日本の家は命にかかわるほど寒い…一級建築士が「断熱リノベなら絶対ここ」と断言する最も効果が高い場所

2025年2月15日(土)7時15分 プレジデント社

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Yusuke Ide

WHO(世界保健機関)は、呼吸器系・心血管疾患のリスクを下げるため、冬季でも住宅の室温は18℃以上とするよう強く勧告。高断熱住宅を設計・推進してきた建築士の松尾和也さんは「日本には実質的に無断熱に近い住宅が7割もある。高断熱住宅を新築するのは予算的にムリでも、今の家に高断熱工事をすることはできる」という——。

■窓ガラスが結露、床が冷たい、そんな家に住み続けてはいけない


寒さのピークは過ぎつつありますが、この冬、みなさんのおうちは暖かかったでしょうか?


暖房をつけても床が冷たかったり、ガラス窓が結露したり、お風呂場が寒くてヒートショックにならないかと心配したりしませんでしたか。


寒い室内は健康や寿命に影響します。例えば浴室。私は、高断熱住宅を提案する建築士として、ユニットバスではない、昔ながらのタイル張りの浴室を使い続けると、いつヒートショックになってもおかしくない、まるでロシアンルーレットのようだと指摘してきました。


そのように古い一軒家は、マンションに比べて寒いもの。ただ、「木造住宅=マンションより断熱性能が低くて寒い」というのは、もはや古い常識になりつつあります。


写真=iStock.com/Yusuke Ide
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Yusuke Ide

木造でも断熱グレードの3段階G1、G2、G3のうち、G2以上にランクされる住宅なら、マンションと同レベルか、それ以上に室温を高く保てます。


G2とは、冬期の最低体感温度が全国を北から南まで8つにエリア分けした中で「3地域(盛岡市・青森市など)〜7地域(鹿児島市・高知市)で室温が概ね13℃を下回らない性能」。東北地方から沖縄の家であれば、省エネを考慮しながら冬場の室内体感温度13℃以上を保てる性能ということです。


■新築の高断熱住宅がムリなら、200〜300万円で高断熱リノベを


これから家を建てる人はぜひG2以上の高断熱住宅にして、そこで夏涼しく冬暖かい暮らしをしてもらいたいですが、この3、4年、「ウッドショック」と呼ばれる木材の高騰があり、注文住宅を建てるのには、それなりに予算がかかるようになってしまいました。住むエリア、住宅の広さにもよりますが、土地代を含まない建設費が最低でも2000万円はかかると考えてください。多くの場合は3000万円台に乗ってくると思います。


それでも、断熱性が高くて光熱費というランニングコストが抑えられることを考えると、数十年にわたるトータルの出費はけっして高くはなりません。現在30代ぐらいでその後50年ぐらい住める家を建てたい人は、ぜひ高断熱の注文住宅か間取り図が決まっている規格住宅をおすすめしますが、今、数千万円で新築の家を建てることを決断できない人は多いでしょう。


しかし、健康や寿命への影響を考えても、高断熱の自宅をあきらめるべきではありません。「新築高断熱住宅が買えないなら高断熱リノベ」という手があります。


築数十年の古い一軒家はもちろん、築20年以上であれば、ある程度お金をかけてリノベーションし、断熱性を高める。これなら予算に応じて数十万からできますし、トータルでも200〜300万円ほどで可能だと試算します。現在60代ぐらいで、築30年前後のわが家に老後も住み続けたいというような場合は、ぜひ検討してください。


■この5つを実行すれば、築数十年の木造住宅でも暖かくなる


補強・改修ならば「リフォーム」では? と思うかもしれません。リフォームとは老朽化した建築物を新築時の状態に戻すということなんですね。例えば、便器が古くなったから新しく交換するか、もしくは壁が汚れたから新しいクロスに張り替えるといったようなことです。


それに対して「リノベーション」とはどういうことかというと、既存の建築物に工事を加え、元の状態より価値を高めることです。


「高断熱リノベーション」という言葉はまだ一般化していませんが、住宅の見た目とか価値向上だけではなく、高断熱化、省エネ化、耐震化を同時に行うことだと、私は定義しています。


どれだけインテリアにこだわるかというのは予算しだいですが、まず冬の寒さをしのぐために、絶対にやってほしいのは、以下の5項目です。


効果の高い「高断熱リノベ」5項目

窓の高断熱化=リビング15万円、寝室10万円、トイレなど
床断熱補強=1階床のみ、25万〜
天井断熱補強=屋根の断熱をウレタンで ※夏の効果が高い 30万〜
ユニットバス化=浴室の床や壁がタイルであれば交換・修理 80〜120万円
給湯器交換=プロパンガス、電気温水器(エコキュートを除く)は交換してエコキュート40万


■最も重要で効果が高いのは「窓の断熱化」


まず「窓の断熱化」。私は2010年ごろから断熱化における窓の重要性を訴えてきました。住宅業界ではようやく常識となった感がありますが、これが最も効果が高いです。窓は人間の体に例えるなら「手」です。冬場、暖かいコートを着ていても、手袋をはめていないと体が冷たくなってしまうように、住宅にとって外気にさらされる窓は最も無防備なところ。外の冷たさを室内に伝えてしまいます。


写真=iStock.com/Daniel Wischenbarth
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Daniel Wischenbarth

これはマンションも含めて、古い住宅の大半はペアガラス(二重窓)でも樹脂サッシでもありません。断熱性が低いアルミサッシが主流なので、本来なら外壁も含めて工事し、樹脂サッシの窓に交換するべきですが、それには数百万円かかります。


