「愛しててやばい」妻子ある上司に関係迫られ退職…セクハラ告発タグに積もる令和日本・女性社員たちの憤り
2025年2月14日(金)19時15分 プレジデント社
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kokoroyuki
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■「#私が退職した本当の理由」に6万7000件の投稿
「#私が退職した本当の理由」というハッシュタグをつけて、女性達が自身の退職のきっかけになった職場でのセクハラや性暴力、性差別などを次々にSNSで告発するムーブメントが起きている。2月2日時点で投稿件数は6万7000件超となり、SNSトレンドにランクイン。2月半ばの今も女性達からの告発の投稿は続いている。
例えば、新卒でソフトバンクに入社、営業に配属されたという女性は、社内からも取引先からも容姿をジャッジされ、「今年の新人はかわいくないだとか美人じゃないだとか」と言われた経験を告白。これには22万5000件以上の「いいね」がつき、同様の経験をした女性達からの共感と怒りの声が噴き上がった。
他にも「女性はホステス扱い、ホテル連れ込み、産めハラなどは当たり前」「契約くれるなら胸のひとつやふたつ喜んで揉ませなさいよと言われた」「彼氏がいると知ったとたん無視された」「トイレ掃除は女性だけの仕事」「同じ職場で結婚すると女性だけが退職させられた」などなど、その内容は多種多様。なかには具体的な会社名を明かす投稿もある。
■メガバンクに入行し、メンターからのセクハラで退職した女性
そうした中でも生々しい被害内容で注目されたのが、上司からのストーカーまがいのセクハラをLINEのやりとりのスクリーンショットも添えてポストした20代の「匿名」さん。投稿の理由についてこう語る。
「たまたまタイムラインに『#私が退職した本当の理由』というタグをつけた投稿が流れてきて、自分がメガバンク勤務時代、部長に退職の理由を伝えた日のことを思い出しました。私は表向きには『自分のやりたいことが見つかったから』というポジティブな理由を伝えましたが、実は上司のセクハラによって適応障害を発症してしまったんです」
匿名さんは2020年に厳しい就職戦線を経て新卒で入行、1年目は3〜5年目くらいの行員の女性が指導員としてついたが、2年目に30代半ばの男性Aさんがメンターとしてつくことになった。Aさんは既婚者。バリバリの体育会系で、営業成績が良く、匿名さんはその仕事ぶりを尊敬し、勉強させてもらいたいと思っていた。
だが、半年ほど経った頃にAさんに飲みに誘われ、飲みに行くと、帰り道にベタベタされ、好意を打ち明けられた。そこから飲みの誘いを避けるようになると、「お前、俺のこと嫌いなんか」といったLINEが送られてきて、以降、執拗なLINE攻撃が続いたという。
■既婚者なのに「愛しててやばい」など、執拗なLINE攻撃
「俺と付き合ったら絶対大事にするけどな」「愛しててやばい」「めっちゃ好きやわ」「はじめてなんやけど」「お前絶対俺みたいなやつの方がいいと思うわ」といった不倫を持ちかけるような内容や、深夜の電話もあった(画像参照)。
提供=「匿名」さん
メンターの男性から送られてきたLINE - 提供=「匿名」さん
「Aさんは奥さんとお子さんの写真をデスクに飾っているような方で、奥さんの話もよくしていたので、家族思いの方だと思っており、よけいにショックでした。Aさんからは気持ちの悪いLINEや深夜電話などが続き、管理職の男性に相談したところ、その人がAさんと仲が良かったこともあり、『自分の仲いいヤツのそういう話聞くの、キモくてやだわ』とか『若い女の子は大変だよな』みたいに流されて……。彼は部長や副部長にも意見を言えて、女性からも男性からも人気のある人だったので、思いきって相談したのに、そう言われてしまい、『この人もそういう人なんだ』と思い、もうダメだと思いました」
■管理職の男性は加害者と仲が良く、取り合ってくれなかった
