「記憶力の悪い老人」バイデン大統領は不人気…アメリカで「トランプ再登板」が既定路線になりつつあるワケ

2024年2月17日(土)13時15分 プレジデント社

2024年2月10日、サウスカロライナ州コンウェイで行われた“Get Out the Vote”集会で演説する元米国大統領のドナルド・トランプ氏 - 写真=AFP/時事通信フォト

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今年11月のアメリカ大統領選に向けた共和党候補指名争いで、トランプ氏が優勢を保っている。政治ジャーナリストの清水克彦さんは「高学歴で高所得の白人層からも支持を得ていて、民主党の支持層にも食い込んでいる。大統領に再選することを想定し、日本は『トランプ氏の友人』を作っておく必要がある」という——。
写真=AFP/時事通信フォト
2024年2月10日、サウスカロライナ州コンウェイで行われた“Get Out the Vote”集会で演説する元米国大統領のドナルド・トランプ氏 - 写真=AFP/時事通信フォト

■民主党支持者も認めるトランプの強さ


「ドナルド・トランプは強い。選挙キャンペーンを、ごく少数の忠実な側近に仕切らせ、前回はトランプ氏に投票しなかった有権者にも食い込んでいる」


筆者にこう語るのは、長年、アメリカのFOXテレビで長く政治討論番組などを制作してきた女性プロデューサーだ。


FOXと言えば、「We Report, You Decide」(私たちは報道する、それを判断するのは貴方)を貫いてきた放送局だ。共和党寄りで、トランプ政権時代は、CNNテレビなどが「フェイクニュースを流している」として遠ざけられる中、唯一、優遇されたメディアだ。


ただ、彼女は黒人で民主党支持者だ。ワシントンDC郊外の民主党支持者が多い地域に住み、前々回はヒラリー・クリントン氏、前回はバイデン大統領に投票している。そんな彼女が、今の空気感を伝えてきたのが先のメールである。


事実、トランプ氏は、共和党候補指名争いの序盤戦、アイオワ、ニューハンプシャー、ネバダと、3つの州で行われた党員集会や予備選挙で圧勝した。その強さは、第2戦となったニューハンプシャーでの予備選挙に見ることができる。


■「高学歴で穏健派の白人」からも支持を得ている


トランプ氏はこの予備選挙で54%あまりの票を得て、ライバルのニッキー・ヘイリー元国連大使が獲得した43%あまりの票に10ポイント以上の差をつけ完勝した。その背景には、トランプ陣営が「高卒以下の白人票」を確実に得たことがある。


CNNテレビなどをもとにした筆者の分析では、大卒の55%がヘイリー氏に投票した反面、高卒の66%がトランプ氏に投票している。人口比で言えば高卒人口の方が多く、この差がそのまま得票差につながったと言っていい。


ニューハンプシャー州は、穏健派が多く住む地域で、トランプ氏の岩盤支持層である保守層、なかでもキリスト教福音派の住民の割合が初戦のアイオワ州より低い。また、共和党員でなくても投票ができるという特徴がある。


しかし、トランプ氏は、福音派だけでなく、都市部や都市部の郊外に住む「高学歴で穏健派の白人層」からも55%程度の票を獲得した。また、29歳以下の若者層や65歳以上の高齢者層でも過半数の支持を獲得した。


■アメリカ人がトランプ氏の再登板を望む理由


つまり、トランプ氏は、岩盤支持層を固めながら、本来であればヘイリー氏が強いはずの高学歴で高所得の有権者、そして、大統領選挙本番では民主党のバイデン大統領に投票しそうな有権者にも、一定程度、食い込んだことになる。


トランプ氏は、2月24日、ヘイリー氏が知事を務めたサウスカロライナ州の予備選挙でも圧勝すると見られ、そうなれば、各州の予備選挙や党員集会が集中する3月5日のスーパーチューズデーを待たず、「共和党候補はトランプ氏」となる公算が大きい。


今や共和党は、ヘイリー氏の支持者を除き「トランプの党」だ。共和党支持者は、元来、高学歴で高所得層が多い。その中で拡がる「バイデン政権下でアメリカは相対的に弱くなった」との不満、大型減税への期待などが、トランプ氏の支持層を分厚くしている。


■91の罪に問われている現役の「被告」だが…


トランプ氏がホワイトハウスを奪還するには、以下の2つのハードルがある。


(1)4つの事件で起訴されている点

「不倫口止め」「機密文書持ち出し」「連邦議会襲撃事件の扇動」「ジョージア州で大統領選挙結果を覆すため集計手続きに介入」の4つの事件で91の罪に問われ、トランプ陣営は、選挙戦と裁判の「両面作戦」を強いられている。


