味で使っていますか。正解は、(イ)です。「役不足」とは、「能力に対して、役目が不相応に軽いこと」を意味します。


『文化庁月報』(平成24年2月号)には、次のような例文が掲載されています。


「部長、どうして私をプロジェクトチームに入れてくださらなかったのですか。」
「君を外したのは、役不足だったからだよ。」


このやりとりは、「役不足」を先の(ア)(イ)、いずれの意味で取るかによって、正反対の内容になってしまいます。


平成18年度の調査では、(ア)の意味が正しいと考えている人が50.3%、(イ)が正しいと考えている人が40.3%という結果でしたが、令和になってからは(ア)を正解と考えている人が60%を越えるのではないかと言われています。


会話に出てくると一瞬、どっちが正しい使い方か分からなくなってしまいますが、「役不足なので不安です」という言葉は誤りなので、大きな仕事を頼まれたときは「力不足なので不安です」と言うようにしましょう。


■早口が間違った日本語につながる理由


接客で、知らずしらず恥をかかないために
× お求めやすい商品です

○ お求めになりやすい商品です

日本語も英語も同じですが、日常で使う言葉はどんどん簡単になっていきます。とくに現代のように早口の人が増えてくると、発音しやすくしようとして、言いにくい言葉を削ぎ落とそうとするのです。


じつは、「お求めやすい商品です」「お求めやすい価格です」というのも、この現象から生まれた表現のひとつで、文法的には誤りです。


「求める」という言葉は、ここでは「購入する」の意味で使われており、それに「お」をつけて丁寧な言葉にされています。「お求め」は名詞ですから、これを動詞にするなら「お求めになる」となります。


そして、「お求めになる」ことが、金額的に「容易(たやす)い」「簡単です」という意味なので、本来なら「お求めになりやすい商品です」と言わなければなりません。


ところが、「お求め—になり—やすい」の「になり」の部分は、早口で話すと、ナ行の二つの音が曖昧になり、「にな」の後の「り」が言いにくいので音が欠落してしまうのです。


さて、舌の動きを活発にすることは、アンチエイジングにもいいと言われています。間違った言い方をやめるためにも、ゆっくり話して、正しい日本語で人に言葉を伝え、さらにアンチエイジングにも活かしてもらえればと思うのです。


■「お客様からのご注文を受けた品物」を尊敬する表現はNG


敬意の対象が何なのか、考えるクセをつける
× ご注文の品はお揃いになりましたか?

○ ご注文の品は揃いましたでしょうか?

「みなさん、お揃いになりましたか?」と、団体旅行の待ち合わせで、声を掛けられることがあります。「お揃いになる」は、「そろう」という動詞を丁寧語の「お」と「○○になる」で挟んで作られた言葉です。


この呼びかけは「みなさん」を強調し、尊敬して言ったもので、間違った表現ではありません。


これに対して、ファミリーレストランなどの飲食店でよく使われる「ご注文の品はお揃いになりましたか?」という言葉があります。


注文された料理が、全部配膳されたかを確認するために、従業員が客に尋ねる場面でよく耳にします。


じつはこの「ご注文の品はお揃いになりましたか」は、おかしな日本語になっています。


店側から提供することになる「お客様からのご注文を受けた品物」を強調し、尊敬して言った表現になってしまうため、誰が誰を敬って言っているのかが、よく分からなくなってしまうのです。


「お客様がご注文なさったお料理は、すべてテーブルに配膳されたでしょうか」という意味での言葉なので「ご注文の品は揃いましたでしょうか?」と言うのが正しいのです。


■「進言」は「アドバイス」の丁寧語ではない


上司から、意見やアドバイスをもらいたいとき
× ご進言ください

○ ご指摘ください

大学で、学生が先生に「ご進言ください」と言っているのを耳にしました。変な言い方をするなあと思っていると、なんと会社でも上司に対して、同じく「ぜひ、ご進言ください」と言う人が増えているとのことでした。


「ご進言ください」と言う人たちは、「進言」を「アドバイス」の丁寧語だと思って使っていますが、これは間違いです。


「進言」は、中国の前漢時代の歴史を書いた『漢書(かんじょ)』(紀元82年頃に成立)に由来する言葉で、「目上の人に対して意見を申し述べること」を言います。


類語には「具申(ぐしん)」「建言(けんげん)」などもありますが、こういう言葉は書面に使うべきで、会話で使う日本語ではありません。「進言」も同じです。


現代日本語で「ご進言」が使われるようになったのは、目上の人たちやお世話になった人たちにする贈り物を「御進物(ごしんもつ)」と言うからです。


つまり、もともと「御進物」という言葉はあっても、「御進言」という言葉はありません。


目上の人からアドバイスをもらいたいときには、「ご教授ください」「ご指導ください」または「私に間違いがございましたら、ご指摘ください」というのが適当です。


■「約束しないと会えないのか」と、むきになる人もいる


待ち合わせをしているか確認したいとき
× お約束はしていらっしゃいますか?

○ お約束はいただいておりますでしょうか?

明治時代から第二次世界大戦前までの文豪たちの日記を見ていると、散歩の途中に知り合いの家に寄ったが、相手がいなかったので、玄関に一言添えた名刺を置いてきた、なんてことがよく書かれています。


また、青山、谷中、雑司が谷などの著名人の墓に行くと、入口のところに名刺受けの石柱が立っていたりします。相手が不在でも、「自分は訪ねてきたよ」とさりげない挨拶をしていたのです。



山口謠司『もう恥をかきたくない人のための正しい日本語』(三笠書房)

さて、取引先の会社の近くまで来たから、社長か部長に挨拶をしようと思って受付に行くと「お約束はしていらっしゃいますか?」と言われます。おそらく、たずねた人の役職が社長や部長だったら、ムッとするのではないでしょうか。


「お約束はしていらっしゃいますか」という言葉には、なんとなく「約束がないと会えません」のようなニュアンスが感じられてしまうため、発言した人にその気がなくても、相手によっては「約束しないと会えないのか」と、むきになる人もいるかもしれません。


こんなときには、「お約束はございますか?」あるいは「お約束はいただいておりますでしょうか?」と言うようにしましょう。こう言えば、「いや、ちょっと近くまで来たから会いたいと思って」と、相手も返事をしやすくなる優しい表現になります。


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山口 謠司(やまぐち・ようじ)
中国文献学者
1963年、長崎県生まれ。大東文化大学文学部教授。博士(中国学)。大東文化大学大学院、フランス国立社会科学高等研究院大学院に学ぶ。英国ケンブリッジ大学東洋学部共同研究員などを経て現職。専門は書誌学、音韻学、文献学。『日本語を作った男 上田万年とその時代』(集英社インターナショナル)で第29回和辻哲郎文化賞受賞。著書に『世界一役に立つ 図解 論語の本』『品がいい人は、言葉の選び方がうまい』『読めば心が熱くなる! 中国古典100話』『日本人が忘れてしまった日本語の謎』(以上、三笠書房《知的生きかた文庫》)、『語彙力がないまま社会人になってしまった人へ』(ワニブックス)、『心とカラダを整える おとなのための1分音読』(自由国民社)、『文豪の凄い語彙力』(新潮文庫)、『語感力事典』(笠間書院)、『文豪の悪態』(朝日新聞出版)、『頭のいい子に育つ0歳からの親子で音読』(さくら舎)、『明治の説得王・末松謙澄』(集英社インターナショナル)など多数。
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(中国文献学者 山口 謠司)

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