同期の女性や先輩に話しても、「あるある」という反応や、「そういう発言は受け流して当たり前」という受け止め方ばかり。銀行内にセクハラパワハラ専門の相談窓口があることはコンプライアンス研修で周知されているものの、実際に利用する人はほぼおらず、毎日夜まで仕事に忙殺される中、連絡する時間もなかった。
また、過去には社内不倫で男女とも営業部署から外された例があったことも聞いており、念願の営業部署に配属された匿名さんは、別部署に異動したくはなく、大ごとにしたくないと思ってしまった。
「でも、結局、私は会社を休みがちになってしまい、産業医の紹介でメンタルクリニックを受診したところ、適応障害と診断され、休職を勧められました。耳鼻科では難聴になっているという診断も受け、復職する際には在宅勤務しやすい内勤の部署を勧められましたが、その時点で、私は転職しようと思っていました。Aさんも私の復職後は、さすがにバラされたらまずいと思ったのか、連絡してこなくなり、彼は何の処分も受けないまま、通常の人事で別の営業に異動になりました」
■ストレスで難聴と適応障害に、やむなく他業種に転職する
その後、匿名さんはITコンサルへの転職が決まり、退職することに。銀行を辞める時点で洗いざらいぶちまける手もあったが、「法的手続きに発展した場合には次の職場にスムーズに行くのが難しそうだと思ったこと、相手にはお子さんがいることもあり、大ごとにする必要はないと思いました。もう気力もなかったですし」と振り返る。
ちなみに、転職先のITコンサルには、こうした1対1のメンターとの密な関係性や飲み会の文化はなく、プライベートの連絡先を知っている人は、仲の良い同期や先輩ていど。一方、匿名さんの投稿に対しては、いくつかの銀行関係者からDMで「○○銀行の▽△さんですか」といった連絡が何件も来たそうだ。やはり銀行にはそうしたケースが多いのではと実感し、同じような境遇にある女性たちにはこんなアドバイスをする。
「私の場合、新人研修でベテランの女性行員の方から『自分も女性だからひどい目にあったけど、負けずにここまでやって来た、逆境を乗り越えて今がある』という話を聞いたんですね。それで、『セクハラなどもうまくかわすことが強さなんだろう』と思ってしまったところもありましたが、それは乗り越える必要なんてないから、ハラスメントの窓口や人事などに相談してほしいと言いたいです」
提供=「匿名」さん
提供=「匿名」さん
メンターの男性から送られてきた罵倒を含むLINE - 提供=「匿名」さん
■トラウマで、いまだに会社の男性とは打ち解けられない
匿名さんは今回、「#私が退職した本当の理由」タグに投稿して救われたところがあったのだろうか? そう尋ねたところ、こんな回答が。
「私は転職して1年経ちますが、いまだに会社の男性とプライベートでは一緒に過ごしたくないと、人間関係を塞いでいるような状態です。そんなトラウマを引きずる中、このタグを見つけて、このまま一人でグチグチ考えて潰れてしまうよりは、誰かの意識が変わっていけばいいなと思いました。タグで検索して、似たような目に遭っている女性がたくさんいることも知りました。励ましてくれたり、幸せを願ってくれたりする女性もいて、自分の思いを吐き出すだけでも少し楽になった気がします」
■「#私が退職した本当の理由」タグを作った人の思い
ところで、このムーブメントを巻き起こしたタグ「#私が退職した本当の理由」を作成したのは、Xアカウント名「EtsukoKawaji」さん。いわゆるインフルエンサーではない、パート勤務の40代女性である。
きっかけは、フジテレビの社長会見を見ている中、他にも性加害が理由で辞めた人がいたのではないか、辞めた人全員の本当の理由を聞いてみたいとつぶやいたところ、あるアカウントからタグを作ることを提案された。そこでタグを作ると、数名が熱心に拡散してくれたと言う。
「フジテレビの社長会見を見ていたとき、被害者の女性が仕事を辞めた理由が、表向きは体調不良とされているのを見て、身近な例を思い出しました。過去にかかわりのあった学校で、教員が生徒にわいせつ行為をして、それが問題になり、その先生が辞めることになったときの表向きの退職理由が体調不良だったんです。
