一番人気はソウルフード菓子「ビーバー」被災地石川の都内"ポップアップ店"人気爆騰で予想5倍来店の秘密

2024年2月14日(水)11時15分 プレジデント社

アンテナショップ Pre-Eventのポスター - 筆者撮影

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JR池袋駅構内にできた石川県の臨時アンテナショップは1日中行列が絶えず、初日の来店は予想の3〜5倍。チェーンストア研究家・ライターの谷頭和希さんは「駅ナカ店や店舗内ポップアップストアはすっかり人気定着したが、その出発点はスキマビジネス。石川のポップアップストアのヒットには被災地応援の心理のほかにも“街のスキマ”を見つけて稼ぐ技が光っている」という——。

■石川県のポップアップストアが大好評


JR池袋駅は1日の平均乗降人員が約46万人でJR東日本管内では新宿駅に次いで第2位の規模を誇る。1月下旬から2月上旬にかけて、その池袋駅構内に臨時で作られた「ポップアップストア」は1日中、長蛇の列がなくならなかった。


筆者撮影
アンテナショップ Pre-Eventのポスター - 筆者撮影

実はこれ、石川県の臨時アンテナショップ。3月9日に八重洲にできるアンテナショップ「八重洲いしかわテラス」がオープンするまでの間、首都圏近郊を中心に継続的に開催される。


このストアには、1月1日に発生した能登半島地震への復興支援の意味合いもあり、売り上げは被災地への義援金としても使われる。石川県によると、今後は、以下の日程で開催される予定だ。


2月8日(木)〜2月9日(金) 都内(板橋区) 板橋区役所
2月14日(水)〜2月20日(火) 埼玉県 丸広百貨店 上尾店
2月15日(木)〜2月21日(水) 埼玉県 大宮駅
2月17日(土)〜2月18日(日) 都内(千代田区) 東京駅
2月21日(水)〜2月27日(火) 埼玉県 丸広百貨店 川越店
2月23日(金)〜2月25日(日) 都内(文京区) 湯島天満宮(湯島天神)


池袋駅構内で行われた第1弾は大好評で、主催者によれば、初日の来店は想定の3〜5倍だったという。大反響の理由には、今なお生活すらままならない被災者への復興支援を願う人々が多くいることは言うまでもない。


だが、それだけではない。「駅の構内で行われるポップアップストア」という形態自体が、現在の商業施設のトレンドにマッチしていることも功を奏したのではないかと筆者は考えている。どういうことか。今回は、この石川県のポップアップストアから、現在の商業施設の立地トレンドを見てみたい。ポイントは


① 駅ナカ需要の継続的な増加
② ポップアップストアの流行
③ 「街のスキマ」を見つけるトレンド


の3つである。


■2000年代から発掘されてきた「駅ナカ」需要


筆者も実際に、このポップアップストアに足を運んでみた。平日の午後にもかかわらず、多くの人が立ち寄り、商品を購入していた。駅構内ということもあり、移動途中にたまたま立ち寄る人も多いようだ。


スタッフに聞くと、一番の売れ筋は「(販売している約120品のうち)地元ソウルフードで定番おやつの『ビーバー』(揚げあられ)ですね」という。他にも、「焼芋きんつば」「のどぐろチップス」「献上加賀棒茶」「ゴーゴーカレー監修 カレーさきいか」「元気の源 ゴーゴーカレーによく合うビール」などを購入する客が多かった。


筆者撮影
地元ソウルフードで定番おやつの「ビーバー」 - 筆者撮影
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「元気の源 ゴーゴーカレーによく合うビール」 - 筆者撮影
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「のどぐろチップス」 - 筆者撮影
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「献上加賀棒茶」 - 筆者撮影

こうした、駅の中にある商業施設は「駅ナカ」と呼ばれ、各鉄道会社が力を入れる事業の一つである。代表的なものが、JR東日本の「ecute」だろう。2024年現在では15の駅にも及び、さまざまな駅で開発が進められている。


「駅ナカ」は2000年代からその展開が始まり、2007年には経済産業省が商業統計で「駅そのものの集客力が注目され、コンビニエンスストア、書店をはじめ様々な業態の事業所が改札内に進出し、近年では、駅の改修を含めた商業施設の開発を行っているケースもある」と書いている。注目すべき商業形態として明示されているのだ。現在ではすっかりおなじみの存在となった。


こうした「駅ナカ」事業を支えているのは、その収益率の高さである。nikkei4969の調べによれば、2007年の段階において、1平方メートルあたりの年間売上高は、小売業全体で66万円に対して、駅ナカでは513万円となっており、駅の中での事業展開が格段に優位であることがわかるだろう。


国土交通省「鉄道輸送調査」によれば、コロナ禍を経て、鉄道を利用する人々はコロナ前の80%ほどになっており、こうした「駅ナカ」事業も岐路に立たされていることに間違いはない。