(2)副大統領候補を誰にするかという点

副大統領候補は「ランニングメイト」と呼ばれ、長い選挙戦を戦ううえで重要。大統領候補が弱い州、弱い分野、弱い支持層を埋められる人物を指名する必要がある。


筆者は、トランプ陣営がこれら2つともクリアしつつあると見ている。


上記のうち、(1)でもっとも問題なのは「連邦議会襲撃事件の扇動」だ。すでにコロラド州などでは、トランプ氏は、アメリカ合衆国憲法「修正第14条3項」の規定により、反乱に関わった人物は公職に就けない=大統領選挙に出馬する資格がないとの司法判断が出されている。


しかし、2月8日、アメリカ連邦最高裁判所で開かれた口頭弁論で、判事(9人のうち3人がトランプ政権下で任命された判事)からは、この判断に懐疑的な意見が相次いだ。


それに先がけ、ワシントンにある連邦地方裁判所は、3月4日に予定されていた初公判の日程を無期限延期としている。トランプ陣営からすれば、裁判を大統領選挙後まで遅らせ、それまでに、万一、「クロ」と判断された場合でも、当選すれば、自身が指名する司法長官に起訴を取り下げさせるという形が出来上がりつつあるということだ。


■バイデンは「記憶力の悪い老人」と不評


(2)の副大統領候補に関して言えば、トランプ氏は、「黒人か女性」を想定している。筆者は、黒人なら、大統領候補指名争いから撤退しトランプ氏支持に転じたティム・スコット上院議員(58)、女性であれば、サウスダコタ州知事でトランプ氏に近いクリスティ・ノーム氏(52)、もしくは、連邦議会下院で共和党ナンバー3のエリス・ステファニク下院議員(39)が有力だと見ている。


いずれもトランプ氏への忠誠心が強く、「黒人か女性」であれば、無党派層やマイノリティーの有権者からも支持を得やすい。バイデン大統領が再びコンビを組むであろうインド系の女性副大統領、カマラ・ハリス氏(59)に見劣りすることも全くない。


逆にバイデン大統領は、このところ、フランスのマクロン大統領を「ミッテラン……」と呼び、ドイツのメルケル前首相を「コール……」と言い間違えるなど、「記憶力の悪い老人」「81歳のバイデン氏に、あと4年は無理」という印象が定着してしまった。最新のABCテレビなどによる世論調査(2月9日〜10日実施)でも、有権者の86%が「2期目を務めるには高齢すぎる」と回答している。


今、アメリカは、投票行動を左右する雇用や消費が堅調で、普通なら現職が有利になりそうなものだが、バイデン大統領の失態が、この先もトランプ氏(彼も77歳とかなりの高齢だが)を後押しすることになるだろう。


写真=iStock.com/JannHuizenga
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/JannHuizenga

■トランプ氏には唯一無二の突破力がある


バイデン大統領としては、インスタグラムのフォロワーが2億8000万人を誇る人気歌手、テイラー・スウィフトさんらの後押しを得て支持を拡大したいところだ。


ただ、大統領選挙の度に繰り返される「4年前よりアメリカは良くなったのか?」や「尊敬される国家なのか?」の問いに答えられる実績を、特に対ロシア、対中東などの面で打ち出せていないことも、新たな支持層を獲得できていない要因である。


筆者の友人でアメリカ議会での勤務経験も豊富な早稲田大学教授の中林美恵子氏は、バイデン大統領とトランプ氏の再戦になりそうな現状を「ホラー映画を見ているよう」と語る。


まさに同感だが、正直に言えば、筆者はこれまでトランプ氏を支持してきた。「メキシコとの国境に壁を作る」とか「パリ協定から即離脱する」など、公約自体はとんでもないものばかりだったが、政治のリーダーに不可欠な突破力で、その大半を実行したからである。


大統領制と議院内閣制の違いこそあるものの、日本の首相がトランプ氏であれば、薄汚い派閥政治などとっくに終わらせ、賃上げも減税もトップダウンで実現したに相違ない。


■「ロシアに好きなようにやらせる」と発言


ただ、トランプ氏が大統領に返り咲けば、国際社会は言うに及ばず、日本で暮らす私たちにも影響が出てくる。そのキーワードは4つの「見捨てる」だ。


(1)ウクライナを見捨てる

「Make America Great Again」を掲げるトランプ氏は、財政悪化の要因となっているウクライナへの支援を停止、もしくは大幅に縮小するだろう。そうなれば、ウクライナのゼレンスキー大統領は、領土を奪われた状態でロシアとの戦争終結を模索せざるを得なくなる。


その結果、日本の食卓にも関わる小麦などの価格相場はロシアが握ることになる。トランプ氏は、「軍事費の負担を増やさなければ同盟国を守らない。ロシアに好きなようにやらせる」とも語っている。アメリカとヨーロッパの関係悪化は避けられず、日本も外交戦略の練り直しを迫られる。