その事件のことは誰もが知っていたのに、学校の上層部は『証拠がないから』と否定し、教員たちも、わいせつ行為があったことを認めませんでした。結果、加害者の教師は体調不良を理由に懲戒免職にもならず、普通の退職として去ったんですね。そこから、会社や仕事を通して立場を利用するようなわいせつ事件は、組織に責任があると考えるようになり、同様の被害者を出さないため、性加害事件について調べ、発信するようになりました」
■中学校教師などによる性加害事件に、強い疑問を抱いた
一昨年6月、4月に赴任してきたばかりの40代の中学校教諭の男性が男子生徒にわいせつ行為をし、逮捕された事件もあった。これは新聞でも報じられているが、その教諭は実は前任校でもわいせつ行為をし、市教育委員会もその情報を把握していたと言う。
「なぜ前任校でわいせつ行為をした教員を受け入れたのか、校長先生に直接聞いたんですね。すると、校長とその教員が若い頃に一緒だったことを理由に、教育長から受け入れを頼まれたというのです。教育長はいまも在任中で、私は市長に10枚ほどの文書と裏付けとなるデータを送りましたが、何の反応もありませんでした」
EtsukoKawajiさんは半年前ぐらいから性加害をなくす宣言をし、ネット上だけでなく、地域活動も行っている。今後は痴漢や盗撮防止のためのパトロールや、バッジを作って啓蒙活動を行うことも検討中という。
■セクハラを受けた女性側が仕事を失うという問題
「どうしたら性加害がなくなるかをずっと考えてきました。問題がありすぎるんですね。まず心身の健康を崩すという問題もあるし、まさに『#私が退職した本当の理由』に投稿されている例のように、女性が仕事を失って収入が激減することもあるし、子どもだったら学校生活が送れなくなったり、勉強ができなくなったりとか、親からの加害の場合は、家族関係や本人の人間性にまで影響します。
写真=iStock.com/mapo
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/mapo
警察で無視されたり、頑張って訴えても不起訴になったり、刑罰が軽すぎたりして、みんなそれを他の人のせいにするんですよね。これは警察の問題だろうとか、弁護士はこう言うとか、男の部屋について行ったほうが悪いとか。結局、法律や仕組みが変わっても、社会全体の空気が性加害に甘ければ、何も変わらない。だから私は社会の空気を変えたいんです」
■勇気ある告発で、日本でも「MeToo」の機運が高まってきた
驚くべきは、SNSでタグ付きで語られている告発の内容が、女性にとってはどれも珍しくなく、だれもが経験した、あるいは見聞きしたことのある「あるある」ばかりだということ。にもかかわらず、前出の匿名さんのように、それをがまんするのが当たり前だと言われてきた。
しかし、元TBS記者からの性被害を訴えた伊藤詩織さんや、元自衛官の五ノ井里奈さん、元舞妓の桐貴清羽さん、さらにジャニー喜多川氏や映画監督から被害を受けたという人たちが声を上げ、その勇気ある告発に背中を押され、日本でも「#MeToo(ミートゥー)」の機運が高まってきた。
そこに芸能人だけの話ではなく、フジテレビという大企業の社長が責任を取り辞任という事態になったことで、一般の会社勤めの女性たちも、これまで胸にしまっていた思いを打ち明けられるようになったのではないか。
「#私が退職した本当の理由」はそうした溜まりに溜まった憤りを噴出させる一つの大きなきっかけになったのだろう。
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田幸 和歌子(たこう・わかこ)
ライター
1973年長野県生まれ。出版社、広告制作会社勤務を経てフリーライターに。ドラマコラム執筆や著名人インタビュー多数。エンタメ、医療、教育の取材も。著書に『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)など
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(ライター 田幸 和歌子)