となると、樹脂サッシの「内窓」を付けて二重にするのが現実的でしょう。この費用が、窓の大きさと枚数にもよりますが、リビングの窓に15万円、寝室の窓に10万円かかるとしましょう。家族の個室などは換算していませんが、居る時間が長いリビングや寝室などを優先して考えます。


とにかく窓の断熱化は最初にやるべきですし、たとえ他の断熱化をする予算がなくても、窓だけはするべきです。


■築20年以上なら「1階の床の断熱化」もしておきたい


次に効果があるのが、床の断熱化。床の裏側に断熱材を張ることになりますが、床下に人が潜って作業できる高さなら可能です。これが平均的な住宅の1階全体で25万円ほど。


本当に古い住宅になると、床下に断熱材がまったく入ってない。または、築20年以内なら断熱材は入れてあるけれど、本当に気持ち程度で、気密性が確保できていないという場合が多い。そこで、発砲ウレタンの吹きつけを床下ですることができれば、床を剥がさずに、断熱性と気密性を一気にアップすることができます。


床の断熱は夏の暑さにも効果的ですが、特に冬において、床の断熱化の効果は絶大です。床裏に外の冷たい風が流れているから足元がスースーして、冷えて仕方がないという話になるんですが、これがピタッと止まります。


また、気密性が取れたことで、下から冷気が上がってきにくくなるので部屋全体に暖気が循環し温まりやすくなります。


■天井の断熱補強、給湯のエコキュート化も外せない


もちろん、天井の断熱補強も同様に行うべきです。こちらも屋根裏、天井の上に人が入れれば可能です。これも冬の防寒にはもちろん、夏の断熱効果が高く、古い家でよく2階に上がると室温がグッと上がって、むっとしますが、そういったこともほとんどなくなります。


そして、台所や浴室の給湯をエコキュート(自然冷媒ヒートポンプ給湯器)に交換することでも、省エネになります。各メーカーから出ているエコキュートは40万円ほどしますが、電気温水器から交換した場合は約7年、プロパンガスから換えた場合は約4年で、光熱費が安くなることで原価を回収できます。


また、昔ながらのタイル張りの浴室はロシアンルーレットだと言いましたが、それをマンションのようなユニットバスに替えることも、ぜひやっていただきたい。ユニットバスにはたくさんのメリットがあり、まず高断熱浴槽なのでお湯が冷めにくい、壁や天井にも断熱材が仕込まれている製品ならば手軽に高断熱化でき、浴槽から洗い場に上がったときの温度差も少ない。工期は短く水漏れはほとんどありません。


写真=iStock.com/mapo
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/mapo

ただ浴室の床がタイル張りになっているような在来浴槽を使ってきた場合は、その下、足下の柱が腐っています。私がこれまでリノベーションしてきた例では100%の家で腐っていたので、そう断言できるのですが、当然、この修理をすることは必要です。


■100万円前後かかるが、ヒートショック予防のためユニットバス化を


昔ながらの浴槽は、張ったお湯が41度ぐらいだと、すぐ冷めるんですよね。せっかく給湯をエコキュートにしても、お湯がすぐに冷めてしまったら、もったいない。つい温度を上げてしまって、浴槽から出たときの温度差が激しくなることにもつながる。


一方、ユニットバスの高断熱浴槽であれば、ちゃんと蓋を閉めれば6時間で2度しか下がりません。高断熱浴槽は発泡スチロールのような材料で、浴槽の外側をすっぽり囲ってあります。


リノベの予算としては一番お金のかかるところで100万円前後かかってしまいますが、ヒートショック予防という命の問題と、光熱費という家計の両方の意味でユニットバス化は欠かせない大事な項目だと思います。


この5項目でおよそトータル215万円から。既に浴室がユニットバスであれば、100万円ぐらいで収まります。安い金額ではありませんが、断熱リノベをした人が後悔している様子を見たことはありません。逆に、室温があまりにガラッと変わるので、「なぜもっと早くやらなかったんだろう」と言っている人が多いです。


出典=消費者庁「冬季に多発する高齢者の入浴中の事故に御注意ください!
出典=消費者庁「冬季に多発する高齢者の入浴中の事故に御注意ください!

■断熱リノベをした家に住むだけで病気の予防にもなる


断熱リノベをする際は、断熱のことがちゃんと分かっている工務店、リフォーム専門会社に相談してください。ひとつの目安としては「家の気密性測定をしたことはありますか?」と質問してみて、そういった検査をちゃんと行っている会社なら、信用できると思います。


そして、今年の夏も猛暑が心配ですが、次に来たる冬こそ、今のような寒い思いをしないように家の快適度を上げてほしいですね。


考え方としては、断熱性の低い家に住み続けるよりも、確実に光熱費は下がるし、病気を予防できて医療費も下がる可能性が高い。家が寒すぎると、ヒートショックの危険性はもちろん、高血圧が起こりやすいなど、さまざまな疾患リスクが上がるという研究が報告されるようになってきています。


いわゆる「1次予防」に当たるわけですが、住まいを断熱化すれば病気になるリスクは大幅に下がる。日頃の生活で健康な状態をキープするには「食事・睡眠・運動」という三つの要素が重要ですが、食事や睡眠に気を付けなければいけない、運動なんて自分の根性が全てなので続けられるかどうかわからない。でも、暖かい家に住むだけで、特に自分の労力はかけなくても健康に寄与できるわけなので、リノベーションの費用をかける価値は十分にあると思います。


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松尾 和也(まつお・かずや)
松尾設計室代表取締役、一級建築士
設計活動のほか、住宅専門紙への連載や「断熱」「省エネ」に関する講演など、多岐にわたって活躍。著書に『お金と健康で失敗しない間取りと住まい方の科学』(新建新聞社)など。
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(松尾設計室代表取締役、一級建築士 松尾 和也)

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