一方で、駅ビル事業も含め、各社こうした駅での商業活動には積極的であり、その数は増え続けている。2000年代からの「駅ナカ」需要は依然として高いのだろう。


■一般化するポップアップショップ


今回の石川県の試みは、こうした継続的な駅ナカ需要の上に成り立つものであるが、そこにはもう一つ重要な要素がある。


「ポップアップストア」という店舗形態だ。近年、この商業形態が流行している。


そもそも「ポップアップストア」とは、特定の期間限定で仮設的に作られるショップだ。特にコロナ禍でのリアル店舗の不況を受けて、実験的に出店できるこの形態が流行し、最近新しくオープンした商業施設では、必ずといってもよいほど、ポップアップストア用のテナントが入っている。


例えば、大きな話題を呼んでいるのが、今年の4月にリニューアルオープン予定の渋谷TSUTAYAである。従来のレンタル事業から大きく路線変更をして、ポップアップストアを多く取り入れる


企業側や自治体側にとってみれば、短期かつ低予算での出店が可能だから実験的な試みや、顧客データの測定が可能。一方、消費者側にとってみれば、「期間限定」ということが訴求力となり、なおかつ同じ空間でも毎回異なるイベントを体験できるから、それだけ楽しみも増える。


とはいえ、ポップアップストアは「流行している」というより、「一般化した」という言い方のほうが適切かもしれない。商業誌「モダンリテール」は2024年のトレンドとして「ポップアップストア」は「out」(つまり、流行でなくなっていくということ)と予測する。もちろん、これはすたれているという意味ではない。


特にコロナ禍以後、日本だけでなく欧米諸国を含めて、ポップアップストア市場は活況を呈してきた。ちなみに2022年のアメリカではその市場規模は約7兆円にも及ぶという。日本国内におけるポップアップストアの場合、右肩上がりの活況期を経て、適正な規模に落ち着き一般化してきたと考えられる。


今回の石川県の取り組みも、アンテナショップがリニューアルするまでの施策として、自然な発想として「ポップアップストア」という選択肢が考えられたのだろう。それは、この商業形態が一般化してきたことを表しているのである。


筆者撮影
ショップに掲げられた看板 - 筆者撮影

■「街のスキマ」を探すトレンド


同時に、これは私見だが、近年の商業においては「街のスキマ」を探し、そこへ巧妙に出店する手法が進んできている。


「居抜き」出店はその代表例だ。2024年2月、ハンバーガーチェーンの「バーガーキング」が「バーガーキングを増やそう」というプロジェクトを打ち出した。


これは、消費者の地元にある空き物件で、バーガーキングが入ってほしいと思う物件をバーガーキングに送るというもの。2月5日の募集初日に約2万件もの投稿が来たという。バーガーキングはこれまでも意欲的に居抜き出店を行ってきたが、その延長線上で、消費者に「街のスキマ」ともいえる空き物件を探してもらう手法に出たのだ。


コンビニジムとして知られる「チョコザップ」も、居抜き出店で出店攻勢をかけている。2023年11月までに1160店舗までに増加。その多くが居抜き店舗である。


2024年2月7日にはフジテレビ朝のニュース番組「めざまし8」が「居抜き」物件の特集。それが商業のトレンドになっていることを象徴的に表すこととなった。


こうした「居抜き」のトレンドの出発点は1990年代。その先駆け的な存在が、ディスカウント・ストア「ドン・キホーテ」や新古書店「ブックオフ」だった。これらは郊外にある閉店したさまざまな店舗を居抜く形で出店を進めてきた。こうした先駆的な存在の手法を学ぶ形で、近年では居抜きでの出店が増えている。


今回開催された石川県のポップアップストアもまた、駅の中の空きスペースを活用して出店されたもので、やはり「街のスキマ」を見つけ出して、上手く出店を進めている。近年流行する「街のスキマ」トレンドにも乗る形で、今回の石川県の取り組みはあったと見ることができるのだ。


以上、石川県のポップアップストアについて見てきた。


① 駅ナカ需要の継続的な増加
② ポップアップストアの流行
③ 「街のスキマ」を見つけるトレンド


という3つが合流する地点に、ちょうど今回の被災地・石川の取り組みがあったことがわかる。今後も、こうしたタイプのアンテナショップが増えるのかもしれない。


なお、石川のポップアップストアは2月25日まで継続的に都内、およびその近郊で行われる。震災復興支援も兼ねてぜひ、訪れてみてはいかがだろうか。


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谷頭 和希(たにがしら・かずき)
ライター
1997年生まれ。早稲田大学文化構想学部卒業後、早稲田大学教育学術院国語教育専攻に在籍。デイリーポータルZ、オモコロ、サンポーなどのウェブメディアにチェーンストア、テーマパーク、都市についての原稿を執筆。批評観光誌『LOCUST』編集部所属。2017年から2018年に「ゲンロン 佐々木敦 批評再生塾 第三期」に参加し宇川直宏賞を受賞。
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(ライター 谷頭 和希)

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