なぜ発作が起きるのかを知れば怖くない…世界的精神科医が教えるパニック発作を鎮める2つのテクニック

2024年2月13日(火)13時15分 プレジデント社

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Ignatiev

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極度の不安からパニック発作を起こした場合にはどうすればよいのか。スウェーデンの精神科医、アンデシュ・ハンセンさんは「パニック発作は不安が強過ぎて全身に反応が起きることである。不安は2つのテクニック(呼吸とつらさを言葉にすること)で対処できる」という——。(第3回)

※本稿は、アンデシュ・ハンセン『メンタル脳』(新潮新書)の一部を再編集したものです。


■扁桃体は脳の警報センター


扁桃体にはいくつも役割がありますが、その1つが「脳の警報センター」としての役割です。扁桃体はその役割を愚直に果たしていて、ちょっとした危険にも大々的に警報を鳴らします。念のために鳴らすこともあるので、実際には何事もない場合もあります。それでも、肝心な時に鳴らし損なうよりは鳴らし過ぎた方が良いという仕組みになっているのです。


要は火災報知器のようなものです。トーストがちょっとこげたくらいでいちいち鳴るのは厄介ですが、夜中に本当に火事が起きた時に鳴ってくれればいいのです。


私たちの脳もまさにそんなふうに反応します。「本当に危険な時に鳴らし損ねるよりは、念のため間違って鳴らすくらいかまわない」と考えているのです。脳の1番大切な仕事はあなたを生きのびさせることなのですから。


写真=iStock.com/Ignatiev
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Ignatiev

■パニック発作が起きる理由


極端に強い不安は「パニック障害」や「パニック発作」と呼ばれ、不安が強過ぎて全身に反応が起きてしまいます。心臓がドキドキしたり、息が苦しくなったりして身体がいうことをきかなくなり、自分ではどうしようもなくなります。ストレスシステムが強く作動し、「すぐにここから出なきゃ、逃げなきゃ、じゃなきゃ死ぬ!」と思ってしまうのです。


「今、草むらで何かが動いた。ライオンが隠れているのかもしれない。逃げなければいけないのに、足が石に挟まって動けない!」パニック発作が起きるとそんな気分になります。


そのためか、逃げられないような場所、特に地下鉄の中や満員のバスで発作が起きやすくなります。何らかの原因で身体の警報システムが作動し、「もうダメだ、逃げられない」という気分になるのです。


この原因になっているのが扁桃体、特にきっかけをつくるのが扁桃体だと考えられています。扁桃体は危険を認識すると警報を鳴らし、ストレスシステムを起動させるので、心臓がドキドキして息が苦しくなります。しかし問題はここからです。


心臓と肺からのそのシグナルを脳が「危険なことが起きている証拠だ」と受け取り、ストレスシステムのアクセルをぐいっと踏むのです。すると心拍や呼吸がさらに激しくなり、それを脳がますます危険な証拠だと認識し──こうして負のサイクルにはまり、ひどいパニックを起こしてしまうのです。


■パニック発作で受診したほうがいいケース


パニック発作では全身が反応します。そのため「心臓発作を起こしたのかも」など、身体に原因があると思う人が多くいます。ですが実際には、脳が危険に対して激しく反応してしまっただけです。しかも実際に危険だったとも限りません。


たいていは狭い空間など、その時に「危険だ」と思われる場所で起きるので、そういった場所に恐怖を感じるようになり、避けるようになります。しかしバスや電車、地下鉄に乗らなければ移動できないので、日常に大きな問題が生じます。


自分で解決するのは難しいですから、必要なら治療を受けましょう。CBT(認知行動療法)ではパニックを起こさないように少しずつ、恐怖を感じるものと向き合う練習をしていきます。


どういうタイミングで受診するかは、他のメンタル面の症状でも同じですが、日常に問題が生じるようになったら受診した方が良いでしょう。あるいは、本来ならやりたいし、やって気分が良くなるようなことまで避けるようになった時です。


写真=iStock.com/Yurii Yarema
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Yurii Yarema

■強い不安は扁桃体の勘ちがい


脳が進化した時代は危険が多く、あらゆる方向からリスクが降ってきました。現代では危険の種類が変わりましたが、脳はその変化についていけていませんし、私たちがまだサバンナで暮らしていると思っています。