(2)台湾を見捨てる

トランプ氏は大統領時代、アメリカと台湾の高官が相互に往来できる「台湾旅行法」と台湾への防衛装備品売却や移転を奨励する「台湾保証法」を成立させたが、今年1月20日、FOXテレビのインタビューで、「北京が武力攻撃した場合、台湾を守るかどうか」という質問には答えず、「台湾がアメリカの半導体事業を奪った」と批判している。中国と台湾との間で衝突が生じそうな場合でも、アメリカ軍を動かさないことも考えられる。


当然、日本は独自で防衛力を強化し、有事に備える必要がある。


■金のかかる在日米軍をそのままにはしない


(3)日本を見捨てる

在韓米軍約3万人を撤収、もしくは大幅に縮小させ、在日米軍約5万人に関しても駐留経費の増額を求めてくる可能性が高い。


自動車など自国産業を守りたいトランプ氏は、全輸入品に10%の関税をかけ、中国からの全輸入品にも、「中国経済が悪化している今こそ攻めどき」と60%以上の高い関税を課す可能性がある。


この場合、日米韓の関係が揺らぎ、日本の輸出産業がダメージを受け、中国の株価暴落や不動産不況が日本にも悪影響をもたらすリスクが高まる。中国にとっても何をするかわからないトランプ氏が再び厄介な存在になる。


(4)パレスチナを見捨てる

トランプ氏がバイデン政権以上にイスラエル支持を打ち出すのは確実だ。そうなれば、イランをはじめとする中東諸国がイスラエルとハマス(あるいはパレスチナ)の戦争に参戦しやすくなる。中東危機に陥れば、ガソリン価格がさらに上がるだろう。


■北朝鮮が「トランプ大統領再任」を歓迎する理由


国内的には、移民排斥に銃規制の撤廃……。こうしてみると、恐怖政治の再来と言っていい。トランプ氏自身、「大統領に就任した初日だけ独裁者になる」と語っている。その日に、どんな大統領令を出すかで国際社会は大きく変わってしまうだろう。


そんなトランプ氏の再登板をもっとも望んでいるのは北朝鮮だ。金正恩総書記からすれば、「相手にしてほしければ核を放棄しろ」と迫るバイデン大統領とは違い、直接会談もしたトランプ氏なら、核を保有したまま取引ができる。


北朝鮮は、今後もロシアと蜜月関係を築き、技術供与を受け、トランプ氏再登板の前にさまざまな兵器の開発を進めるに違いない。


■トランプ氏の友人になれる日本の政治家はだれか


日本にとって痛いのは、安倍晋三元首相がこの世にいないことだ。自民党の麻生太郎副総裁が1月9日から13日まで訪米し、ロックフェラー家を仲介して、トランプ氏との面会を試みたが、実現しなかった。


安倍元首相は、2016年11月17日、つまりトランプ氏が大統領選挙で勝利した直後、ニューヨークへ飛び、トランプタワーで面会に成功した。その後、安倍元首相は、政治面ではアウトサイダーだったトランプ氏に、国連やサミットなどでの振る舞い方を伝授し、信頼関係を築いた。


トランプ・タワーでトランプ氏と談笑する安倍晋三氏(2016年11月17日)(写真=首相官邸ホームページ/CC-BY-4.0/Wikimedia Commons

今、日本の外務省は、安倍元首相が良好な関係を構築してきた経緯などを調べながら、「もしトラ」(もしもトランプ氏が再登板したら)が、「またトラ」あるいはもっと確度が上がり「ほぼトラ」「確トラ」になるケースに備え対策を急いでいる。


岸田文雄首相にとっては、4月に国賓待遇で訪米する機会に、バイデン大統領との会談や現地での演説などの日程を縫って、トランプ氏側と何らかの接触はしておきたいところだ。


もちろん、返り咲いたトランプ氏と向き合うのは岸田首相とは限らない。そのときの首相がだれであれ、日本政府として、今からトランプ氏を「友人」と呼べる位置づけにしておくことが、「またトラ」になったときの衝撃を緩和する唯一無二の策だ。


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清水 克彦(しみず・かつひこ)
政治・教育ジャーナリスト/大妻女子大学非常勤講師
愛媛県今治市生まれ。京都大学大学院法学研究科博士後期課程単位取得満期退学。在京ラジオ局入社後、政治・外信記者。米国留学を経てニュースキャスター、報道ワイド番組プロデューサーを歴任。著書は『日本有事』(集英社インターナショナル新書)『台湾有事』、『安倍政権の罠』(いずれも平凡社新書)、『ラジオ記者、走る』(新潮新書)、『中学受験』(朝日新書)、ほか多数。
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(政治・教育ジャーナリスト/大妻女子大学非常勤講師 清水 克彦)

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