テストの前に強い不安を感じたら、「扁桃体が勘ちがいしているだけだ」と考えてみてください。パニック発作も「警報器の誤作動だ」と思ってみてください。心臓は止まりませんし、窒息(ちっそく)もしません。とても不快ではありますが、「不安は危険なものではない」ということを覚えておくのが大事です。


しかし強い不安を感じるのは非常につらいことです。最悪の場合、不安に人生を乗っ取られてしまうこともあります。ですが多くの場合、不安を客観的に見るようにすると楽になり、不安にもまともな説明があることに気づきます。脳にしてみれば、不安は「危ないかもしれない」と警告する手段なのです。


不安は自然な防御メカニズムで、人類の歴史を通じて私たちを危険から守ってきました。ですから不安を感じるということは人間として正常に機能している証拠でもあるのです。不安を感じるのがおかしいということはありません。


私たちの脳は今とはまったく違った世界で進化しました。そのためにちょっと困ったことになるのですが、そこはどうしようもありません。そんな脳には優しくし、わかってあげる努力も必要です。私たちを生かしておくために必死でがんばってくれているのですから。


■呼吸で不安を落ち着かせる


簡単に無理なく不安を抑えられる方法が、実は2つもあります。毎回効くとは限りませんし、全員に効くというわけではないですが、多くの人が効果を感じられます。


不安が近づいてくると感じたら、いったん手を止めて、長い深呼吸を何度かしてみましょう。吸う息よりも吐く息を長くしてください。目安としては4秒かけて吸い、6秒かけて吐く。普段の呼吸よりかなり遅いので、あらかじめスピード感をつかんでおきましょう。


効果の理由:自律神経は身体の色々な器官の働きをコントロールしていますが、自分の意志では動かせません。ですが呼吸によってバランスを整えることは出来ます。自律神経には2種類あり、交感神経は「闘争か逃走か」、副交感神経は「消化」や「心の落ち着き」に関わっています。


息を吸うと交感神経が活発になります。心臓が少し速く打ち、「闘争か逃走か」寄りになります。短距離競争のスタート前に走者が素早く何度も呼吸をしてコンディションを上げようとするのは、そのためです。


しかし息を吐くと、今度は副交感神経が活発になります。心臓の打ち方が少しゆっくりになり、心が落ち着くのです。


吐く息を長くすると驚くほど効果があります。肺からゆっくりと空気が出ていくにつれ、不安も流れ去るのを感じるでしょう。


写真=iStock.com/Igor Barilo
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Igor Barilo

■言葉にすることで感情に引きずられにくくなる


自分の気持ちを言葉にし、説明するというのも良い方法です。出来る限り正確に自分の感情を表現してみましょう。上達すると自分の中で起きていることを少し距離をおいて、つまり客観的に見られるようになり、感情に引きずられにくくなります。



アンデシュ・ハンセン『メンタル脳』(新潮新書)

効果の理由:左右の脳半球に1つずつある前頭葉は脳の中でも最も高度な機能を持った部位です。前頭葉の中央部分は簡単に言うと自分自身にフォーカスしていて、身体の中で何が起きているのかを把握し、感情やモチベーションといったものに働きかけています。一方、前頭葉の外側の部分は周りで起きていることにフォーカスし、問題解決や計画といったものに関わっており、扁桃体が警報を鳴らした時にブレーキをかける役割も担っています。話している相手が怒り出したら扁桃体は警報を鳴らします。怒っている人間は危険だからです。扁桃体が働き出すと心配と不安が募りますが、「おや、この人は怒っているみたいだ。怖いな」と言葉で表現すると、今度は前頭葉の外側の部分が活発になり、扁桃体を落ち着かせることができるのです。


自分の感情や原因を言葉にすることで、脳のフォーカスが外の世界を把握する前頭葉の外側の部分に移り、視点も自分の中から外に移るわけです。それが暴れる扁桃体を抑えてくれます。


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アンデシュ・ハンセン(あんでしゅ・はんせん)
精神科医
ストックホルム商科大学で経営学修士(MBA)を取得後、ノーベル賞選定で知られる名門カロリンスカ医科大学に入学。現在は王家が名誉院長を務めるストックホルムのソフィアヘメット病院に勤務しながら執筆活動を行い、その傍ら有名テレビ番組でナビゲーターを務めるなど精力的にメディア活動を続ける。『運動脳』は人口1000万人のスウェーデンで67万部が売れ、『スマホ脳』はその後世界的ベストセラーに。
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(精神科医 アンデシュ・ハンセン)

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